第二章 仲間が出来ました(3)
……ものすごい増えてる。それにこのMPの上がり幅はなんだ? かなりチートな気がするぞ。
フォルムチェンジ(キッチン)ってあるけどどうなるんだろう。キッチンをイメージすると屋台の屋根が消え、屋台の平らな部分がコンロと蛇口、流し台に変化し、収納魔法のところにオーブンが現れた。
「どうなっているんですか!?」
サラが戸惑っている。
「いや、俺もよく分からん」
初めて使うからな。
実験してみると、先ほど挙げた設備は自由に出し入れすることができた。レイアウトも自由だし、使い勝手が良さそうだ。それにコンロや蛇口は使ってもMPを消費しないことが分かった。これは収納魔法と同じだな。
とりあえず、元の状態に戻した。
今度は創造魔法をチェックしていこう。
「小麦の他にも肉だったり野菜だったりが作れるようになってるね」
試しに肉を魔法で作り出してみると、
「これは豚肉だな」
豚肉がブロックで出てきた。肉としてはスーパーで売っているようなごく普通のものだ。ただ、俺はいつも豚肉は薄切りのスライスを買っていたからインパクトは大きいな。
「これが豚肉ですか!? こんなに脂が入っている豚肉初めて見ましたよ!!」
サラがかなり驚いていた。
サラによるとこの世界の牛、豚、鶏肉は安価な肉の代表格で、一般に広く食べられているらしい。
そして魔物の肉はそれよりも高級品として扱われ、捕獲難易度が高ければ高いほど美味しい肉になるそうだ。
いつか食べてみたいな。
「これだけの豚だとオークと同じくらいの価値があると思うんで、多分この塊だけで千五百クローネぐらいしますよ」
「え!? そんなにするの?」
持ってみたところ、大体この塊で二百グラムぐらいかな。ということは百グラム七百五十クローネ。ブランド豚レベルだな。
あっちの世界との差がすごい。
「そもそもリュウさんの作り出すものの品質が段違いに良いんです! そこのパンだって二百クローネで売ってるみたいですけど本来なら何倍も価値のある商品ですからね!」
「いやいや、そんな高い値段で売ったら誰も買ってくれないでしょ」
日本でも高級な食パンが売られてたりしたけど、俺はなかなか手が出せなかったからな。
「貴族ぐらいしか買えないようなものをリュウさんは売っているということですよ」
「さっきの忠告の意味がよく分かったよ」
高価なものを簡単に作り出せるわけだから、俺のスキルで
サラの意見はこの世界の人から見てのものだし、自分の常識から考えるより断然参考になる。これからは慎重にやっていこう。
「それじゃ、調理魔法ってやつを試してみるか」
今までの魔法と同じようにハンバーグをイメージしてみる。
チン! 電子レンジのような音と一緒に出てきたのは白い皿にのったハンバーグだった。
ちなみに消費するMPは5だ。他のものに比べると高くなるな。
「これは……実家のハンバーグだな」
「これはなんですか?」
サラが
「これはハンバーグといって豚肉を形がなくなるまで細かくしたものを焼き上げた料理なんだ。俺の地元ではよく食べられてた料理だよ」
「ぶ、豚肉を使った料理ですか」
もう完全にサラの目はハンバーグをロックオンしていた。
「よかったら食べてみる?」
これでハンバーグをあげないほど俺は鬼じゃないからな。
「いいんですか!? ありがとうございます!」
「あ、ごめん。食べるためのナイフやフォークがないや」
パンしか売ってないから持っていなかった。
「それなら心配に及びませんよ!」
そう言ってサラはマイフォークを取り出した。
なんで持ってんだ?
「それではいただきます」
サラはゴクッと唾を飲み込むとハンバーグにかじりついた。
そのまま無言でハンバーグを
「どう、美味しい?」
「……」
サラからの反応がない。
「おーい、どうした?」
サラの目の前で手を振ってみた。
「ハッ!! 意識が飛んでました。こんなに美味しい食べ物がこの世に存在するんですね!」
そう言い終えるやいなや、残りのハンバーグを夢中になって食べていった。
「ものすごく肉汁がいっぱいですし、玉ねぎの甘さと食感が最高です! こんなおいしい料理、ここの領主様でも食べたことないんじゃないですか?」
サラから絶賛された。
これは売れそうだな。
「よし、そうしたら今日から追加で商品を置くことにしよう」
「ハンバーグですか!? 絶対に売れますよ!!」
サラが首を縦に振る。
「いや、これに少し手を加えて出そうと思ってるんだ」
「加える? 今のままでも十分美味しいですよ」
「このハンバーグを使ってハンバーガーを作るんだ」
◇◇◇
「よし、これで準備OK」
俺は雑貨屋で包丁、まな板、ボウルやスプーン、フォークなど簡単な調理道具を
収納しておけば、かさばらないし、備えとして持っておいたほうがいいからね。
俺は創造魔法と創作魔法を同時に使ってボウルいっぱいにケチャップを作る。
少し味見をしてみると、塩分もちょうどよかったからこのまま使えそうだな。
そのあと、バンズ、トマト、レタスを作り、包丁を使ってバンズを水平に二つに切る。
トマトは一センチぐらいの輪切りに、レタスはバンズの上にのせやすい大きさにカットする。
バンズの上にレタス、トマト、ハンバーグ、ケチャップをのせて、最後にバンズをかぶせたら、
「よし! 完成!」
おなじみのハンバーガーの完成だ。見た目はおしゃれなカフェで出てきそうな感じだな。
包丁でハンバーガーを半分に切ると、さっそく二人で味見をしてみる。
「うんま!!」
ハンバーグの肉汁はすべてバンズが受け止めてくれるし、何よりケチャップがさっぱりしてるから全然くどくない。
トマトもレタスも新鮮で、少し堅めのバンズとの相性も申し分ない。完璧だ。
「……っ!!」
サラはほっぺたを膨らませながら満面の笑みだ。
「よし、これをそうだな……六百クローネで売ろうか」
自分の屋台で売っている食パンの値段が二百クローネなことを考えると、あまり高すぎるのはよくないからね。外食の相場が五百~六百クローネだったから高めに設定してみた。
「これが六百クローネ……ここまでくるともう事件ですよ」
「そうしたら、売る方法はどうしようかな」
さすがにパンと同じように売るわけにはいかないよな。
「紙袋はどうでしょうか?」
サラが提案してきた。この世界にはある程度紙は流通していて、包み紙や紙袋も存在するようだ。
ただ、日本ほど安い値段ではないため、使われているのは高級な店が多いらしい。
まあ、ハンバーガーの材料費はかかっていないし、紙代ぐらいなら問題ないだろう。
「確かにそれがいいな。よし、それも用意しよう」
「はい!」
俺たちは開店に向けて準備を進めていった。
ハンバーガーの準備を終え、開店前の作業を済ませるとさっそく食パンを求めて人がやってきてくれた。
中には既に何回か見かけたことのある人もいるから、リピーターの人もいるってことだ。ありがたいな。
さすがに朝一からハンバーガーを食べたい人はいないだろうから、昼頃から売り込みを始めた。
「クロワッサンを一つ頼む」
一人の職人風のおじさんが正午ごろに買いに来た。ここ数日毎日クロワッサンを購入してくれている。せっかくだから売り込んでみよう。
「ありがとうございます。今日より新しい商品、ハンバーガーの販売を始めました。お昼におひとついかがですか? 一つ六百クローネとなります」
「ハンバーガー? 聞いたことない料理だな。ただここのパンは美味しいからなぁ……よし、一つもらおう」
「かしこまりました!」
よし、一個売れたぜ。俺がハンバーガーを取り出した後、サラが紙にくるんで手渡す。
「ありがとう。じゃあさっそくだけどいただくよ」
受け取ったおじさんが屋台の脇で食べ始める。
「うまい! 肉汁があふれてきて、それをパンが包んでくれるから最高だよ!」
おじさんが一口食べた途端に叫んだ。絶賛してくれているみたいでよかったよ。
「こんな美味しいものを俺だけが食べるのももったいない! 同僚に持っていくからあと三個頼む!」
「かしこまりました! すぐにお作りします!」
追加注文を受けて俺は収納魔法から三つハンバーガーを取り出す。魔法のおかげで時間経過がないから作り置きでも出来立てほやほやだ。
「また来させてもらうよ」
「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」
夢中でハンバーガーを食べ終わったおじさんは、追加で買った三つを抱えて去っていった。
ありがたいことに同僚の人に宣伝までしてくれるみたいだし、願ったり
その後も食パンを買いに来た客にハンバーガーを勧めてみたり、歩いている人に呼びかけたりしながら少しずつ売っていった。
それにサラがいるおかげでハンバーガーを作る作業も交代制でやることができたし、人がまとまって来たときには会計作業を手伝ってもらったりと、かなり助かった。
自分で作って自分で売るのは、一人でもできないこともないけど大変だからね。
よし、この調子で売っていこう!
夜七時、店を閉めることにした。人通りが少なくなってきたら閉めることにしているから閉店時間はまちまちだ。まあ、屋台だしそこら辺は柔軟にやっていこうと思う。
結果として新メニューのハンバーガーの売り上げも上々だった。これも主軸の商品になってくれることを祈ろう。
「よし、屋台を片づけるか」
「分かりました!」
サラと一緒に屋台の上に出していたものをしまっていく。
「今日はどれぐらい売れたんだろうな」
注文のメモは残しているから後でしっかり計算しておこう。
「今日の売り上げは食パンが二百七十四個、クロワッサンが七十二個、ハンバーガーが三十六個なので合計で八万三千六百クローネですね」
サラが手を動かしながらそんな風につぶやく。
「いつ計算したんだ?」
そんなことをしてるようには見えなかったけど。
「これがわたしのスキルです。ある程度の桁数までの計算は間違えずにすることができます」
それに数字に関することは正確に記憶することができるらしい。
「すごいスキルだな」
俺なんかこの世界に来てから売り上げを計算するために紙に書いて筆算して、それでも間違えるから本当にあっているのか何回も確認していた。
今まではスマホの電卓機能を使えば簡単だったからな。ありがたみが分かるよ。
「サラ、一つ提案があるんだけど」
「なんですか?」
「もしよかったら商会の経理を手伝ってくれないか?」
これだけ計算に強い人がいたら俺としても心強いからな。ぜひともお願いしたい。
「本当にいいんですか!? ずっとやりたかったんです!」
なんでもサラは、自分のスキルを活かして経理だったり経営の仕事をするためにこの街に来たらしい。
村でもその勉強を頑張っていたみたいで、お金の管理を任せてもらえると聞いてかなり喜んでくれた。
「よろしくね」
「はい! 任せてください。一クローネの間違いもなく管理してみせます」
サラの力強いセリフを聞いて俺は頼もしく感じた。
助けた人が頼もしいメンバーになってくれるなんて、本当に人生は予測できないね。
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