第14話 勇者の望み
ダンジョン歴
今から30年前の西暦2500年全国にダンジョンが突如発生することになる。
日本では、レオの転移先である新宿ダンジョンが初めて生まれる。
間違って入ってしまった一般人の中から死人が出てしまったことにより、ダンジョンは一時封鎖。自衛隊の軍隊が武器を持って突入したが、その時は5階層しか進むことは出来なかった。
ダンジョンは危険で入り口を閉じて隔離する案も出たが、ダンジョンで手に入れた魔石が、莫大なエネルギーを生むとして、資源に乏しい日本には受け入れられることはなかった。
自衛隊は5階までの探索を繰り返し、魔石を回収を繰り返す。
2505年、ダンジョンが増加 東京には追加で品川に一つ。各県にも一つづつ発生。
ここで政府がダンジョン攻略に乗り出すと同時に、品川ダンジョンを一般公開して探索希望者を募る。
2510年 ダンジョンの外に出ることができる強力な魔物が出現。周囲の人を皆殺しにして再びダンジョンに帰る。
ダンジョンが増加。東京は 練馬 世田谷 新宿 品川 渋谷 江戸川 他の県でも最低五つのダンジョンが発生する。
探索者協会を設立して政府からノウハウを得る。
研究によりエネルギー問題解決。魔石発電に切り替え実施。
2513年 ダンジョン配信者なるものが出始める。
2518年 フライアイと呼ばれる魔物の素材を使用したダンジョンカメラが発売され、爆発的なダンジョンブームに。
Bランクまでの探索者にはダンジョンカメラの着用を義務づけられる。
鏡花は異世界出身である俺にも分かるように要約して説明してくれた。
そこでふと疑問に思ったことがある。
ダンジョンの数はここ二十年間増加していないと言っていた。
「何でダンジョンの増加が止まったんだ?」
「それは、探索者の数が増えたからだと言われてるよ。大勢の人がダンジョンに乗り込んだことによってダンジョンが増加するための力が抑制されてるんじゃないかって話だね」
皮肉なことに命を落とす危険性があるダンジョンも、今では無くてはならない貴重な資源の一部になってしまっているらしい。
エアリアルでは魔物のいない世界を夢想している者がいたが、ここでは一攫千金を夢見てダンジョンに潜る連中が後を立たない。
そして鏡花の話の中で一番驚いたのがダンジョンに出てくる魔物に対する見解だ。
ダンジョンに出てくる魔物は全て偽物で、ダンジョンが作り出した概念的存在であると言う。
「偽物の魔物。どうしてそう思ったんだ?」
「簡単なことだよ。エアリアルではどこで魔物を倒しても死骸は残るけど、地球では一部しか回収できない。中には落ちるはずのないものもドロップしたりするんだ。レオにも覚えがあるだろ?」
オークを倒した時にドロップした紫のローブが頭に浮かぶ。
「巷ではドロップ品のことをダンジョンの贈り物と呼ぶものもいる。これは神が与えた試練に打ち勝った贈り物だとね……」
……贈り物か。俺がここにいる理由も創造神による贈り物みたいなものだ。だがその意図を履き違えているとしたら? 俺に関して言えばただの厄介払い。そしてこのダンジョンについても更に別の目的が……。
「うちの説明はこれで終わり。後は好きにしてくれたらいいんだけど……。レオはどうやってこの世界にやって来た? 向こうで死んだわけじゃなさそうだし……」
鏡花は俺の体を上から下までゆっくりと眺めると、生唾を飲み込む。そしてこちらに手を伸ばしてきた。その異様な圧力に後ろに下がろうとしていたところ、理紗の手から小さなコインが放たれる。
コインは触れるか触れないかの距離感にあった鏡花の手のひらにぶつかり、鏡花は舌打ちをしながら手を戻す。
「お金を粗末にするとバチが当たるよ」
「おや? バチが当たったのは鏡花さんのようですけど?」
再び喧嘩を始めようとした二人を止めて、俺の目的を説明した。
魔王を倒して一週間もしないうちにここに来たこと。転生した魔王と戦い、その上で死にたいと……。
そこで鏡花から質問が入った。
「魔王を倒して終わりじゃいけないの?」
「ちょっと鏡花さん!」
焦ったように声を上げる理紗を無視して、鏡花は俺の目をじっと見る。
……言わなければ駄目か。魔王の情報を求めている俺が自分の情報を出し渋っていては、相手からも教えてくれることはないだろう。
「俺は自殺することが出来ないんだ。それは俺を助けてくれた人のお願いに反するから……。せめて死を求めるにしても、俺は戦いの果てに死ななければいけない」
誰よりも戦いを好んだ一人の男の言葉。だが俺の言葉に鏡花は不満をあらわにする。
「だから魔王に殺してもらおうって話? それは虫が良すぎるんじゃないかな。魔王が仮にこの世界に転生したとして、平和に生を謳歌していたらどうする? そんな人に人殺しを頼むの?」
「もし、魔王が前世の記憶を持っていたら俺の言葉に乗ってくれる可能性は高いと思ってる……」
俺の言葉に鏡花は目をぱちくりと見開きながら理紗を見る。理紗は手と顔を大きく横に振っていた。その様子を見て鏡花はこちらに向き直ると……。
「理由を聞いてもいい?」
「俺が魔王を殺した時、魔王は正気じゃなかった。そのせいで魔王は全力の半分程度の力しか使えてなさそうだったんだ。魔王は俺に恨みを持ってるはずだ。そんな相手なら多分、俺の願いも……」
「聞くわけないでしょ、馬鹿!」
俺の顔にテーブルクロスが投げつけられる。顔に投げられた綺麗な布を掴み上げると、理紗が顔を真っ赤にして怒っていた。
「もうネタバレか? もうちょい聞きたかったんだけどな」
「我慢出来ないんだからしょうがないでしょ? 勇者レオ。あなたに伝えることがある」
理紗は覚悟を決めたように拳を強く握り、宣言する。
「魔王リスティルは私の前世の名前。その上でさっきの言葉に返答するわ。私はあなたのことをこれっぽっちも恨んでない。だから何があったってあなたのことを殺してなんかあげない」
衝撃で固まる俺が元に戻ったのは三十分を要した。
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