第二章 新米冒険者ジン(2)

「簡単に説明するとだな、魔法を使う時って一気に大量に使う魔法もあるが大半は少量の魔力で魔法を使うだろ?」

「ええ、そうね。大規模な魔法をそんなポンポン連発しないものね」

「その少ない魔力を回復するのにいちいち回復薬を開けて飲むって動作より、最初からめ続けていたら回復する手間も省きつつ戦闘も長く続けることができるんだ」

「……あ~、そういうことね。何となくわかったわ、確かにその場合は飴の方が効率が良いわね」

「ああ、だが実際に使う人はほとんど居ないのが現状だな。回復薬の方が出回っているからな、飴はそんなに市場に出回ってないんだろう」

 飴は素材こそシンプルではあるが、作り手が少なく市場にはあまり出回らない品である。

 この店の場合は、趣味でシンシアが飴を作っているから置いてあるが、他の店では作り手がいないからまず置いていない。

「確かにこの飴、作り手が少ないから表通りの店で見たことはないわね……」

「まあそういった理由で飴はそこまで人気がないが、実際は回復薬より使える品であるのは間違いない。一応、これからも買いに来るからできるだけ作っておいてくれると助かる」

「ええ、良いわよ。私も飴作りは楽しいし、買ってくれるなら趣味も続けられるわ」

 シンシアはニコリと笑みを浮かべ、うれしそうに言った。

 その後も俺は店の中を見て回ったが、飴以外に現状必要そうな物はなかった。

「あら、結局ジンが買ったのは飴だけだったわね。せっかくならサービスするのに」

「すまないな、欲しい物はサービスを受けても手が届きそうにない物ばかりだったんだ。ただ防具と武器が手に入って、これで本格的に冒険者として活動できるから次来た時はちゃんと買い物していくよ」

「そういえばジンったら、雰囲気でわからなくなるけど新米の冒険者だったわね……」

「登録三日目のピチピチの新米冒険者だ」

 ピチピチという表現が合っているかわからないが、シンシアはクスッと笑った。

「そうね。登録三日目の冒険者にこんなサービスしたのは初めてだわ。でもジンならすぐにトップの冒険者に追いつくと思うわ」

「それは、また勘か?」

「ええ、私の勘はよく当たるのよ」

 その後、俺はシンシアの店を出て商業区の表通りを散策することにした。

 シンシアの店ほどアイテム数は多くないが、それでも使える物はあるため、細々とした物を買っていった。

 主に購入したのは、冒険者としての必需品。

 回復薬や、素材を小分けにするための麻袋などを買った。

 収納スキルや回復魔法が使えるが、もしもの時のためにと思って用意した。

「おっ、あんちゃん見ない顔だね! 王都一しい串焼き肉はどうだい? ロブ特製タレの串焼きは、冒険前の腹ごしらえに最適だぜ」

 そろそろギルドに行こうかと思って、串焼き屋の前を通り過ぎようとしたら店主のオッサンに呼び止められてしまった。

 ……いやまあ、マジでそうな匂いはしているけど、すでにお財布が厳しいんだよな。

 というかこのオッサン、ゲームの時もこうして主人公に声を掛けていたな。

 オッサンの名は、ロブ。

 串焼き屋の店主で、店舗の方は基本的に奥さんに任せてこうして自分は新しい客を増やすために出店をやっている。

「すまんな、店主のオッサン。金がギリギリだから、今は買えねえんだ」

 ゲームの時は金に余裕もあったから、普通に買って食事をしていた。

 だが今は、もろもろの出費で金欠状態。

 俺はそう言って、本当にほぼ空っぽの状態の財布代わりの麻袋をポンポンと手の上で跳ねさせた。

「マジか、他の店でかなり買い物してるみたいだったから、金持ってると思って声掛けたのにな……」

「新米冒険者で色々と必要な物を買っていたんだよ。そっちで金が尽きたってわけだ」

「んっ、新米冒険者だと? そんな良さそうな装備着ているのにか?」

「これは店の人がサービスしてくれたんだ。実際は高価な物で、本来だったら手も出せない品だよ」

「なるほどな~、だがまあこれも何かの縁だ。これからギルドに行くんだろ? これ食って、依頼頑張ってこい」

 オッサンはそう言うと、紙袋に三本串焼きを入れて渡してきた。

「いいのか? 金払えないんだぞ?」

「いいって、どうせそれ少し焼きすぎていて、これ以上売れ残ったら俺がまた食べる羽目になるんだよ。妻から、痩せろって言われててこれ以上太れねえんだよ」

 ポンポンと腹をたたいたオッサンは、俺に「いいから食えって」と言って袋を渡してきた。

 流石さすがにここまで言われて断ることはできず、俺は袋を受け取った。

「まっ、その肉が気に入ったら金に余裕ができた時にでも買いに来てくれよ。俺は基本ここで店をやっているからな」

「わかった。金に余裕ができたら、必ず買いに来るよ」

 俺はオッサンに「またな」と言って、その場を離れギルドへと向かった。


 その後、ギルドに無事に着いた俺は登録をしてくれた受付係のところへと向かった。

「あら、貴方あなたはこないだ登録した」

「はい、ジンです。無事に装備を調達できたので、依頼を受けようかと思いまして」

「そうでしたか、見たところ良い鍛冶屋さんに行かれたみたいですね」

 受付係の女性は、俺の装備を見てそう言った。

 一見普通の革装備に見えるが、受付係の女性はたくさんの冒険者たちを見てきているからか、一瞬で竜種の素材を使っていると気付いたようだ。

「ええ、余り物で安く譲ってもらいました」

 笑顔でそう言うと、女性は「良かったですね~」と笑みを浮かべながら言い、俺が現在受けられる依頼をいくつか用意してくれた。

 冒険者の依頼の受け方は色々ある。

 そのうちの一つで、受付で用意してもらうかたちで俺は依頼を受けようとしている。

 掲示板から探すのは面倒だし、常設依頼だと今の金欠状態を抜けるのに時間がかかってしまう。

 そう思った俺は、こないだ手続きをしてもらった受付係の女性に依頼を用意してもらった。

「金欠とのことでしたので、こちらの依頼はどうでしょうか? 新米冒険者の方には、破格の報酬が出されている依頼です」

 そう言って見せられた依頼書に俺は目をとおした。


依頼名:薬草集め

内 容:種類は問わない。できるだけ多くの薬草を持ってきてくれ

報 酬:袋一つにつき、金貨一枚 ※最大五袋


 その依頼文を見て俺は、ビクッと体が反応してしまった。

 しかしこんなところで動揺してる姿なんて見せたら変な奴だと思われるため、平静を装うことにした。

「薬草集めですか? それなら、常設の方で出されていますよね?」

「ええ、そうなんですけど、この方は研究に使うためにたくさんの薬草が欲しいとのことでして、市場で薬草を買い占めると他の方に迷惑だからと依頼を出されているんです。袋の大きさはこちらです」

 女性はそう言うと、カウンターの下から大体二十Lサイズの麻袋を取り出した。

「なるほど……わかりました。報酬もなかなかいいですし、この依頼を受けます」

「わかりました。期限は五日となっていますが、大丈夫でしょうか?」

「はい、大丈夫です」

 最終確認を行い、俺は受付で依頼の手続きを行った。

 期限までに一袋だけでも納品すれば大丈夫だと言われたが、一袋いっぱいにするだけで金貨一枚なんて美味しい報酬でそんなもったいないことはしたくない。

 そう思った俺は早速、ギルドを出て王都の外へと向かった。

「さてと、まさかゲーム時代の最高の金策依頼を受けることができるなんて思いもしなかったな……」

 ゲームでも同じくこの依頼はあり、プレイヤーには〝最高の金策依頼〟として知られていた。

 ゲーム時代は袋の制限数はなく、常設依頼よりも二倍の値段で買い取ってくれるのでよく世話になっていた。

「ゲームの時も世話になったが、こうしてまた世話になるとは思わなかったな」

 俺はそう言いながら薬草の採取地にたどり着き、採取を始めた。

 手に取り、鑑定して、袋に詰める。地味な作業が好きな俺は、黙々と続けた。

 この場所はめっに魔物も現れないため、気が付くと辺りが暗くなっているのに採取を続けていた。

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