第一章 異世界にやってきました(6)
「お待たせしました! パンの販売を始めます!」
屋台を設置した後、俺は列に並んでいる人に呼びかける。
「「おお──!」」
列から歓声があがる。こういう反応をしてくれると頑張って作った甲斐があるよ。
そして俺はパンをどんどん販売していった。
今日は昨日の売れ行きを考えて一つ二百クローネ、お一人様三個までの個数制限をつけることにした。
できるだけ多くの人に購入してもらいたいからね。
あと、みんな買っていく量がかなり多い気がする。普通に三斤とか買っていく人がいるからね。
多分日本と違って主食がパンなことが関係してるのかもしれないな。
「食パンを一つくださる?」
一人のエルフの女性が店先に立った。
「一つですね。かしこまりました。二百クローネになります」
「はい、ちょうどだわ」
お金を受け取る。
「こちらがお品物になりま……」
そう言って手渡そうとすると、なんと食パンが空中に浮きあがった。
エルフの女性が人差し指を自分のほうへと動かす。
すると、パンがエルフの女性のほうへと移動し始めた。
そして再び人差し指を動かすと今度は綺麗に食パンがスライスされ、ストンと女性の手に持っていたかごへと落ちた。
「ありがとう、また来るわ」
俺があっけにとられていると、エルフの女性は笑顔でそのまま去っていった。
「かっこいいなぁ」
自然に使っていたし、本当に魔法が根づいているんだな。今の魔法を見ても他の人は無反応だし。
でも、こういうのを目の当たりにすると、ラノベを読んでいた俺としてはワクワクするな。
おっと、気を抜いちゃいられない。次のお客さんだ。
昼になる頃には売り上げも百五十斤を超える。
「今から一時間昼休憩に入ります! また午後から販売を始めますので少しお待ちください!」
時刻は午後一時、さすがに一人で作業するのは疲れるから休憩を挟むことにした。
一度屋台を引いて宿まで戻る。このままだと用意した分がすぐに売り切れそうだし、作り足しておこうと思ったからだ。
「レベルは上がっているかな?」
今日はだいぶ売り上げたしちょっと期待しながらステータスを開く。
名前 リュウ
種族 人間
年齢 29
レベル4
HP 450/450
MP 980/980
スキル 『屋台』
創造魔法 水、小麦(小麦粉)
創作魔法 パン(食パン、クロワッサン)
収納魔法 創作収納 収容量1%
屋台魔法 透明化、屋台増殖
おお、結構上がっているな。というかめっちゃ早くないか?
まだレベルが低いからっていうのもあるが、昨日の今日でもう3もレベルが上がっている。
そして、レベルアップによってクロワッサンも作れるようになっていた。これはすごいな。
試しに一つ作って食べてみる。これも作るのにMPは4消費するみたいだ。
綺麗に焼き目がついていて形も綺麗だ。大きさはベーカリーで見かける一般的なサイズだな。
一つ食べてみよう。
サクッ!
おお! うまいな! サクサクで柔らかいし、バターの風味も最高だ。
よし、これも午後から売ろう。ただ、昨日ベーカリーを見てまわった感じでは、クロワッサンも見かけないパンのはずだから、今日のところはサービスとして食パンを買ってくれた人限定で配るか。
俺はクロワッサンを五十個と食パンを六十個追加で作って午後の販売に備えた。
お昼休憩を終えると、俺は元の位置に戻り、屋台の上に食パンとクロワッサンを並べて販売を再開した。
「午後の販売を始めます! 新商品のクロワッサンもご用意しました! ぜひお買い求めください!」
「この不思議な形のものがクロワッサンっていうのか?」
「バターの匂いがしてうまそうだな」
パンを買いに来た男性二人組がそんなことを言っていた。やっぱりこの世界の人はクロワッサンを知らないんだな。
「自慢の一品なので、もしよかったら。本日は試食として無料です」
「そうだなぁ、ここの食パンは美味しかったし、クロワッサンってやつも試してみるか。よし、一つもらおう」
無事に最初の一つが受け取ってもらえた。
「ありがとうございます!」
食べてみたら絶対
それから俺は次々パンを売っていった。
午前中とは違い、長い行列になることはそんなになかった。
だけど一人で屋台収納からパンを取り出して、お金の受け渡しをして接客をしてを繰り返すのは、飲食系のバイトをしたことがなかった俺には慣れるのに時間がかかった。
それでも、自分で作ったものがどんどん売れていくのは嬉しいな。大変だけどやりがいを感じるよ。
時刻は夕方の四時ちょうど、終わりにするにはちょうどいい時間だ。
今日は完売こそしなかったが、計二百八十四個の食パンを売り上げた。
明日からはクロワッサンも売り始めるからもっと
俺は屋台を引き上げて、宿へと戻った。
そういえば忘れてたけど透明化って魔法が追加されてたよな?
部屋で集計作業を終えた俺はそのことを思い出して、ステータスを再度確認してみる。
「お、これだこれ」
屋台魔法 透明化、屋台増殖
魔法の系統も創造、創作、収納、屋台魔法と増えてきた。
これ以上増えるかは分からないが、そこは様子見かな。
今回の魔法はイメージが容易だったので、停めておいた屋台まで移動してやってみる。
すると案の定、屋台が透明になった。ちゃんと屋台には
これ、防犯目的にはいいな。
このままにしておこう。
ちなみに屋台増殖の魔法は文字通り屋台を増やすことができた。まあ今のところ使い道はなさそうだ。
部屋に戻った俺は今後のことを考える。
多分この調子ならそれなりの金額は稼げるようになるだろう。
魔法のおかげで原価率0%というとんでもないことになっているから、売り上げが丸々利益になっている。
今日だけで六万クローネ近く稼いでいるから驚きだ。
そうしたら今度は住む場所の確保かな。
いつまでも宿に泊まるわけにもいかないし、何よりお金がかかる。
不動産屋に行って部屋を借りるか。
それに、一人ぐらい従業員を雇えたらいいな。
一人で営業を続けるのはできないことはないが負担が大きい。
サポートが一人入るだけでだいぶ仕事も楽になるはずだ。
どうやって募集したらいいんだろう?
商人ギルドに行って聞いてみることにしよう。
とりあえず方向としてはこんな感じだな。
今のところ順調に進んでいて嬉しい。
コンコン!
ドアをノックする音がした。
「リュウ! 夕飯の準備ができたよ、都合がいい時間に下りてきな」
ドアの向こうからローサさんの声が聞こえてきた。
「はい! 今行きます!」
お腹も減ったしすぐに行こう。
俺は部屋を出て夕飯を食べに向かった。
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