カラクリ＝グランド・ピアノJr

カラクリ＝グランド・ピアノJr

アメリカ南部の田舎町にある、まるで本を積み上げたような白い家と聞いて、勘が良ければ思い出すだろう

昔、ある若い男が

ここにゼンマイの犇めくグランドピアノを置いた

埃はそれほどない部屋だ

朝が来たら朝を弾き

日が沈めば夜を弾く

ランチを食べる間ぐらいは弾かないで欲しいが……

男はある日、家を空けた

ピアノはもう何十年とそのままだった

するとつい先日、老人と少女がやってきた

私はツリーハウス棲まいだから

町をなるべく見渡せた

あのピアノは人の手で弾かれたことはない

カラクリ＝グランド・ピアノJr

そう名付けられていた

私は時計を直しながらラジオを聴いていた

外からピアノの音が聴こえる

私はラジオをオフにして、庭の木と時計のネジを眺めながら、ただ耳を傾けていた

ロバート・フサの弦楽のためのアダージョだ

こんな曲は弾かれたことはなかった

あの家の窓に見えるよ

小さな手が踊っている

午後3時を過ぎる頃

二人は家を後にした

グランド・ピアノJr

また独りになった

アダージョの音があの家から聴こえる