第二章 新米冒険者ジン(3)

 結局、俺はたった一日で目的の五袋分の薬草の採取を終えてしまった。

「えっ、もう。集め終わったんですか?」

「地味な作業が好きなので、黙々とやっていたらいつの間にかパンパンに」

 そう言いながら【異空間ボックス】に収納していた薬草が入った袋を取り出した。

 いきなり目の前に、五つの袋が出現したことに受付係の女性は驚いた顔をした。

「しゅ、収納系スキルを持っていたのですね……」

「はい、便利ですよね。このスキル」

 笑みを浮かべながらそう言う俺に、女性はった笑みで返した。

 女性の反応から見て、この世界ではたぶん〝収納系スキル〟がレアなのだろうと感じた。

 その後、一応中身の鑑定をさせてもらうと言われ、作業場へと連れていかれた。

 作業場はギルドの地下にあり、そこに数名のギルドの人が待機していた。

「フィーネちゃん、どうしたの? 今日はこっちに来るような依頼はないって言ってなかった?」

 作業員の一人が受付の女性に声を掛けた。

 名前のことは気にしてなかったけど、フィーネって名前なのか……。

 ゲームの時は受付係はそこまで重要なキャラじゃなくて、モブ顔だった。

 そのため、自己紹介をしていなくて名前をどうやって知ろうかと考えていたがここで知れて良かった。

「それがノルアさんの依頼を受けた冒険者の方が、一日で終わらせたみたいなので薬草の鑑定をしてもらいに来たんですけど、時間大丈夫ですか?」

「薬草の鑑定くらいなら、大丈夫だよ。多くても袋五つ分でしょ?」

「はい、その、それじゃお願いしますね。ジンさん、あそこの台の上に出してもらっていいですか?」

 受付の女性改め、フィーネさんにそう言われた俺は「わかりました」と返事をして指定された台の上に袋を出した。

 その様子を見た作業員達は「お~、収納スキルか」と言うと、すぐに作業に取り掛かった。

 鑑定する物が薬草か薬草じゃないかという違いだったため、作業は三十分も掛からずに終わった。

「五袋分、全て薬草でした。納品依頼ですでに中身は確認済みなので、報酬は上に戻ったら渡しますね」

 そうフィーネさんから言われた後、ギルドの一階に戻り報酬を受け取った。

 一日の稼ぎが金貨五枚、俺はホクホク顔で宿に戻った。


 金貨五枚を稼いだ翌日、俺は装備を身に着け早朝から冒険者ギルドを訪れていた。

 これまで俺がギルドに顔を出していたのは、昼の少し前だったりとピークからズレた時間帯だったため、他の冒険者達をそこまで見なかった。

 しかし、今はギルドが最も混む時間帯。

 朝はその日の依頼が貼り出されるタイミングで、良い依頼を取りたい冒険者達が掲示板の前に集まっていた。

「ジンさん、おはようございます」

「おはようございます。フィーネさん」

 そんな冒険者達を横目に、俺は顔見知りとなったフィーネさんのところへと直行した。

「今日も依頼を受けに来たんですか?」

「依頼も受けようと思っているんですけど、先に別件を済ませようかなと思いまして早めに来たんです」

「別件ですか?」

「まだ登録して数日ですけど〝パートナー登録〟ってできますか?」

 パートナー登録。

 これはゲームにもあった冒険者ギルドの機能の一つで、特定の受付係と契約することでさまざまな恩恵を得られる。

 ゲームでは冒険者として活躍し出した頃、ギルド側から提案されるというシステムだった。この世界だと基本的には同じようにスカウト制だが、自ら申し出ることもできるみたいだ。

 契約することで報酬の一部を契約者であるギルドに取られるが、それ以上のメリットがあるため、俺は今回契約をするために申し出た。

「……できるにはできますけど、していなくても冒険者として活動はできますよ? 特に初心者の方で登録するという方は、見たことがありません」

「こちら側の心配でしたら大丈夫ですよ。昨日の報酬でしばらくは普通に暮らせますし、それ以上に優先的に対応してくれる権利があった方が便利なので」

「なるほど……ジンさんが指名するかたちになりますが、どなたか契約したい受付係は居ますか? すでに契約してる冒険者がいる場合は、別の係を勧めることになりますが」

 選ぶ権利なんてあったのか?

 ゲームの時は契約したら、モブキャラがパートナーになっていたからな……。

「でしたら、顔も知っているという理由でフィーネさんを選びたいんですけど」

「私ですか?」

 フィーネさんは、キョトンとした顔で俺の顔を見つめながらそう言った。

「はい、冒険者登録から初めての依頼までお世話になっているので、できるのでしたらフィーネさんがいいかなと」

「……わかりました。先日、パートナー登録の許可が下りて私も相手を探していたところなので、これからよろしくおねがいします。ジンさん」

 それから俺とフィーネさんは〝パートナー登録〟を行い、無事に契約が結ばれた。

 これで俺に、専属の受付係が付くことになった。

 ちなみにギルド側に支払われた報酬の一部が登録した受付係にいくが、受付係の給金はもちろん別で払われている。

 そして契約した受付係はその契約した冒険者の専属になるため、多忙な時期以外は受付所に立つことはなくなる。

 その分、パートナーが求める物を用意するという雑務が発生するが、ギルドの仕事よりもマシなのでパートナー登録をしたいと思う受付係は多い。

「それで早速ですが、これが俺のステータスです」

 場所は変わり、パートナー登録をした冒険者が使える相談室へと移動してきた。

 そこで俺は、フィーネさんに自身のステータスを見せようとしていた。

 契約書には書かれていないが、契約した受付係にステータスを見せることで自分に合った仕事をくれると教えてもらった。

 他人に自分のステータスを見せるのは迷った。

 だが契約の内容に〝契約者の個人情報は許可がない限り開示させない〟というのがあり、俺は結局自身のステータス見せることにした。


名 前:ジン

年 齢:12

種 族:ヒューマン

身 分:平民

性 別:男

属 性:火・水・風・土・光


レベル:31

筋 力:568

魔 力:1674

 運 :76


スキル:【鑑定:2】【状態異常耐性:2】【剣術:3】

    【魔力強化:3】【火属性魔法:3】【水属性魔法:3】

    【風属性魔法:3】【土属性魔法:2】【光属性魔法:4】

    【魔力探知:4】

固 有:【成長促進】【異空間ボックス】

能 力

称 号:神童 加護持ち

加 護:魔法神の加護 武神の加護 剣神の加護


 先日のボアの大量狩りをしたことでレベルが三上がり、それにともない能力値が少し上昇している。

 普通であれば、あんなことで二十台後半のレベルが上がることはないのだが、固有能力の【成長促進】のお陰で、あんな数でも三つもレベルが上がった。

「……ジンさん、貴方あなた一体何者ですか?」

「何者って、普通の一般人ですよ? まあ、元貴族が頭に付きますけど」

「元貴族ですか?」

「一応、数日前まではこの国の貴族の子だったんですけど、そのまあ出生の事情で色々ありまして家を追い出されたんですよ」

 そう俺が言うと、フィーネさんは「えっ」と驚いた声を出した。

「まあ、今は普通のどこにでもいる子供ですので」

「このステータスを見て、普通の子供とは思えないんですけどね。レベルだけ見たら、銀クラスの冒険者とほぼ同等ですよ……」

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