第13話 鏡花の正体



 あの後、半泣きになっている来栖を地下に残して鏡花の借宿である一室に案内された。

 理紗も同じようについてきているが、紬は今回の探索の報告をするために学校へと向かった。


 理紗は行かなくていいのか少し疑問に思ったが、俺に何か伝えることがあるらしい。


「色々話す前にうちのことを教えとくか……。気がついてくれなくて中々にショックだったんだぞ」


「……気がつくわけないでしょ」


 鏡花の言葉を聞いた理紗が吐き捨てるように呟く。


「……まあ、いいや。最初に会った時にうちが言った言葉覚えてる?」


 鏡花が言った言葉……。ふと脳裏に思い起こされるのは残念そうに語ったあの台詞。


『……あんなに逞しいもので貫いてくれたのに、うちのことを忘れるなんて酷いじゃないか』


「鏡花は俺に会ったことがあるのか?」


 正解だったのか鏡花ニンマリと笑みを浮かべる。


「会ったどころかうちを刺し殺したのはあんただよ」


 刺し殺した? こっちに来てからまだ一度しか戦闘していない。まさか……。


「先に言っておくけどオークではないからね」


 理紗がお茶を吹き出した。

 鏡花は震えながらむせている理紗を見て鋭い眼光で睨みつける。


「オークは北条ちゃんに譲るよ。間違われるほど似てるのなら適任だろうし……」


 理紗と鏡花の視線が強く交錯する。

 睨み合いが終わると、鏡花の口から驚愕の真実が告げられる。


「獣王? 鏡花が?」


「前世の話な。うちの最期はレオが一番よく知ってるだろ?」


 どこか他人事のように話す鏡花の目に憎しみの感情は見えなかった。鏡花の言う通り俺は獣王の最期を看取った……いや、殺したのは俺だ。


「あの時はどっかの魔王のせいでほとんど意識なかったからな。レオの聖剣に貫かれた時に意識が戻ったんだけど……」


「やっぱりあの時の魔王軍は操られていたのか……」


「最後に戦った時はそうだね。同じ魔物と言っても仲間意識はほとんどない。それがあんなに固まるなんて普通はあり得ないんだよ」


 結局俺が勇者としてやってきたことはただの大量虐殺だったのか。虚しさに似た感情が湧き上がり心を支配する。俯く俺の頭の上に鏡花が優しく手を乗せた。


「勘違いしないでほしいのが、地方に出ていた魔族の幹部どもは操られていない。あいつらは殺されて然るべき存在だよ。だからレオがやったことはまさしく英雄の所業だった」


 魔王の元には八匹の強力な魔物がいたと言われている。俺はその中で五体の幹部を討伐した。


 魔王を討伐した時の戦いでは、獣王をいれて二人の幹部の討伐に成功。その他の三匹はそれまでに地方にそれぞれ出向いて討伐した。そして残り三匹の幹部は異世界から呼び寄せた勇者によって討伐されている。


 地方に出向いて討伐した三匹の方が悪名高く、被害も大きい。獣王ともう一匹の幹部に関してはほとんど噂のようなものしか聞いた覚えがなかったし、魔王と同様に発狂状態だったので、そんなに苦労せずに討伐することができた。


 魔王と同じように無理矢理戦わされていた獣王が同じ地球に転生しているなんて、何の因果だろうか。


「これでうちの身の上話は終わり! 本題に入ろうか。レオに見せたあの絵のことなんだけどさ、うちはまだ生まれてない時の話だけど、三十年前に発生したダンジョンのスタンピード。そこで人間を大量に虐殺した一匹の魔物が、その絵が描かれてある盾を持ってたみたいなんだよね」


「スタンピードとは何だ? ダンジョンもいまいち理解しきれていない。エアリアルの迷宮と同じではないようだが……」


 エアリアルに迷宮と呼ばれる場所がある。迷宮とは古代遺跡に魔物が棲みついて出来た場所で、魔物によって独自の生態系を築かれていた。迷宮はダンジョンのように魔物が召喚されることはないし、殺した魔物の素材は丸ごと頂戴できる。


「スタンピードはダンジョンの魔物が地上に上がってくる現象で、多くの魔物が共食いを繰り返しながら強化されていくダンジョン災害の一つだよ。そしてダンジョンについてはまだあんまり分かって無いんだけど……」


「分かってない?」


「地球の長い歴史の中でダンジョンはまだ発生して三十年しか経っていないんだ。ダンジョンが現れる前の地球は、魔物もいなく。魔法も存在していない。そしてゆっくりと終わりに近づいている。そんな世界だったんだ」


 滔々と語られる鏡花の言葉を反芻するように、俺は耳を傾けるのだった。




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