第二章 仲間が出来ました(2)

「ごちそうさまでした。わたしの名前はサラといいます。おかげで助かりました」

 彼女は食べ終わるとお礼を言ってきた。十五個クロワッサンを食べてたし、よほどお腹がいてたんだろうな。

「リュウといいます。サート商会という商会を立ち上げてここでパンを売っています。あの、何かあったんですか?」

「はい、実はわたしトリアートという村出身でして……あ、もちろんご存じないですよね。フストリア領の中でも辺境も辺境にあるんです」

「すいません、自分もこの街に来たばかりでフストリア領のことには詳しくないんですよ」

 というか、この世界の地名ほぼすべて分からないからね。

「まあいわゆる田舎ってところで農業、林業の村なんです。それで都会に憧れまして……」

「それでソルーンまで来たと」

「はい、フストリア領の中では一番大きい都市ですから」

 ここまではよくある話だな。

「親も応援してくれたのでお金を持たせてくれたんですが、ここへ来るまでの交通費、あとこの街に入るお金ですべてなくなってしまって……馬車でぼったくられてしまったのと、道中で野盗の被害にあったのが大きいですけど」

 それでこれからどうしようと困っていたところだったらしい。

「あの、もしよかったらここで働かせてもらえませんか? 恩返しをしたいんです!」

 サラさんが真剣な顔でそう言ってきた。

「いいんですか? うちみたいなところで」

 まだ食パンとクロワッサンしか売ってない商会だからね。

「はい、リュウさんのパンは本当に美味しかったです! これなら絶対に大繁盛します! ぜひそのお手伝いをさせてください!」

 サラさんが頭を下げる。

「そういうことなら、よろしくお願いします」

 ちょうど店員を募集しようとしていたところだし、こっちとしてもありがたい話だ。

「ありがとうございます!」

「そしたら、サラさん」

「サラで大丈夫です。それに敬語もやめてください。リュウさんが上司なんで」

「そうですか? じゃあサラさ……サラって呼ぶね。ところでサラは今夜どうするつもりなの?」

「野宿ですね」

「野宿って危なくないか?」

「そうですけどお金がないので……」

 うーん、若い女性を野宿させるわけにはいかないよな。

「じゃあとりあえず何日かは宿に泊まってもらおうか。もちろんお金はこっち持ちで」

 明日から働いてもらうわけだし、できる限りのサポートはしたい。

「本当に何から何まですみません」

 サラが頭を下げる。よかった、受け入れてくれた。

 店を閉めた後、俺たちは『アリアドネの宿』へと向かう。

 部屋は空いていたからローサさんにとりあえず三泊分お願いしておいた。

「じゃあ俺は自分の家に帰るよ。明日からよろしく」

「本当にありがとうございます。……そういえば明日はどこに行けばいいですか?」

「あ、ごめん」

 サラを案内し終えたことで一仕事終えた気になってたよ。

「朝八時にこの宿の前に集合で」

「了解しました」

「それじゃお休みなさい」

「はい! お休みなさい!」

 こうして一人従業員を雇うことになった。


「おはようございます!」

 朝八時、『アリアドネの宿』へ向かうとサラが出迎えてくれた。

「おはよう、昨日はよく眠れた?」

「はい! 久しぶりのベッドでゆっくり眠れました!」

「それならよかった。さっそくだけどこれからパンを売りに昨日と同じところに向かうから」

「了解です。ついていきます」

 サラに道案内しながら俺たちは噴水広場へとたどり着く。

 そしていつもの場所へと屋台を置いた。

「ここでパンを売るんだけど、今からパンを取り出すね」

 俺は目の前に食パンとクロワッサンを一つずつ置く。

「これが食パンで一つ二百クローネ、こっちが昨日サラさんが食べたクロワッサン、一つ百クローネだよ」

「二百クローネと百クローネ……あれ? わたし昨日そのクロワッサンってパンをいっぱいいただきませんでしたか?」

「十五個ぐらい?」

 いい食いっぷりだったな。

「……せ、千五百クローネ分のパンを食べたんですか!? 本当にすみませんでした!!」

「いや、別に気にしなくていいよ。無料だし」

「え、無料ってどういうことですか?」

「いや、魔法で作ってるからさ。ほら」

 そういうと俺はいつも通り食パンを作り出す。

 チン!

 屋台の上に焼き立てのパンが出てくる。うん、今日もちゃんと焼けてるな。

「……………え?」

 サラが口を開けたまま固まってしまった。

「どうした? 何かおかしいところでもあった?」

「おかしいも何も魔法で食料を作れるなんてありえませんよ!? 『魔食不可能』の法則知らないんですか?」

「魔食? 何それ???」

「まさか魔法三大法則を知らないんですか?」

 サラが驚く。

「魔法三大法則というのは『スキル獲得』『スキル魔法固有』『魔食不可能』の三つのことを指します」

「なるほど」

「一つ目の『スキル獲得法則』は、人は十五歳になると一つのスキルを獲得するということです。大体それまでの生活や遺伝に影響されますね。例えば農家に生まれた人はスキル『栽培』だとか農業に関連するスキルを得たりします。ちなみにレベルアップの仕方もそのスキルによって様々です」

 うーん、俺にはこの法則は当てはまらなそうだ。なにせスキルを獲得したのは五日前だし。この世界の人だけの法則なのかも。

「二つ目は『スキル魔法固有法則』です。スキルに応じた魔法が使えますが、逆に言えば他のスキルの魔法は使うことができないということです」

 なるほど、つまり俺はサラの魔法を使えるようにはならないということだな。

 ちなみに、同系統のスキルなら重なる魔法もあるそうだ。

「ところでサラのスキルはなんなの?」

「わたしですか? わたしは『演算』というスキルで計算などの処理能力が向上します。魔法を使うというよりは常時発動するタイプのスキルですね」

 俺みたいにMPを消費して使うタイプの人もいればサラみたいに常にスイッチオンの人もいると。

 収納魔法に近いといえば近いな。MP使うわけじゃないし。

「それってめちゃくちゃ便利なスキルじゃない?」

「はい、でもうちの地元だとあまり出番はなかったんですよ。農作業ばかりでしたし」

「だからソルーンに来たのか」

 自分のスキルをもっと生かすためにやってきたわけだ。

「で、最後が『魔食不可能の法則』です。どんなスキル魔法を使っても、食料を作ることはできないんです。さっきのスキル『栽培』も作物の成長を促進させることはできても作物そのものは作れません」

「え、でも俺作れてるよ?」

「だから驚いてるんじゃないですか!? とにかく、このことは絶対他の人には秘密ですよ! どんな人がリュウさんを狙うか分かりませんからね!」

「珍しいから?」

「それだけではありません。魔法三大法則に当てはまらないスキルがあると知ったらそれを利用したいと思う人が絶対出てきます。他にもありますけど……」

「分かった。他の人には言わないようにするよ。実際スキルについて説明するのはサラが初めてだったし」

「それならよかったです」

 確かに、魔法で食べ物がいくらでも作れると分かったら、誰かが俺のことを利用しようとするかもしれないな。

 言いふらすのはやめよう。もともとする気はなかったけど。

「それでリュウさんのスキルって一体なんていうんですか?」

「『屋台』ってスキル」

「聞いたことないですね」

 やはりこの世界の人でも知らないスキルのようだ。

「どんな魔法を使えるんですか?」

「うーん、いろいろ使えるよ」

 俺はステータス表示を開いて確認してみた。


 名前 リュウ

 種族 人間

 年齢 29

 レベル7

 HP 890/890

 MP 2675/3210

 スキル 『屋台』

 創造魔法 水、小麦(小麦粉)、肉、卵、野菜(トマト、玉ねぎ、レタス)、塩、しょう、砂糖

 創作魔法 パン(食パン、クロワッサン、バンズ)、ケチャップ

 調理魔法 ハンバーグ

 収納魔法 創作収納 収容量12%

 屋台魔法 透明化、屋台増殖、フォルムチェンジ(キッチン)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る