第10話 ギルド


 先導する白衣の女性の後を俺と女性陣二人でついていく。

 男二人は騒動が終わるとこっそりと離れて行った。

 この辺の建物を見るとエアリアルの王都がスラムに思えるほど整っており、住民にも活気がある。

 物乞いは見当たらないし、雑踏の中を歩いてもスリに合わない。よほど裕福な国なのだろう。

 だからこそ不思議に思う。


「なあ理紗、エルフやドワーフはどこにいるんだ? この国では迫害されているのか?」


「……恥ずかしいから少し声を抑えて話して。あなたの質問に答えるならば、この世界、地球には人間しかいないわよ」


「皆殺しにしたのか?」


「違うわ。初めからいないの。分からないことがあったら絶対、私に聞くようにしてね。他の人に聞いたら世間知らずだって恥かいちゃうわよ」


 そう言いながら理紗は俺の横で親身になって教えてくれた。車と呼ぶ乗り物。やってはいけないこと、あちらの世界とは全然違う価値観に困惑する。そして口を酸っぱくして人殺しは駄目だと言われていた。今までは勇者の力を奪おうと襲いかかってきた連中をほとんど反射的に殺していたから、注意する必要がありそうだ。


 オークがいたのにエルフやドワーフがいない。何とも不思議な世界に飛ばされたものだ……。


「着いたよ。ここがうちのねぐらだ」


 白衣の女性が手を広げて説明する。そこは周囲と比べると一際大きい建物だった。


「嘘教えないでください。信じるじゃないですか」


「ここに住んでんのは間違ってないんだから、それぐらい大目に見てよ」


 理紗が指摘すると白衣の女がからからと笑い飛ばした。ドアの側には剣と盾、それに酒らしき絵が書かれてある。


「入り口から入ってすぐのところに受付がある。ここで登録をしたり、ドロップアイテムを買取してもらったりするんだけど……」


 白衣の女が俺が持つ魔石を凝視する。


「それは……後回しにした方がいいな。絶対に

 時間かかる」


 ギルドとやらも仕事が溜まっているのかもしれない。、だからまずは探索者としての登録を先にするようだ。


「こいつの登録頼む。登録費用はうちが建て替えるから、登録証を渡してくれ。あと……そうだな、こいつが持ってるドロップアイテムの所持資格も一緒にだ」


「登録証に関しては柊さんの言う通りにできますが、所持資格については現状、許可出来ません。一度専門の機関に預けて……」


「それで死人が出てもか?」


 白衣の女の言葉に受付は一瞬考え込むと、驚きの顔を浮かべる。


「まさか、条件武器? 難易度はどれくらいでしょうか?」


「特級クラスだな。実質こいつにしか使えん」


 受付の女は真実かどうか見極めるように、俺と白衣の女を交互に見回す。

 そして諦めた様子で白衣の女に何かの書類を手渡したのだった。


「柊さんが連れて来た人だから大丈夫だとは思いますが……」


「分かってる。適性評価だろ? すぐ終わらすよ」



 白衣の女は受付にもらった紙を折りたたんで懐にしまう。そして受付の女性と二、三言葉を交わして建物の奥に歩き出した。


「さっき話に出たたけどうちの名前は柊鏡花ひいらぎきょうかって言うんだ。好きに呼びな」


「分かった」


 柊鏡花の言葉に頷いて答えるとこの建物にある地下の部屋に到着した。建物の身幅より広い空間を見て、思わず隣を歩く理紗に質問する。


「理紗、地下にこれだけの空間があってどうして建物が崩れていないんだ?」


「それは科学力って言いたいところだけど、ここに関してはまた別よ。ここの空間はとあるアイテムによって拡張されているの」


 実際の空間はそこまで大きくないらしい。だがそのアイテムとやらの力でここは何十倍もの大きさに広げられていて、ギルドに所属している人の訓練場にもなっている。


「柊鏡花、俺は何をしにここに来たんだ?」


 こちらを見る柊鏡花は答えない。何か気に触ったことをしたのだろうか? 友好的な対人経験が少ない俺には気持ちを察することなど出来はしない。


「なあ、理紗。俺は……」


「──鏡花だ。さっきの話はなし。長いから鏡花って呼ぶように……」


 理紗に聞き直そうと口を開いた俺を遮るようにして鏡花が訂正する。この世界の人は自分の名前があまり好きではないのかもしれない。

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