第11話 適正試験
「連絡はしてるんだけどな……」
鏡花は辺りを見回すと何かを見つけた様子で歩いていく。大股で歩く彼女からは怒っているようにも感じられた。
鏡花の向かう先にはプレートアーマーを装着した人形がいくつか転がっており、その中の一つを抱きしめるようにして一人の男が横になっていた。
男はボサボサの黒髪を人形に擦りつけるようにして寝息を立てている。
鏡花は男の元に行くと止まる気配はなく、そのままの勢いで人形ごと男を蹴り飛ばした。
「──っぐふっ!」
男は綺麗な放物線を描くように飛んでいき──人形を庇うように抱きしめながら自分の背から着地した。
「どこのどいつだ、こんなふざけた真似をする奴は! 俺の鏡花ちゃんが壊れるだろうが!」
よく見ると男の持つ人形には鏡花の顔が精巧に彫られており、満面の笑みを浮かべている。
他の人形にも理紗の顔や紬の顔が取り付けられていたりして、隣にいる二人も汚らわしいものを見るような目を向けていた。
「……気持ち悪いんだよ
「鏡花ち……柊さん何でこんなところに?」
危機感を感じたのか男は言い直す。そして何かを思い出したのか辺りを確認して、鏡花の背後にいる俺たちを見る。
「試験希望が一人いるって聞いたけど男かよ。しかもその年齢……義務教育を受けてないようなやつを連れて来て何させようってんですか?」
「おしゃべりはしないぞ。うちは一刻も早くここから立ち去りたいからな」
男の質問を鏡花がばっさりと切り捨てる。そして男の言葉の意味を理紗が小声で説明してくれる。
「……探索者の適性試験は本来もっと幼い時に終わらせるものなの。でもあなたは気にする必要ないわよ」
男が人形を抱えたまま立ち上がると、こちらに歩いてくる。そして隣にいる女性陣に舐め回すような視線を向けると、それに気がついた二人はサッと俺の後ろに避難した。
男はそれで一層機嫌を悪くし、舌打ち混じりに問いかける。
「お前は彼女達とどういう関係だ?」
後ろを振り返る……。理紗の顔を見つめて考えていると理紗が顔を赤らめて俺の皮鎧を押した。
「ちょっと……何言おうとしてんのよ」
「いや、二人との関係を考えてたんだけど……」
「会ったばかりでまだ何も進んでないでしょ? 正直に答えなさいよ」
理紗達とは数時間前に会ったばかり。案内人? 違うな……。親切な人? それはまだ分からない。
そこでこれだ! というものが頭に浮かんだ。
「やっと答えてくれるようだな。未成年の少女を誑かしたなんて答えは求めてないからな?」
二人は未成年なのか? 十四を超えていないなんて思っても見なかった。その話は一旦置いておいて男の質問に答える。
「俺と理紗の関係は……足蹴にされた仲だ」
「は?」
「ちょっとその説明は……」
理紗と紬が俺の言葉を聞いて困惑している。そして男の背後では鏡花が腹を抱えて笑っていて、男も怒りによるものか小さく震えていた。
男はこちらに詰め寄り俺の手を握る。いつでも反撃に移れるように警戒していると……。
「同志よ!」
男は俺の腕をぶんぶんと振りながら笑顔を向けてくるのだった。
さっきとは一転、来栖と呼ばれていた男は嬉しそうに準備している。床に寝かせてある人形の中で、違う男の顔が彫られてある人形を立たせると、試験の説明を初める。
「試験は人形がつけている防具に傷をつけれたら合格なんだが……あんたは後衛、じゃないよな?」
来栖が俺の防具を見ながら問いかける。
「後衛も前衛もない。俺は一人だ」
「その話は後でいいからとりあえずあの人形に攻撃してみなよ」
俺の返答に来栖は訝しげな目を向けると、鏡花が急かすように声をかけてくる。
「お前さん武器は持ってないのか? 一応支給品の安物なら用意できるけど」
「まずは素手でやってみる」
人形の元に近づいていく俺に来栖が問いかける。
「弁償しなくていいから好きに壊していいよ」
指を軽く触れて防具の感触を確かめていると、横で見ていた鏡花がこちらを安心させるように伝える。
俺はその言葉通り、人形が装着している皮鎧に手のひらをつけると……脇腹部分を抉り取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます