第二章 魔法一発金貨一千枚の女(3)


   ◇◇◇


 さて、フィオーラ嬢とのかいこうという名の初エンカウントから早くも……一週間。そこまで時間は経過してなかった。

 何が楽しいのか分からないが、俺の作業の見学という名の邪魔をしに来るのもこれで三回目。

 本当にマジで勘弁して? 作業が進まないと大切な経験値が稼げないのっ!

 毎回そんなに長時間滞在するわけじゃないからいいんだけどさ。

 でも教会関係者にやたら注目されるから非常に面倒臭いのも事実。

「ふぅん、それであなたならそんな時はどうするのかしら?」

 そして、俺が作業中とか一切気にせずに話しかけてくるのもどうかと思うよ?

 何なの? この子、俺に興味持ちすぎじゃない?

 行ったことないけど、このクラスのお姉さんが隣に座ってお話ししてくれるような超高級なお店に通おうと思ったら、お幾ら万円掛かるのだろうか?

 まぁ俺、下戸の下戸だからお酒を飲むお店とか行かないんだけどさ。

 そして、それほどの下戸でありながら酒に走った前世……。

「そうですね、当日は家にこもって天候の回復を待ちますね。どうせ見回りに出掛けても何もできることなんてありませんし、間違いなく翌日には通り過ぎてますから」

 何の会話をしてるのかって?

 今のお題は「野分(台風)がきた時、心配になって畑を確認しに行くのは是か非か」というどんな流れでそんな話になったのかまったく不明な内容の問答である。

 ちなみに前回の一発金貨一千枚の女発言に関しては快く(?)許してもらえた。

 相変わらず女騎士様にはガッツリと睨みつけられたけどな!

 もうね、ホントにいいよね! 女騎士様! などと邪な感情をほとばしらせながら見つめてると、剣の柄に手を掛けられるんだけどね! この女騎士、る気満々である。

 いまだに名前も聞いてない、いや、「少し前に出会った彼女の名前を僕はまだ知らない」けど。

 なぜ言い直したのかは本人にも分からないから、聞かないでくれるとうれしいです。

 てかさ、フィオーラ嬢、話す時は俺の顔をジッと見つめながら話すんだよ。座ってる高さが違うし俺は彫り物をしてるから目は合わないんだけどさ。

 大火傷してから追い出されるまでは家族ですら目をらしてたのに、普通に微笑んで話してくれる。俺はお面を被ったままなんだけどさ。

 何なの? この国の三大美女って見た目が美しいだけじゃなく全員心も美しいの? 天使なの?

 もしも中身ハリスくんのままなら懲りずに歴史(ストーカー行為)が繰り返されてたからね? もちろんシーナちゃんもお話ししてくれるんだけどね? あの子も間違いなく天使だな、うん。

 あまり関係はないけど三大美女のあと一人は王族、本物のお姫様なのでどう間違えても出会うことはないだろう。

 あー、残念だわー、ここまできたら制覇したかったわー(棒読み)。

 まぁ公爵令嬢(フィオーラ様)と侯爵令嬢(リリアナ様)も、一般人はお話しするどころかお顔を拝謁する機会さえないのが普通なんだけどさ。

 いや、リリアナ嬢はこちらからお屋敷に出向いた時に偶然にも運良く(悪く?)会えただけなんだよな。それを考えるといくら自家の領地だと言ってもフィオーラ嬢のフットワーク、軽すぎじゃないだろうか?

 この見た目でじつはおてんさんなの? あん○つ姫的な? ジョ○トイしちゃう感じ? それあ○みつじゃなくだ○みつだな。いや、だ○みつも確かにジョ○トイしてるけど本家は別の人だった。

 女騎士様ならなんかこう、稽古中に変なコケ方とかしてジョイ○イしちゃいそうだけど。

 特に何もしてないのに俺の中ですでにポンコツイメージが確立してる可哀かわいそうな女騎士様であった。

 あ、フィオーラ嬢が来た後はシーナちゃんの機嫌が少し悪くなるのがちょっとだけ可愛いと思いました。


 そんな日常が続くようになって……そろそろひと月。

 シーナちゃんの火傷痕の平和的解決方法はいまだに見つかっていない。

 もういっそ外に連れ出して治療したらそのまま俺だけ消えちゃおうか? などと考え出した今日この頃。流石に投げやりがすぎるな。

 そして相変わらず三日と空けずに顔を見せるフィオーラ嬢。これはもう通い妻と言っても過言ではないのではないだろうか? うん、間違いなく過言だな。

 繰り返しになるけど彼女は光の聖女様やキルシブリテの聖女様と呼ばれる公爵家の御令嬢。つまり一般人がお目にかかるなんて、そうそうできない雲の上の存在なわけで。

 そんな人が最近は度々と教会を訪れている。何が言いたいかというと、

「今日もお参りの人が多いですね」

 全部あなたが来てるからなんですけどね?

 あ、そこのおばぁちゃん、フィオーラ嬢を拝む時、ついでで俺を拝むのは止めてね?

 一応(?)一回死んでるからね、俺。現状ハリスくんにいた霊体みたいなものと言えなくもないから、拝まれたら何かのはずみで成仏しちゃうかもしれないし。

 人が多いとか言いながらも、騒がしい周りのことに我関せずなのは流石に上級貴族の御令嬢ってところか。教会の隅っこの地べたで彫刻にいそしむ俺を見下ろすように椅子に座り話しかけてくる。

 もちろんミニスカートなんて御令嬢が穿くわけがないので、パンチラなんてものは一切ない。素足でもないのでくるぶしすら見えていない。ガードの堅い女性はとても好感が持てると思います! でもちょっとくらいは見たかったというジレンマ。

 いや軽い気持ちで見ちゃったら物理的に首が飛んじゃうだろうけどさ。

 まぁ一般参拝者が多くても女騎士様が威圧(威嚇?)してるから、ある程度の距離からこっちに近寄ってくるような人は居ない。お貴族様に近づくのはそれだけで命懸けの行為でもあるのだ。

 そして最近フィオーラ効果で俺の彫った神像も毎日早々に売り切れ御免らしく司祭様もホクホク顔だ。いつの間にかお値段も大銀貨二枚に上がった。俺に払われる卸値は変わってないんだけどな!

 まぁ派手な格好の偉そうな爺さんが喜んでようがヘコんでようが、むしろ生きてようが死んでようが心の底からどうでもいいんだけどな。でも売れ行きがいいのは何となく嬉しかったりする。

貴方あなたとこうして話すようになってから、そろそろひと月になるわね」

「そうですね、少しだけ暖かくなりましたけどまだまだ寒いですよね」

 北海道とまでは言わないけど、北陸程度の寒さはある北都周辺。お嬢様は上等な外套で暖かそうだけどさ、俺は結構寒いんだよ? てか「オジョウサマはジョウトウなガイトウ」ってちょっとラップっぽい。カタカナだからそんな気がするだけ? せやな。

 金銭的にぼちぼち貢献してるからこれでもまだ上等な部類の古着を回してもらってるんだけどさ。めた小銭で下着は買えても、服まで買うのは蓄え的にまだまだ厳しい。食費にも消えちゃうし。

 そして多少質が上がったとしてもたかが庶民、いや、貧民の古着である。寒いものは寒いのだ!

 だからといってあまり厚着すると、それはそれで腕周りとか動かしにくくなるのも難点。

 それでも最近風邪を引いたりしないのは毒耐性を上げてウイルス系にも強くなったからか、それともステイタスが上がってるから、抵抗力(セービングスロー値)が増えてるからなのか。

 俺がおバカだからってのはないと思いたい……。

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