第15話 アトミック海原
俺は前にこう言った。
俺の強烈な自意識故に性転換しても問題ない。ジェンダーフリー万歳と。
…だがわかっていた。そんな訳が、ないと…いくら先進的で洗練された思想を持とうが、人の進化はそれに追いつけない。例外はあるだろう、しかし、多くの人々は体の性に縛られる。だから体と精神の性別の不一致により苦しむ人々はいるのだ。
そして、今の時点の俺にそれは…ない。なぜか?強烈な自意識?そんなものでどうにか出来るわけがない。
…簡単だ、俺の精神と身体が一致し始めているのだ。
最近、自分のあらゆる趣味嗜好が変化し始めていた、男の体の時より遥かに外見に気を使うようになってきた。
簡単に言えばそうだな…まあ、もう「俺」は「私」になりかけている、でいいんじゃねぇの?
ああ、なんでいきなりこんな思考をしているかというとだな。
さっきの【オールドアイアンサイズ】獲得で自覚できた…「俺」から「私」への変化、それは不可逆かつ絶対的だ。
…だから、もう心の底で密かに抗うのはやめだ。きっとこのスキル共を完璧に扱うためにそれが必要というのなら。どうせ船というものが女性名詞だからとかのくだらねぇ理由だろうがな。
「俺」の終わり、「私」の始まり、はっ、それを受け入れてやろうではないか。
「…どうしたのじゃ?第二ラウンドを始めるんじゃなかったのか…?」
「ああ、その前に言っておく…この戦いは「俺」への鎮魂歌…かつ「私」への誕生歌だ」
「…なにを突然意味不明な…?」
「じゃあ、改めて始めるか!「私」の初陣を、な!」
そして…吹っ切れた「私」は一切自重しないぜ?
「なるほど、ユニークスキルの影響で精神が変化したのかのう?」
「いいや、ただ「私」が「私」であることを受け入れただけだ!」
そう、すでに変化していたのを私が受け入れただけだ。ただそれだけだ。
「これが自重をなくした私!トマホークレディー!」
「ふむ、たかが巡行ミサイル如き…」
「そして…W80弾頭…レディー」
「W80弾頭…貴様!まさか!」
「ああ、そうだこれは…[核弾頭]だ」
合衆国が超大国たる根源、人類の原罪そのもの、それが…核兵器。
「なにをっ!貴様!仲間まで巻き込むぞ!」
「ふんっ、私の仲間は協会から借りたオーパーツですでに地上に戻してあるさ、というわけで…くらえ!ファイア!」
私はトマホークW80核弾頭搭載型「トマホークN」を発射する。核出力は勿論、最大の200ktだ。
W80が起爆する。核分裂反応で生じた膨大なエネルギーが巨大な火の玉となり広いボスフロアを覆いつくす。
それを【オールドアイアンサイズ】で【弾く】、いや自分の攻撃でやられるほどアホではないよ、私は…。
しばらくして、煙が晴れる、強烈な放射線照射が生じるがそれも【弾き返す】ので問題ない。
ボスフロアはあたり一面焦げ付いていた。
「…き、貴様、狂っておるな…ほんとに」
服がところどころ焦げ付いているが大きなダメージはなさそうな金髪碧眼の少女。
「げっ、核弾頭くらってその程度かよ」
「いいや、防御にかなりのエネルギーをじゃな…あっ」
「へぇ?つまり…私がこのまま核を撃ちづづければ…」
「っ!…いやさせぬのじゃ!」
そういって奴がこちらに突っ込んでくる、近接戦闘をやろうという魂胆か?
奴がそのまま強烈な蹴りをかましてくる、それを躱し、後ろに下がる。
「近距離か」
「そう、これで…まて、貴様…その拳に装着している弾頭のようなものはなんだ!!!」
「決まっているだろ?核弾頭だよ…ちなみにこの拳はユニースキル【アーレイバーク級】から拡張されたスキル「絶対必中」の効果がついている」
「…ま、まさか」
「そう!この距離も私の「キルゾーン」なんだよ!そして、くらえ、これが…!」
「っ!?」
「【イージス核弾頭神拳】だあああああああっ!」
これがイージスシステムの真の打撃力!!!核弾頭を絶対必中させる拳!!!イージスシステム(物理)だあああああ!!!
「む、無茶苦茶ではないかぁあああ!!!」
「この[アトミック海原]から逃れることはできなあああい!!!」
奴は何とか躱そうとするが、イージスシステムを起点に連想された拡張スキル【絶対必中】から逃れられることは…できない。
一発目が当たり、巨大な火球にあたりを包まれるが無視して二発目をお見舞いする。
常人なら、というか戦車や駆逐艦ですら一瞬で蒸発しかねない空間となっている。
ふむ、これが「私」から「俺」への鎮魂歌になっただろうかね。
―まあ、日本人として少々思うところはあるが…まあ「俺」らしい鎮魂歌だ…そしてこれは「私」の誕生歌になったか?―
「なったさ、だから、おやすみ「俺」」
―ああ、誕生おめでとう「私」、じゃあな―
そうして「俺」は完全に死に、「私」は完全に誕生した。
イージス核弾頭神拳を数発撃ち込んだところで手を止める。
核弾頭を数発直撃した奴はまだ立っていた、しかし両腕が欠損している。一体どういうわけでそうなったのかはよくわからない。
だが奴は笑っていた。
「何がおかしい」
「いや?がはっ、…なに、これで私はやっと最古最強でなくなることができるの…じゃ…」
そう言って奴は倒れそうになる、私はなんとなしにそれを支える。
奴の意識はすでにない、気絶している、止血はできているみたいだからまあ、大丈夫だろう。
「ということで、私の勝ちだよ」
ふう、なんとか「私」は初戦を勝利できた…うん、さっさと帰ろう
彼女を担ぎダンジョンから脱出する。はい、オーパーツはもう使ったので歩きです。怠いです…。
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