第一章 異世界にやってきました(5)
一時間後
「人が来ない……」
結局女性が買ってくれて以後は二人しか買ってもらえなかった。
食パンはこの世界にはないらしいし、食べてもらえばさっきのローサさんみたいに喜んでもらえるんだろうけど、売れるようになるには時間がかかるかもしれない。
ただ、それだとお金がもたないから値段を下げることも検討したほうがいいか。
と、売り方を考え直そうとしたそのとき。さっきパンを買ってくれた女性が息を切らしてやってきた。
「よかった……まだあった! すいません五個ください!」
「か、かしこまりました」
急な大量注文にかなり驚いたが、急いで準備して渡す。
「ありがとうございましたー!」
俺がお辞儀をして顔を上げると女性はダッシュで去っていった。
よほど急いでたんだな。
なんにしても五個も
「お、もうこんな時間か」
その後も何人かにパンを売っていると、時刻は十一時になっていた。少し早いけど昼飯でも食べに行くか。
昼飯を食べ終えて屋台へ帰ってくると、
「え、なにこれ?」
なんと屋台の前に行列が出来ていた。全員女性でワイワイ
ざっと十人はいるだろうか。
その光景に驚いてその場で立ち尽くしていると、
「あなたが店員さん? パンを買いたいんですけど、もう売り切れたんですか?」
と、行列の前のほうで他の人と喋っていた一人が声をかけてきた。
「いえ、まだ残ってますよ」
まだざっと七十個はあるからね。
そう言うと列から歓声があがった。
「やったわ! マリアさんが配ってくれたパン、もちもちふわふわで美味しかったのよねぇ」
「配ってくれた?」
どうやらさっき大量に購入していった女性がママ友に配って回ったらしい。
それが美味しかったものだから買いに来たのだとか。
ママ友のつながりってすごいんだな。
それから俺は急いで並んでいた行列を捌いていった。
みんなが買ってくれるから在庫がどんどん減っていく。
それに行列が出来ていたおかげで、それを見た他の人も列に並んでくれるようになった。
パンが次々に売れていく。一人で作業するのが大変なくらいだ。
「はい、これで最後の一個です! ありがとうございました!」
昼飯から戻ってわずか一時間で残りの七十個近くが完売した。
あまりに急に売れ始めたから、最後のほうに並んでいた人には一人一個ずつの販売になったよ。
まさか初日から百斤売り切れるとは思っていなかったから驚いたな。
宿に戻って今日の整理や明日の準備でもしよう。
まだ午後の一時だったが、俺は屋台を引いて宿へと戻った。
「よし、作業するか」
屋台を宿の脇に置き、部屋に戻ると俺は机の前に座った。
「まずは会計からだな」
俺は雑貨屋で買った巾着袋に入れていた硬貨を取り出して売り上げの集計をする。
えーっと巾着袋の中には、銀貨四枚と銅貨百二枚、鉄貨が五十枚だから……一万四千七百クローネか。
で、百五十クローネが百個で一万五千クローネ、一つローサさんにサービスした分と、試食に1つ使ったからその分を差し引いて一万四千七百クローネ、うん、ぴったりだ。
人生で初めて自分で商品を作って自分で売ったわけだけど、やっぱり楽しいね。買ったお客さんが喜んでくれるところを見ることができるのはすごくいい。なんかもらったこのお金もありがたみが違うように感じるよ。
異世界に転移したおかげで自分の店を持つことができるようになったわけだし、感謝しないといけないな。
売れ行きも良かったし、このまま軌道に乗れるように頑張ろう。
俺はもらったお金を大切に巾着袋の中に戻した。
「よし、次にパンづくりだな」
明日までに作れるだけ作りたいから、屋台に戻ろうとしたそのとき、
ピコン!
頭の中でそんな音が響く。
なんかこの前にもこんな音聞いたよな……そうか、ステータスを見たときにした音だ。
俺は意識を集中させてステータス表示を見てみた。
名前 リュウ
種族 人間
年齢 29
レベル2
HP 180/180
MP 350/350
スキル 『屋台』
創造魔法 水、小麦(小麦粉)
創作魔法 パン
収納魔法 創作収納 収容量4%
よっしゃあ!! レベルが上がってる!
ってことは稼いだ金額に応じてレベルアップしていくってことだな。
これならコツコツレベルアップできる!
それにレベルアップしたことでMPが上がっている。これで明日売り出せるパンの量も増やせるから願ったり
あと収納魔法のところに魔法が増えている。どうやって使えばいいんだろう。
「創作収納ってことは創作魔法と収納魔法が合体してるってことだよな」
もしかすると……
俺は手元に屋台のない状態で水や小麦粉、そしてパンをイメージしてみる。
すると、ステータスのMPがピッタリ4減っていた。そして、収納魔法の収容量も増えている。
やっぱり、創作魔法で作ったパンをそのまま収納できるという魔法みたいだ。
これならわざわざ屋台のそばに行かなくてもパンを作って収納しておくことができる。ちなみにMP消費は0だ。
地味な魔法だけど、宿の部屋にいてもパンが作れるから俺としては結構重宝しそうだ。
それにレベルアップで収納魔法の容量も増えていた。
これで容量を心配せずに作ることができる。
よし、これからもパンを売ってレベルを上げていこう。
翌朝、俺は宿泊延長をお願いした後、パンを二百五十個準備して噴水広場に向かった。
「すごい、もう並んでる」
昨日と同じ場所に屋台を置こうと向かったら、既に六人も並んでいた。
これって俺のパンを待っていてくれたってことだよな。中には昨日来てくれた人もいる。もうリピーターになってくれているなんて嬉しいな。
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