第3話 運命の再会
心の折れた役に立たない前衛二人を庇って戦うのは通常の倍以上の負担を要した。
逃げ回る前衛を弄ぶようにして、オークが追い立てる。
練り上げた魔力をオークの進行方向に散布。私の放った魔力は前世の私の最期をなぞるようにして……爆発を起こす。
【効いてなくね?】
【まさかの対魔法特化型か? 前衛が倒さなきゃいけない相手じゃん】
【これ、死んだな】
【縁起の悪いこと言うんじゃねえよ】
【だって生き残れると思うのか?】
コメントを確認する余裕はない。弱い敵が相手なら自動音声に切り替えたりもするが、それを許してくれるような相手ではなさそうだ。
一体のオークの攻撃を回避しつつ、もう一体のオークの足を止めるために魔法を仕掛ける。
ジリ貧もジリ貧……。何もせずに殺されるくらいなら、と男二人を追うオークに全力の出力で魔法を展開した。まともに喰らったオークは手足が千切れて地面に倒れ込む。
効果範囲は絞ってあるが、それでも爆発によって生じた爆風は二人の前衛を吹き飛ばす。
「へっ……ざまあみろ」
「大丈夫! りっちゃん」
天使のような形をした魔法の翼を背中に宿した紬が、こちらに向かって降りてくる。彼女は戦闘開始後、襲われないように空中で動き回り、体力回復の魔法を皆にかけていた。
「大丈夫。だけどもう魔力がすっからかんだ」
「残り一体……。あのオークは何をするつもりなんだろう」
【おいおい、生き残りが共食い始めたぞ】
【何で? スタンピードが起こるってこと?】
【ここって新宿のダンジョンだろ? 近くにいるけどそんな様子はないぞ】
【オークの体が震えだしたな】
【気のせいだと良いんだけど、オークの体がデカくなってないか?】
でっぷり太ったお腹はそのままにオークの巨躯が成長を続ける。二メートルほどの大きさから三メートルくらいまで成長すると、高らかに咆哮を放った。
声に乗せた魔力が前衛二人と紬の体を硬直させる。
耐性のある私には効かなかったが、それで相手を倒せるようになるわけではない。
「……紬、今から入口に飛べる? あんたなら何とか逃げれるでしょう」
「無理だよ。翼を使って飛んでも多分落とされちゃう。それにこの状況でりっちゃんを置いていけるわけないよ」
紬のその顔は少し先の未来を受け入れているようで……。
「炎姫! そっちに行ったぞ!」
端に逃げていた伊庭がこちらに声をかける。
咆哮が効いていないことを知って先に潰すことにしたのかな?
人ごとのように考えていると、私とオークの間に見たこともないほどの強い光が発生する。
【何だ新手か?】
【フロアボスが追加で来るわけないだろ】
【じゃあ何が起きんだよ】
オークがそのままの勢いで光の中に突っ込もうとするが、謎の力によって弾かれる。
そして中から現れたのは……。
【誰だこいつ】
【フロア移動の罠に引っかかったのか?】
【絶対死ぬやつじゃん】
【でもずいぶんと凄そうな大剣持ってんな】
【ハリボテだろ? こんなやつ配信で見たことねえぞ】
凄い勢いでコメントが隣に映し出されているが何一つ目に入らなかった。
私の目線は侵入者である一人の男に注がれている。
灰色の髪色をして見覚えのある大剣を持つ男に、思わず手を伸ばしそうになるのをグッと堪える。
オークも突然の来訪者に警戒しているようで動かない。
そして男の動向を見守っていると……。
「俺だ! 勇者レオだ! あんた魔王リスティルだろ? 俺と命をかけて──」
……何なんだこいつは。私を終わらせてくれた男はオークに前世の私の名前をつけて話しかけ始める。私は怒りと驚きの感情に支配されて男に回し蹴りを繰り出してしまった。
……どんだけ頑丈なのよこの男。蹴り足がジクジクと痛む。
蹴りをまともに喰らったはずの男は、痛がってる様子もなくポカンと口を開けて驚いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます