第三章 獣人の冒険者クロエ(2)

「だから、あいつが勝手に居なくなったんだよ!」

 ギルドに入ると、なにやら冒険者達が受付で言い合いをしているのが見えた。

 そしてその冒険者の対応をしていた受付係が入り口にいる俺達に気が付くと、驚いた顔をして「クロエさん!」と叫んだ。

 その受付係の言葉に、言い合いをしていた冒険者達もこっちを見て「ク、クロエ!?」と驚いた顔をした。

「もしかしなくも、あいつらがクロエの仲間なのか?」

「……うん。それで言い合いをしている受付係の方が、私のパートナー登録をしているギルドの人だよ」

 ギルドまで来る間、俺とクロエは少し互いのことを話していた。

 その話のなかで、クロエはこの世界では珍しく、冒険者として活動を始めてからすぐに〝パートナー登録〟をしていると聞いた。少ないと聞いていたなかで、まさか俺と同じように新米の頃から使っている人がいると知って内心で俺は驚いた。

「ごめんね、ジン君。たぶん、この後話し合いに巻き込むかも」

「いいよ。話を聞いた時から、そうなるだろうって思っていたし、それに証人が居た方がクロエも助かるだろ?」

 そう言って俺達は、クロエの名を叫んだ受付係のところへと向かった。

「な、なんでクロエがここに」

「さっき振りです。どうしたの、私が生きているのがそんなに驚くことかしら?」

 クロエは驚く元仲間達に対して、ニコッと笑みを浮かべてそう言った。

 それからクロエはパートナーである受付係に今日の出来事を伝え、俺も一緒にその証言をした。

 その間、元仲間達が何やら叫んでいた。

 しかし、元々問題行動をしていた連中だったらしく、話している間ギルドの係員に押さえつけられて、俺達に有利のまま話が進んだ。

「相手側は冒険者のあかしはくだつのうえ、一年間の冒険者登録の禁止、半年間の冒険者ギルドの雑用。それと財産の一部をクロエに渡す、か。死を覚悟した分は取り返せたか?」

 あれから三時間ほど拘束され、なんとか話し合いが終わったクロエにそう尋ねた。

 クロエは少し疲れた顔をして「ギリギリ届いたくらいかな~」と言った。

「クロエさん、本当にお疲れ様です。そして申し訳ございませんでした。私の調査不足でクロエさんを危険な目にあわせてしまいました」

 薄茶色の髪をした小柄な女性は、クロエに対して頭を下げてそう謝罪をした。

「それに顔見知りだからってあの人達を信用した私も馬鹿だったから、今回のことはリコラちゃんが責任を感じなくてもいいんだよ」

「クロエさん……」

 クロエの言葉に涙を浮かべるリコラさん。

 そんな二人のやり取りを、俺とフィーネさんはただ黙って見続けていた。

 それから二人が落ち着いたところで、俺は自分の依頼についてフィーネさんに報告した。

「ジンさん、人助けもしたうえに普通に依頼も達成したんですか……」

「まあ、難しい依頼ではなかったですし」

「強くないって言っているけど、ジン君が倒したのって普通だと銅クラスの冒険者が戦えるくらいの魔物だったよね……」

 呆れた顔をして、クロエはそう言った。

 それから俺とクロエ、そしてフィーネさんとクロエのパートナーであるリコラさんと共に今後についての話し合いをすることにした。

 なぜ、この四人なのか? それはクロエから「仲間になってほしい」と頼まれたからだ。

「こちらの調査では、クロエさんはジンさんの希望どおりの方ですね」

「えっ、ジン君。仲間を探していたの? 駄目元で頼んだんだけど」

「まあ、ソロだと限界もあるからね。それに冒険者といえば、やっぱり仲間と共に成長していくってのも一つの楽しみだなと考えているから」

 そう言うと、クロエは目を輝かせ「ジン君も私と同じ考えなんだ!」とうれしそうに言った。

「というと、クロエもなのか?」

「うん! 私も小さい頃に冒険譚を読んで、いつかそんな冒険をしてみたいって思って冒険者になったの」

 嬉しそうにそう言うクロエと目が合い、俺はクロエに「なら、一緒に楽しい冒険をしようか」と仲間になることを決めた。

 その後、フィーネさんにパーティー登録の手続きをしてもらい、俺とクロエは正式にパーティーとなった。

「ジンさん、クロエさん。これはすでに理解されていると思いますが、パーティーで依頼を達成した際も変わらずパートナー登録のお金は引かれますのでご注意くださいね」

「はい、そこは把握しています。クロエも大丈夫か?」

「うん、大丈夫」

 そう俺とクロエが言うと、フィーネさんとリコラさんは「今後とも、よろしくお願いします」とお辞儀をした。

 それからパーティー登録を済ませた俺達は、これからの活動のために改めてお互いのことを教え合うことにした。その際、ステータスは見せるかという話になったが、お互いを信用できる間柄になったら見せようということにした。

 冒険者にとってステータスを他人に見せる行為は危険なことで、仲間だからといって簡単に見せる冒険者は少ない。

「ってなると、戦い方とか得意とすることになるが……クロエは何が知りたい?」

「ジン君って見た感じ、なんでもできる系だよね?」

「そうだな、魔法と剣術もできるけど、剣術に関してはまだ実戦では試していないから、どこまで通用するかわからないとだけ伝えておくよ」

【剣術:3】と【武人の加護】を持っているから、普通に剣を扱っている冒険者よりかは剣の腕前はあるとは思う。

 ただ今のところ魔法だけで完結してしまっているから、試す場面がないのが現状だ。

「そういえばジン君って、まだ冒険者になって数日って言っていたもんね」

「ああ、だから経験が少ないんだ。その点、クロエは半年間冒険者活動をしているから経験値自体は上だな」

「うん、経歴だけはジン君にまだ負けてないよ。これでも鉄クラス冒険者だからね」

 すでに実力では負けているとクロエは認めているようで、笑みを浮かべながらそう言った。

 半年で鉄クラス冒険者。このランクアップの早さは、優秀な方である。

 普通の冒険者だと、鉄クラスに上がるには早くても一年くらいは掛かる。

「半年で鉄クラスまで上げているんだから、クロエも十分凄いと思うけどな」

「少し前までそう思っていたけど、ジン君の強さを見たら認めざるを得ないよ。たぶん、ジン君が本格的に冒険者として動き出したら一ヶ月もしないうちに私のランクまでは上げられると思うよ」

 クロエがそう言うと、俺の隣に座るフィーネさんに「だよね?」と話を振った。

「そうですね。ジンさんの力があれば、一ヶ月も掛からないうちに銅クラス。もっと頑張れば、銀クラスまでは普通にいけると思いますよ。今はまだ準備段階と言いますか、ギルド側もジンさんの実力を測っている段階ですので、それが終わればすぐにでもランクアップをしてもらいますね」

「あれ、ランクアップはまだ考えてないって言っていませんでしたか?」

「……ジンさんのことはジックリと見てから決めようと思っていたんですが、ギルドマスターがジンさんのことを気に入ったらしく、独自に調べて『これだけ実力があるなら早く上に上げた方がいい』と言われまして」

 ギルドマスターに目を付けられたって、そんなに派手な動きをしていたかな?

 そう思い俺はこの数日間の動きを振り返ったが、特に目立つようなことはしてないよなと首をかしげた。

「ジンさん、一応言っておきますがこれまでジンさんに依頼を紹介する際、毎度言っていますが『数日間猶予がある』旨を伝えていますよね? なのに当日の、それもたった数時間で達成してくるので、ジンさんのことはギルド内でうわさになっているんですよ」

「あれ~?」

 そういえば、毎回フィーネさんは依頼を渡す時に言っていたな……。

 俺はそう思いだし、自分が知らず知らずのうちにやらかしていたことを思い知った。

「そして極めつきは今回のことですね。同業者であるクロエさんを見捨てずに助けたことで、性格的にも悪くないと判断されましたので、数日以内にギルドマスターがジンさんを呼び出すと思いますよ」

「……マジか」

 呼び出し確定と言われた俺は、その時何を言われるのか今から不安になった。

「ジン君、別に悪いことしてないんだからそんな不安に考えなくてもいいんじゃないの?」

 俺の顔を見て、クロエはそう声を掛けた。

 いや別に、悪い悪くないとかそういうのじゃないんだよな……。

「呼び出しってこと自体が嫌なんだよな……」

 前世の時、別に悪いことなんてしていないけど職員室に呼ばれた時と似た感じを俺は抱いていた。

 そんな感覚がわからないクロエは首を傾げ「ジン君が不安になっているし、話戻そっか」と話題を元に戻してくれた。

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