第一章 世話焼き幼女と元勇者(5)


   ◇◇◇


 グリグリ……ブチブチ……バサバサ……ギロリ……ザッザッザッ……ふっふふふ~ん♪

 スタートダッシュからいきなりの挙動不審感満載で誠に申し訳ない。

 何の音かって?

 グリグリ(草をつかんで左右に振り回す)、ブチブチ(草の根っこが千切れる)、バサバサ(抜けた根っこに残った土をはたいて落とす)、ギロリ(それを真剣なまなしで見つめる)、ザッザッザッ(開いた穴を埋める)、ふっふふふ~ん(鼻歌)♪

 どうも、完全なる不審者です。

 教会&付属の養護院付近の草を駆逐し尽くしてしまったので、再び茂るまで街中の空き地や道端での草むしり活動を開始しました。

 もうね、最初の頃のご近所の皆さんのげんな眼差しが痛いのなんの。

 いや、さんくさそうに見られるだけだったらいいんだけどさ。

 年寄りとかあれだぞ? いきなりおけで水ぶっかけてきたりするからな?

 排他的というか何というか……まぁ見た目が見た目だから仕方ないって言えば仕方ないんだけどさ、せめて水より先に声を掛けるくらいしてくれないかな?

 春先だったからよかったようなものの、冬場なら間違いなく凍え死んじゃうからな? ちなみに着替えなんてものは存在しないので、その日はれそぼったままでの草むしりという平時からさらに不審者感五割増しで一日過ごしたさ。

 いや、そもそもの原因である仮面を外せって話なんだけどね? なんとなくこう……ちょっと気に入ってきた不思議。やっぱり呪われてるんじゃないだろうか、この仮面?

 ちなみに年寄りだけじゃなく、普通のご家庭の子供達にも小石とか投げられるけど、気にしたら負けである。小さなくらいなら自分で治せるしね?

 でも将来的には覚えてろよ? 負け犬のとおえ再びである。

 でも悪いことばかりでもないんだよ。養護院の周りで草むしりしてた頃と違い、

「お、坊主、今日も気持ちわりい面被ってるくせに頑張ってんな!」

「おっさんも昼間っから人殺してきたような顔で元気そうだね!」

 知らない人との会話なども発生するので割と楽しかったりする。

 ちなみにさっきのおっさんの服装。

「薄汚れた赤黒い染みのあるかわよろいに、使い込んだ片手剣と小剣、背中と腰には赤黒い点々とした染みのある小汚い袋」

 どう見ても山賊か破落戸ごろつきなのだが、あれでも立派な『探索者』なのだ。


Q:『探索者』ってなんぞ?

 A:簡単に言えば迷宮ダンジョン専門の冒険者だな。

Q:えっ? 迷宮なんてあるの?

 A:うん、王国内だけでも結構色んな場所にある。この北都だけでも三つあるらしいし。

Q:もっと詳しく!

 A:知るわけねぇだろ! こちとらハリスくんだぞ!?


「相変わらず口の悪いガキだな! まぁいいや、ほら、残りモンでわりぃがそろそろ傷みそうだからくれてやるよ!」

「おおう……いつもすまないねぇ……これで病気のおっかさんも少しは元気になるよ! まぁ親に捨てられたから俺にお母さんとか居ないけどな!」

「どう反応しても俺が悪者になりそうな切り返しはやめろ!」

 干し肉ゲットである!

 ちなみにおっさん、干し肉が傷みそうなどと言っているがただの照れ隠しであり、本当に消費期限が近いわけではない。そう、このおっさん、いわゆるツンデレおやなのである。

 だってホントに古い干し肉は色がね、すごいことになるもん。サイケデリックな感じの色合い、そして変な汁が出て虫もわく。前の異世界で旅の途中に経験済みだから間違いない。

 養護院? あそこはほら、生肉も干し肉も肉っ気は一切ないから。でもたまに服から焼肉っぽい匂いをさせてるクソ司祭はいる。

「この恩は必ず、必ず来世くらいで俺の知人が返すからね!」

「ふんわりした恩返しだな! てか来世は仕方なくてもせめて本人が返せよ!」

 などと軽口で返すが、動物系タンパク質と塩分の濃い味が育ち盛りの少年には本当にありがたいです。帰ったらシーナちゃんとわけわけして食べるんだ!

 そんな物持って帰っていぢめっ子に取られないのかって?

 大丈夫、最近は妙に元気に活動してる俺を気味悪がって三人共不必要に近づいてこないもん。

 つまりポケットに入れておけばそうそう見つからないのである。

 てかさ、おっさんに初めて干し肉をもらった時、シーナちゃんにお裾分けしたら「おにく……」ってつぶやいたかと思うと、涙を流しながらはぐはぐしてたからな? 正しくぼうって感じで。

 もらい泣きしちゃうから泣くな幼女、おっさんの涙腺は緩いんだ。

 あと「わたし、ハリスのお嫁さんになってあげてもいいよ?」とか、干し肉一切れで心ほだされすぎだからね?

 とりあえず「そうだね、大きくなってもお嫁さんの貰い手がなければ喜んでお嫁にきてもらおうかな?」って答えたら「こんな顔だもん、貰い手なんてあるはずないじゃん……」とかもうね……。

 マジで隙あらば俺の心を折りにくるソードブレイカーも真っ青な性能のシーナちゃんである。

 そして干し肉をくれるさっきのおっさん以外にも、ちょくちょく見かけると声を掛けてくれる人はいるんだ。

 最初はこの見た目で敬遠されてたけど、毎日付近をうろうろしてるからね?

 一応教会関係者と言えなくもないから、それが知れわたれば声を掛けてくれる人も増える。

 もちろん草むしりの依頼なんだけどさ。軒先、店先、中庭などなど。

 中には単純にパンなどをくれる人のいいおっちゃんおばちゃんなんかもいる。

 じいさんばあさん? 前にも少し触れたが奴らは駄目だ、前と変わらず大多数が俺を見かけると排除する方向で動きやがるからな!

 日本でも──おっと、この話を続けるのは危険がすぎると俺のファントムが警鐘を鳴らしている。

 てか、草むしりの報酬やお駄賃で小腹がふくれるので、もの凄くありがたいです。

 労働時間から換算するとビックリするくらいの低賃金なんだけどな!

 時給ウン十円レベル。でも今の目的はお金稼ぎじゃなく経験値稼ぎだから!

 前世であちらこちらと駆けずり回って、命懸けで魔物退治してた頃を思うと心底ラクラクでオキラクな経験値稼ぎなのである。

 そして繰り返しになるが、ご飯を貰えるのホントにありがたいです!

 シーナちゃんに次ぐ生命線ライフラインだもん。

 もちろん持ち帰れるものは持ち帰ってシーナちゃんと半分こする。

 そしてまた「わたし、ハリスのお嫁ry」うん、歴史は繰り返すんだ。

 幼女の微笑みとかすさみきった心が癒やされるよね。

 こみあげるのは恋愛感情ではなく父性本能的な何かだけど。

 最近少し暖かくなってきたからか、夜に水桶と手ぬぐいを持ってきたと思ったら、背中をはだけて「拭いて?」って言うのはおじさんどうかと思うんだ。ちょっと無防備すぎて将来が心配である。

 うん? 俺の背中? いや、俺は大丈夫だから、自分でできるから、拭いてくれなくていいから! 分かった、分かったから背中だけでっ!! やたらと世話を焼きたがる幼女だった。

 そんなこんなで、ブチブチと草むしりに励みながら幼女とイチャイチャ(?)しているうちにも日にちは過ぎてゆき……早ひと月ちょい。


 俺がこっちに来た(来たという表現が正しいのかどうかは分からないけど)のが、

 聖暦三三八年の花中月の上小月の一の日(四月一日)。

 そして今が、

 花下月の中小月の六の日(五月十六日)。

 毎日毎日子供と年寄りにそこそこの嫌がらせをされ、いびられながらも草むしりむっちゃ頑張った! きっとあの人も感動して褒めてくれるはず!

 そして今回の集計。前回スキルを上げてから溜まったポイントは『128』。

 そう、いよいよである。とうとう『紙』が作れるようになるのだ!

 辛かったよ……ク○ベラ生活……あれほど人間としての尊厳を削ってゆくモノはなかなか存在しないのではなかろうか? いや、削るのは尊厳じゃなくてう○こなんだけどさ。ついでに○門も削られるし。

 もちろん○門を魔法で治癒したのも一度や二度じゃなかった。そして小さな木片からはみ出した……いや、多くは語るまい。

 余計なお世話だと思うけど、たまにシーナちゃんにもコッソリと回復魔法を掛けてたからね? たぶんホントに大きなお世話である。

 でもこの試練はきっと、異世界に迷い込んだ旅人の誰もが通る道だと思うんだ。

 てことで、ポイントを振り分けた俺のステイタスがこちら。


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