第三章 獣人の冒険者クロエ(1)

 昨日は部屋で今後のことを考えているといつの間にか寝落ちしてしまい、夕食時に起こしてもらった。食後、シャワーを浴びた俺はそのままベッドに横になり気付いたら朝を迎えていた。

「やっと落ち着けると気が緩んだのかな?」

 家を追い出され、宿を探し、金欠状態から脱し、少しは暮らせるようになった。

 だからそれまで気を張っていたのが解けたんだろう。

「んっ、ジン、どうした。手が止まっているが、なにか食えないもんでもあったか?」

「ああ、いやちょっと考えごとをしていただけだ」

 俺が考えごとをしていると、心配した様子でリカルドから声を掛けられ、俺はそう返した。

 その後、朝食を食べ終えた俺は昨日の報酬を受け取りにギルドへと向かった。

「ジンさん、今日も早いですね」

 ギルドに着き、パートナー登録者専用の窓口でフィーネさんを呼んでもらうと、奥からそう言いながら彼女が出てきた。

 それから俺はフィーネさんに連れられ、相談室の方へと移動した。

「まず、こちらは昨日の報酬です。パートナー手数料は差し引いていますのでご確認ください」

「……はい、確認しました」

 受け取った麻袋の中身に手数料を引いた報酬が入っているのを確認して、俺は【異空間ボックス】に入れた。

「その……、昨日お聞きできませんでしたが、ジンさんのその収納スキルはどれほどの容量なんですか? オーク五体をポンッと出していたのでかなりの量が入るのは、すでに確認していますが」

 ……そういえば、容量ってどのくらいあるんだろう?

 ゲームではインベントリがあって、こんなスキルは必要なかったからスキルの効果を完全に把握してなかった。

「たくさん入るのは確認していますけど、どのくらい入るかは検証してないですね」

「オーク五体分以上の容量はあると、現段階ではわかってる感じですかね?」

「そうなりますね。今後、検証をしてどのくらい入るかわかったら、また報告しますね」

「よろしくお願いします。大容量の収納スキル持ちの人しかできない依頼などは報酬もかなり高いので、わかり次第教えていただけたらご紹介できます」

 そんな依頼もあるのか、ゲームにはなかった依頼だな……。

 まあ、でもそうか。この世界だと、収納スキルはレアスキルの一つ。

 特別なスキルがないと受けられない依頼は報酬を高くして、やってもらおうというのが依頼者側の考えなんだろう。

「ただ、今でもオーク五体分のスペースはあるとわかっていますので、それくらいの収納スキル持ちの人ができる依頼を今後ご用意しておきますね」

「わかりました。よろしくお願いします」

 フィーネさんの言葉にそう俺が返すと、本日の依頼の話へと変わった。

「そういえば、ジンさんは今後もソロで活動をしていく予定ですか?」

「そこに関しては今のところそこまで考えてないですね。仲間が居たら居たで依頼の幅が広がると思いますが、現時点は自分一人で完結してしまうので」

「そうですね。剣術に魔術、どちらにも才能があり、さらには収納スキルも持っているので何も困ることはないですね」

 俺の実力を知るフィーネさんは、あきれた感じにそう言った。

「まあ、でも仲間はほしいですね。せったくして強くなるとか、ぼうけんたんの王道ですから」

「あら、ジンさんって意外とそういうのがお好きなんですか?」

「好きですよ。特に冒険物は」

 とは言っているが、こちらの世界の冒険譚はほとんど知らない。

 俺が好きと言っているのは、前世で読んでいたラノベのことだ。

「でしたら、私の方でジンさんに合いそうな方を探しておきましょうか? そういったこともパートナー登録者の方に行っていますので」

 フィーネさんの言葉を聞き、そういえばパートナー登録にはそういったサービスもあったなと思いだした。

「あ~、でしたら紹介してもらってもいいですか? 自分で探すのは苦労しそうなので」

 交友関係ゼロのため、話しかける相手すら限られている俺はそのサービスを使わせてもらおうと考えた。

「わかりました。それでは、こちらでジンさんに合いそうな方を探しておきますね。相手に関して、特に要望はないですか?」

「特にないですね。ただ一つ、口が堅い方がいいですね」

「……そうですね。ジンさんの能力を言いふらすような方だと、ジンさんにご迷惑をおかけすることになりそうですね。わかりました。探しておきます」

 その後、俺はフィーネさんに用意してもらった討伐系の依頼を受け、王都の外へと向かった。


 すでに何度か王都の外に出ていて、ゲーム知識もある俺は依頼書に書かれていた魔物の生息地帯に向かう。すると一人の冒険者が魔物と戦闘をしていた。

「フィーネさんの話だと、こっちに依頼で向かった人は今日は居ないって聞いていたが?」

 そう思いその冒険者を見ていると、三体の魔物に押され気味で傷も負っていた。

「おい! そこの冒険者! すけが必要なら、助けるぞ!」

「ッ! た、頼みます!」

 もしやと思い声を掛けると、冒険者は俺の方を一瞬見てそう叫んだ。

 その返答を聞いた俺はその場から魔法を放ち、魔物を冒険者から遠ざけた。

 そして、まだ生きている魔物の首をこの数日世話になりっぱなしの【風魔法】で刈り取り、絶命させた。

 魔物が息絶えたのを確認した俺は、地面に座り込んでいる冒険者の方へと近寄った。

「大丈夫か?」

「あっ、うん。大丈夫、助けてくれてありがとう」

 息切れしているなか、その冒険者はそうお礼を述べた。

 目の前の冒険者は革製の装備に身を包んでおり、獣人族らしい耳としっを生やした、黒髪黒目で同じとし頃の少女だった。

 そして女性に肩を貸してその場から離れ、魔物が近付いてきたらすぐにわかる安全な場所へと移動した。

 移動中互いに自己紹介をして、女性の名前がクロエということがわかった。

「なあ、なんであんなところに一人で居たんだ? この辺りに依頼で来ている冒険者は居ないってギルドで聞いているぞ?」

「……その、実は私もこっちに来る予定はなかったの。仲間たちに魔物のおとりにされて逃げ回ってるうちにこっちまで来ちゃったの」

「囮? それって、冒険者のおきてで一番やっちゃいけないやつだろ……」

 クロエが口にした内容に俺は驚きながらそう言った。

「うん、私も囮にされてすごく驚いたよ。昨日まで笑い合っていた仲間達が、自分が助かるために私を犠牲にすることに躊躇ためらいがなくて……」

 震えながらそう口にしたクロエに、俺はなんと声を掛けていいのかわからなかった。

 その後、ひとまずクロエを連れて先ほどの場所に戻り、依頼書の魔物を討伐して王都に帰還することにした。

「ジン君、凄く強いね。私を助けくれた時も一瞬で魔物を倒したから強いんだろうなって思ってはいたけど、さっきの戦いで確信したよ」

「ありがとう」

 をキラキラと輝かせるクロエに褒められた俺は、素直にそうお礼を言った。

 その後、王都に戻った俺達はその足で冒険者ギルドへと向かった。

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