第一章 世話焼き幼女と元勇者(1)

 てことで、なぜか十一歳の元貴族の男の子になった元勇者おっさんの俺、これからどう過ごすのが正解なのか真剣に悩む。

 いや、どうするも何も自分勝手に、あるがままに、そこそこ恵まれた生活を送るのが目標なんだけどね? 自分にそう誓ったからさ。

 でもほら、現状……ただのおお火傷やけどを負ったか弱い、か弱すぎる子供じゃないですか? あれだぞ? 恵まれた生活を送るどころか下手したら明日にでも死んじゃってるかもしれない生活レベルなんだからな? 体力的にもコケただけで死にそうだし。スペ○ンカーかよ……。

 そして今、ハリスくん十一歳ができることといえば一日に数個魔法でれんを作ることと、世をはかなんでくされることの二つしかない。

 うん、我が事ながらどうしようもねぇなこいつ……。

 それならば逆に、初心に戻って『元勇者てんせいしゃ』ができることは何かないだろうか?

 そうだね、もちろんアレだよね!

「魔導板……顕現せよ!」

 うん、アレとか言いながらまったく聞き慣れない単語を叫んでしまい、大変申し訳ないと思う。

「魔導板顕現せよ!」とは俺が呼び出された以前の異世界での「ステイタス、オープン!」のような意味合いのコマンドワードなんだ。

 ちなみに魔導板とは長方形の真っ黒い板で、色々便利に使える小さいモノリス……というかぶっちゃけ、目の前に浮かんでいる十インチくらいのタブレット端末に似た情報表示ツールである……らしい。曖昧だなおい。

 だって前の世界で聞いた受け売りだからさ、呼び出し方以外の細かい性能なんかは全然分からないんだもん。

 勇者とか呼んで持ち上げておきながらも得体の知れない異世界人に詳しい情報開示はしない! という異世界の王族のインフォメーションマネジメント、嫌いじゃない。でも死ね。

 どういう原理なのか、こんなにハッキリ黒い板として自己アピールしてるくせに、呼び出した本人以外には見えないという不思議アイテムでもある。

 流石さすが魔導板これが出せなければ八割ほど詰んでいたこともあり一安心。

 そしてお楽しみの能力値ステイタスチェックの時間だ!!

 ……まぁね? っすらと想像はできてたんだけどさ。ハリスくん、ステイタスひっくいなぁ。

 まずは一番上から『レベル』、面倒なので以後はレベルで統一する。

 その下に表示される大元のステイタスは『体力(HP)、魔力(MP)、体格、筋力、知能、魔術、器用さ、びんしょうさ』の八種類。ゲーム的というか結構おおざっである。

 あ、体力と魔力も以後はHPとMPでなにとぞよろしく。

 あくまでも前の世界基準でのステイタスの説明をすると。


 レベル……いわゆる一つの成長度。ステイタスが同じなら3レベルも差があれば相手に戦闘で勝つことはすさまじく難しい。じゃあどうするのか? 集団で殴り続ければそのうち相手は死ぬ。

 HP ……物理攻撃を受けた時に弾く力。また、持久力。物理バリアとスタミナだな。0になっても死なないけど0になってから殴られると死ぬ。

 MP ……魔法攻撃を受けた時に弾く力。また、魔力。魔法バリアと魔力とかそのままだな。右に同じで0になると魔法も使えなくなるし魔法を当てられると死ぬ。そもそも0の時点で倒れてる。

 体格 ……物理防御力関連。べつに高いから背が伸びたりマッチョになったりするとは限らない。

 筋力 ……物理攻撃力関連。右に同じ。まぁ鍛えてれば筋肉質になるから実質マッチョ。

 知能 ……魔法防御力関連。上げても知らない雑学は増えないけどIQは上がる。たぶん。

 魔術 ……魔法攻撃力関連。異世界不思議パワーだな。

 器用さ……命中率関連。米粒にすずめを描いたり舌でさくらんぼのヘタをちょうちょ結びにしたり。ちなみに女子に自慢すると軽くドン引きされる技術なので注意。

 敏捷さ……回避率関連。目指せ! 反復横跳び世界一!


 説明がほとんど何の役にも立っていないが、気にしすぎたら負けである。

 もちろん戦闘以外の一般生活行為や色んな作業などにも関連してくるし、目で見て分かるように数値化されているだけなので数字を過信しすぎてはいけない。基本的には目安程度にしかならないけどだいたいこんな感じ。

 まぁ筋力とか数値が一つ上がれば結構な差が出るんだけどさ。

「例えばHPがあればどんな攻撃でも弾けるってことでOK?」

 ……正しいようなそうでもないような。

 そもそもレベルが低いとHPも低いのでこんぼうで殴られただけでも簡単に0になるし、剣で斬り付けられた時点でだいたいはオーバーキルされてるから。

 まぁ細かい話は追々と(するとは言っていない)ってことで置いといて、ハリスくん……というか現在の俺のステイタス。


レベル……1

HP ……3

MP ……3

体格 ……2

筋力 ……2

知能 ……2

魔術 ……1

器用さ……3

敏捷さ……2


 五段階評価の通知表みたいだな……ま、まぁ、ハリスくんはまだ子供だからね?(震え声)

 てかこのステイタスに関しては数値の上にレベル分の補正がかかるから、この数値よりは上がるんだけどね?

 なんにしてもレベルが『1』しかないので焼け石に水でしかない。

 前の世界での、レベル以外の大人の平均ステイタスが『5~8』だったことを考えるとずば抜けて低いのは確かだな。

 ハリスくん、地魔法とか一応魔法が使えるのに魔術が『1』しかないのって逆にすごくない?

 そしてこういう時って少しくらいは元世界のステイタスを引き継ぐものじゃないのかよ……。

 一応長期間にわたって勇者やってたんだけどなぁ。

 勇者の称号とかはなかったから自称なんだけどさ。

 大丈夫、まだ慌てる時間じゃない。

 そう、俺にはまだ『技能スキル』があるから! 以後技能もスキルでry。

 スキル……まぁすでに見えてるんだけどね?


地魔法……ランク1

やりなおし


 以上である!

 ほんっとに何にもしてこなかったんだなこの子!

 普通なら家事系のスキル(鍛冶じゃなくて家事ね?)くらいは持ってそうなもんじゃん?

 いや、多少経験値が入ってるモノもあるんだけどさ?

 なんかこう明るくなっていないスキル名の上に、MMOゲームのモンスターのHPみたいな感じでちみっとだけメモリが増えてるモノがあるから。

 でも明るくなってるのはこの二つだけ。両手剣術とか身体強化とかラ○スアタックとかさ、少し前、体感では数時間前に持ってた俺の戦闘系スキル、全部どこにいってしまった……。

 うん? 『やりなおし』? それスキルじゃなくて称号かなんかじゃねぇの? 人生二回目だし。いや、三回目でもあるのか。日本、異世界、異世界と転移してるから。

 なんにせよ、すべてが低すぎて非常によろしくない状態であることだけは理解できた。

 ここからの生活レベル改善方法がまったく思い浮かばず、くよくよと悩んでいても時間は皆平等に過ぎ去ってゆくもので──外も騒がしくなってきたし、そろそろ養護院の朝ご飯の時間である。

 ちなみに共同生活なので一人遅れて後から食べるなんてことは許されない。

 むしろ少しでも遅れたらご飯自体が残ってはいないというまさに弱肉強食の世界。

 まとめてたくさん生まれた子犬や子猫が自力で母親のおっぱいに吸い付けなければ衰弱死してしまうように、ここでは油断すると脱落(ポンポンペコペコ)してしまうのだから。

 異世界養護院のサバンナ感パネェな!!

 あっ、部屋から出る前にハリスくんの記憶にあるいつもの『アレ』を付けないと。

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