第一章 世話焼き幼女と元勇者(4)


   ◇◇◇


 そして時は流れて……一週間。翌日じゃないのかよ! だって地味な検証の繰り返しだったんだもん、仕方ないじゃないか(え○りくん風に)。

 アレだよ? シーナちゃん。俺がいきなり奇行に走ったもんだから心配して、

「ハリス……どうしたの?」

 から始まり、

「ハリス……そんなにつらかったの? ご飯半分わけてあげようか?」

 だとか、

「ハリス……あなた疲れてるのよ。少し休んだほうがいいわ」

 だの完全にメン○ラ扱いである。

 てかさ、それでなくても少ないささやかな幼女のご飯、パンを半分こしてわけてくれようとするのとかマジでめて? キツイから。空腹よりもキツイから。男としてどころか人間としての尊厳とか考え込んじゃうから! それもこれも全部貧乏が悪いんだけどな……。

 そんな要所要所で俺の心をポッキリと折りにきてるとしか思えない言動を取るシーナちゃんを、なんとかかんとかなだめつつも分かったことが一つ。

「泥団子作りは、経験値稼ぎとしては割に合わねぇ……」であった。

 だってさ、泥団子、経験値の獲得が泥団子を作り終えた時に微増するだけというびっくりするくらいの効率の悪さなんだもん。

 あと手が汚れるから養護院の大人にも嫌そうな、むしろストレートに嫌な顔されるしさ、子供が集まってきて(もちろん俺を中心にぽっかりと空間が空くけど)をするのでそこそこウザい。

 あれだぞ? 自分が子供になったからといって、子供が好きになるわけではないからな!

 そして経験値稼ぎには何の関係もないけど、俺の恋愛対象は前世での実年齢に比例して少々高く、二十歳以上三十五歳くらいまでとなっている。ごめんよシーナちゃん、ロリは無理なんだ……。

 そんな、現状唯一心の支えになってくれている女の子に対して無礼千万な思考も交えつつ編み出した、最高効率を出す経験値稼ぎ。

 それは『草むしり』なのだ!

 もちろんただの草むしりじゃないぞ?

 草を意識して抜くことで『農作業スキル』、抜いた草をよくよく観察することで『薬学スキル』と『鑑定スキル』、さらに抜いた後の地面を平らにならすことで『土木作業スキル』、そして歌を歌うことで『歌唱スキル』と『デュアルタスクスキル』をゲット。なんと、スキル経験値六重取りが可能なのである!

 スキルランク1までは基本的には上げやすいのでウハウハだな!

 なのに全然スキルを持ってなかったハリスくんとは一体……。もしかすると経験値の溜まりやすさに元勇者ってことも関わってるのかもしれないんだけどね?

 でもこの作業、はたからはぶつぶつと言いながら草を抜き、たまにジッと地面を見つめたと思ったら、そこに何かを埋めているようにしか見えないんだよなぁ。

 そりゃシーナちゃんが俺が心の病じゃないのかと心配するのも無理ないわ。どう見てもただの怪しい奴だもんね? 正気を疑われても文句は言えそうもない。

 間違いなく、半分以上は被ってる仮面のせいなんだけどさ。

 でもコレ、むっちゃ効率がいいんだよ。二時間で合計経験値がポイント換算で1点分稼げるんだもん。十時間あれば5点だよ? 新しいスキルなら5つ増やせるポイント数とか凄すぎない?

 もちろんそんな単純計算はできないんだけどさ、移動時間もあるし。

 でもコンスタントに一日に3点は稼げる!

 問題は、そろそろ養護院&教会周りの草むしりが終了しそうなところなんだよねぇ。

 いよいよ俺も街頭デビューする時がきたか。

 あ、その前にこの八日間、草むしりを頑張って溜めたポイントの振り分けなどなど。

 何この初任給のような胸の高鳴り! まぁ俺、バイトすらしたことないんだけどさ。

 獲得ポイントはなんと……23点! かなり頑張った方ではないだろうか?

 あ、レベルは0に、地魔法も0に下げた。今のところ煉瓦とかいらないですし……。

 そしてレベルは最低でも3くらいはないと、ステイタス補正の意味がないのだ。

 てことで上げたステイタス。


知能  ……2→4(7ポイント使用)

器用さ ……3→5(9ポイント使用)

 増えたスキル。

光魔法ランク2(3ポイント使用)

毒耐性ランク2(3ポイント使用)

ポイント残……1点


 いや、色々と言いたいことは分かるんだ。

「最初に上げるべきステイタスはHPじゃない?」とか「器用さって今いるか?」とか「いきなりの毒耐性ってお前、暗殺者にでも狙われてるの?」とか。

 おっしゃることはごもっともである。でもね? 俺にも言い分があるんだよ!

 まずはステイタスの説明から。こっちの理屈は簡単なんだけどね? だって知能が低すぎると光魔法の効きが悪いし、手先が器用になると草むしりの効率が上がるから。

 問題は毒耐性、それもランク2。

 もちろん貧乏準男爵家を追い出された三男坊に暗殺者など送り込まれるはずなどなく。

 そう、決して毒殺対策ではないのだ。ではなぜいきなりの毒耐性なのか? それは、

「二日目で食あたりを起こして、半日トイレで色んな意味で死にかけたから」

 養護院で使われる食材、良く言えば発酵食品化していることがある。

 ストレートに言えば腐ってるんだ。発酵はしてるけど食品として機能してないから、どう取り繕おうとも腐ってるとしか言えないんだけどね?

 貧乏だろうが一応はお貴族様育ちのハリスくんのおなかには、これらの食材で作られる料理が少々キツイのだ……。

 言っとくけどあれだぞ? ポンポンペインのうえになかなかの臭いのトイレ、否、便所。

 そこに紙はなく、木の板一枚下に地獄……。意味もなく失楽園の一節を読み上げそうになったわ。腐り物で腹は痛いし、胃酸混じりのソレで尻は痛いし……。あと常時デバフとして臭い。間違いなくDOTダメージが発生していたと思う。

 慌てて回復用に光魔法と毒耐性をランク1にしたからな? でも光魔法ランク1の治癒だとお尻のヒリヒリは治っても腹痛は治まらず、毒耐性ランク1では解毒ができるわけじゃないのですぐには効かなかった。大量に水を飲んで全て出し切るという荒業で乗り越えるしかなかったからな! いや、越えるというよりも(解毒的な意味合いで)出すしかなかったが正解か。

 もうね、心に誓ったさ。


 この世界での最初の俺の目標『トイレ用の紙の生産をする』で確定。


 てなわけでこれより紙の生産、つまり『製紙スキル』の獲得を第一目標とする!

 するのだが……ない。うん、製紙スキルというピンポイントなスキルがないのだ。

 大工とか陶芸とか細工職人とかお針子とか、職業系スキルは結構多種多様にあるのに製紙はないのだ。ならどうするのか?

 もちろん木工スキルなどを上げてかみきの施設を作るなんてことは現状では不可能。場所も材料もないからね?

 そもそも紙漉きで作れる紙では○門が削れそうだし、俺は地場産業をおこしたいわけでもない。

 困った、非常に困った。第一歩で詰んだ? いや、まだ諦めるには早いはず!

 とりあえず魔導板を探す、何かないかと超探す。

 と、そんな時に見つけたのが上の方にいつの間にか存在していた検索ツールみたいなやつ。

 あれだ、ぼう○ホーとかバイ○ゥみたいにいつの間にか、気付いたらパソコンに入ってた感じ。

 てか魔導板について俺の知らないこと多すぎじゃなかろうか?

 まぁ便利になる分にはありがたみしかないんだけどさ。

 いちの望みを託して検索バーっぽいのに触れてみると……出てきたのは見慣れたスマホやタブレット用のタッチ式キーボード。何者なんだよ魔導板、もうこれ某敷物って呼んでも差し支えなくね?

 よし! これで勝てる!!

「えっと……『紙 作り方』……でいいのか?」

 小学生みたいな検索ワードだが……問題なかったらしく結果が表示された。

『紙の生産には (植物魔法ランク3+水魔法ランク3+合成魔法ランク1)+(設計ランク1+製造ランク1)+錬金術ランク3 のスキルが必要です』

 お、おう、軽く考えてたのにむっちゃ色んなスキルが必要じゃん……。てか植物魔法も製紙スキルと同じでリストにないんだよなぁ……。植物魔法以外も水魔法以外は全部見当たらないし。

 仕方がないので順番に検索していくと、

『検索されたスキルがスキルリストに掲載されるには

植物魔法……地魔法ランク1+水魔法ランク1+農作業ランク3

合成魔法……属性魔法スキルを3系統以上所持

設計  ……器用さ10以上、知能10以上

製造  ……器用さ10以上、知能10以上

錬金術 ……地魔法ランク1+風魔法ランク1+水魔法ランク1+火魔法ランク1+光魔法ランク1+闇魔法ランク1 が必要です』

 って教えてくれた。

 全部発生スキルなんだな。てかスキルはいいとしてステイタス10以上って今の俺にはそこそこ条件が厳しいぞ? いや、ハリスくんの初期ステイタスが低すぎるからってのもあるけどさ。

 もちろん仕方がないから頑張るけど……。

 これらに必要なポイントは、

植物魔法

 地魔法 ……ランク3 7点

 水魔法 ……ランク3 7点

 農作業 ……ランク3 7点

 植物魔法……ランク3 7点

設計、製造

 知能 ……ランク4→10 45点

 器用さ……ランク5→10 40点

 設計 ……ランク1 1点

 製造 ……ランク1 1点

錬金術(地と水は右に同じでランク3、光魔法はすでにランク2なので除く)

 風魔法……ランク1 1点

 火魔法……ランク1 1点

 闇魔法……ランク1 1点

 錬金術……ランク3 7点

合成魔法(条件は錬金術で達成しているので除く)

 合成魔法……ランク1 1点

計 126点

 ……毎日草むしりを頑張っても、およそひと月半ほどかかりそうだな。

 しかし俺の○門の安寧のためには、この戦に負けるわけにはいかないのだ!

 頑張ろう、マジで頑張ろう。

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