第二章 仲間が出来ました(1)
次の日の営業は商人ギルドへ行くために午前中で切り上げた。
売り上げは食パン百二十八個、クロワッサン四十二個。
クロワッサンの値段は一つ百クローネにしておいた。
合計で二万九千八百クローネの収入だ。
「お待たせいたしました。本日はどのようなご相談でしょうか?」
商人ギルドに行くと、ナターシャさんが応対してくれた。
「実は部屋を借りたいなと思っているんですが、どうしたらいいですか?」
「なるほど、そうしましたら、商人ギルドのほうでも賃貸なら行っておりますのでご案内しますね。どのような部屋をお探しですか」
「そうですね、普通の一人暮らし用の部屋がいいなと思っています」
「相場は四万クローネあたりですね。安いところで二~三万クローネ、高い物件だと七万クローネ以上はかかるかと。一人暮らし用の部屋だとある程度割高にはなりますね」
「はい、大丈夫です」
「かしこまりました。予算はいくらほどになりますか? あと、他に条件、例えば台所の大きさや部屋の数などの希望があればお願いします」
「最大で月七万クローネぐらいですね。ただ、安い物件も教えてほしいです。部屋の広さにこだわりはないですが、台所は広いほうがいいですね」
今日の売り上げから考えるとそれぐらいまでなら大丈夫だけど、節約したいから安いところもチェックしておきたい。
収納魔法のおかげで荷物は屋台の中にまとめられているから部屋の広さはそこまでいらない。
ただこれからのことを考えて台所は広めのほうがいいな。今後販売を拡大していくうえでは料理をすることも増えるだろうからね。
「かしこまりました。条件から検索してお薦めの物件はこちらになります」
ナターシャさんから四つの部屋の図面が渡された。
良さそうなのは二つ。一つ目がレンガ造りの二階建てアパートの二階で間取りは1K、もう一つは石造りアパート四階建ての最上階の1DKだ。
レンガ造りが五万五千クローネ、石造りアパートが七万五千クローネだ。
「とりあえず、二つとも見せてもらうことはできますか?」
「はい、大丈夫ですよ。鍵を取ってきてもらうので少々お待ちください」
「あ、あとすみません、部屋の他に従業員の募集もしたいなと思っているのですが」
もう一つ聞きたいことがあったのを思い出したから慌てて聞く。
「従業員募集ですか? ちなみに何人ぐらい採用する予定でしょうか?」
「一人ですね」
将来的には何人か雇うぐらいお店を拡大できたらいいんだけど、まずは一人からだ。
「なるほど、そうしましたら商人ギルドの掲示板で募集をかけることができますよ」
ナターシャさんに連れられて、ギルド入り口の横にある掲示板へ向かった。
〈求人〉
酒場アイリッシュ
料理人1名
給料月十八万クローネ~
面接あり
このような求人募集から
〈依頼〉
引っ越し手伝い3名
一日限定
日給八千クローネ
先着順
このような単発の依頼まで様々な求人が貼ってあった。今も数人が掲示板を見ているし、ここに募集を出せば人は集まりそうだな。
「広告料はいくらですか?」
「一週間につき二千八百クローネかかります」
「それでしたら後日依頼をまとめて持ってきます」
給料とか詳しく決めてないし、今日は無理だからね。
「かしこまりました。ちなみに、人を雇った場合には毎月の営業報告の際に申告するようにお願いします。それでは鍵の準備ができましたので行きましょう」
それから俺はナターシャさんに連れられて部屋を見に行った。
◇◇◇
「最初はレンガ造りのアパートですね」
その部屋は噴水広場から近いところにあるレンガ造りの二階建てだった。
「良さそうな雰囲気ですね」
ナターシャさんに連れられて部屋へと入る。
「おお! いい感じですね」
中は家具付きですぐに住めるようになっていた。部屋はシンプルで宿と同じようなベッドと、少し大きいが四人用のテーブルが置いてある。
キッチンスペースはコンロが一つとシンクがあるから一人暮らしには十分だ。
この国の文化なのか風呂はなかったが、トイレとシャワースペースが別になっていたのはかなり
ちなみにコンロと蛇口、シャワー、トイレは火と水の魔法石を特定の場所にはめ込むことで使うことができるとナターシャさんが説明してくれた。
魔法石自体は商人ギルドでそれぞれ一万クローネ前後で販売しているそうだ。これで数ヶ月もつらしい。
ここが第一候補だな。
次のアパートにも行ってみたが、一人で暮らすには部屋が大きくて、家賃も高かった。
二つを比べた結果、レンガ造りのアパートに住むことにした。
ギルドに戻った俺はさっそく契約をする。
「それでは契約金二万クローネと最初の家賃五万五千クローネ、合わせて七万五千クローネですね」
俺はお金を支払い、契約書にサインする。
こうして俺は自分の部屋を手に入れることができた。
やっぱり自分の部屋があるのは安心感が違うな。それにこの世界の住人になったんだって感じがする。
それにしても本当に便利なスキルをもらったよ。効率よく稼がせてもらっているし、おかげで家賃もほとんど昨日の売り上げ分で賄うことができた。
この世界に来たときはなんだこれって思ったけど、今となってはこのスキル以外考えられないな。これからも活用させてもらおう。
次の日、同じように屋台を出し、夕方にそろそろ店を閉めようかなと考えていると、目の前の通りを一人の女の人が歩いてきた。
髪はブロンドのロングでスタイルもよく、西洋人っぽいくっきりとした面立ちだ。かなりの美人さんだと思う。ただ、少し様子が変だ。
髪や着ているピンクのドレスも汚れているし、トボトボと歩いている。
何かあったのかなと思って見ていると、彼女は視線をこっちに向けた。そして、パンの匂いに誘われるかのようにやってきた。
「うわぁ……
彼女がうっとりとした表情でパンを見つめている。それと同時に彼女のお腹の鳴る音が聞こえてきた。
「お一ついかがですか?」
「あ……大丈夫です。すみません、また来ますね」
そう言うと名残惜しそうに歩き始めた。
「あの!」
俺は彼女に声をかけた。
「もしよかったら一つパンを試食していきませんか?」
パンをあげるって言うより、試食って言ったほうがハードルが低い気がしてそんな風に提案した。
「いいんですか!?」
どう見ても普通な雰囲気じゃないし、放っておくわけにはいかないからね。
「ええ、クロワッサンっていうんですが、もしよかったら」
俺は一つ彼女に手渡した。
「本当にありがとうございます」
彼女は受け取ると、一口かじった。
「美味しい! 外はサクサクしていて、中が柔らかくて、こんなに美味しいパン初めてです」
彼女はペロリとクロワッサンを平らげた。
「よかったらまだ食べますか? ちょうど今日は店を閉めようと思っていて、売れ残りが出てしまったので」
収納魔法にしまえば時間経過がないから売れ残りは出ないんだけど、まあ
「いいんですか!?」
「ええ、ここに並んでいるクロワッサンお好きな数だけどうぞ」
無料だし、俺としては損はしないからね。
「本当に……本当にありがとうございます」
そう言うと彼女は夢中になってクロワッサンを食べ始めた。
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