第13話 31ノット・バーク
「まあ、なんだ!飽くまで攻略風景を見せることが目的だから、実況とかはしなくていいぞ!」
「頼まれたってしないわ!…というかホントに直人、お前、頑丈だよな」
「はっ!伊達に西側の3世代MBTやってねぇ」
や、別に東側G3MBTも全然悪くないと思うが…まあいいか。
といわけで気を取り直してダンジョン攻略ですぜ(世間に垂れ流し)。
「ふいー、やっぱ飛ぶのは気持ちいいねー!」
由美が数メートル上空を飛行しながらそう言う。
「由美、ローター出さずとも飛行できたんだな」
「そうだよ!だってあれうるさいしね」
「まあ、そりゃそうだな」
と、そんな話をしていたら…。
「お?お出ましだぜ!」
「あれは…オーガか?」
現れたのは巨大な人型の怪物。
「ナギ、あれはジェネラルオーガ、オーガの上位種だ」
…
「…へぇー、使いまわしか」
「おい、なんてことを言うんだお前…」
「ぷっ、使いまわしって」
「まあいい、兎に角、あれでもSランクモンスターなんだろ」
さてSランクモンスター、その実力は。
「とりま、先手必勝だ、127mmレディー、ファイア!」
初っ端から127mmをぶちかます。
その大型榴弾が直撃したジェネラルオーガは…一撃で爆散した。
「…おおう、まあこんなもんか」
「…ナギ、お前、いきなり主砲をぶっ放すか?」
「加減はしないタイプだ、俺は」
殺し合いに様子見など存在しない!先手必勝!一撃必殺!
「まあ、これでわかった、俺はプラン通りボス戦まで援護にまわるぞ」
「ああ、そうしてくれ、正直火力過剰だな、ナギのスキルじゃ」
…そう考えると、このスキル、ダンジョン内では広くとも使い勝手があまり…いや、そんなことも…うーむ。
「それにしてもこのダンジョンはずっとこんな広い洞窟なのか」
「ああ、なんでもこのダンジョンはSランクダンジョンの中でもぶっちぎりで単純な構造らしくてな…」
「なるほど…まさに今のほぼダンジョン初見の俺たちにおあつらえ向きだな」
そんな感じで俺たちはどんどんダンジョンを進んでいく。
「まじで、なんとかオーガだけしか出てこねぇじゃねぇか!?」
あれから暫く進み階段を下りて…もう2時間ほど。
俺は後ろで援護しながら、直人と由美がジェネラルオーガをせん滅していく。
「…ふむ、おかしいな、俺が調べた限りじゃ、もっと色々なモンスターが出てくるはずなんだが…」
「…本当か、直人?今んとこオーガだけだぞ」
「ふ、ナギそして悲報だ!なんともうボスの間が近い!」
…おいおい、3万人の前で、ひたすら、同じモンスターを虐殺しただけか?放送事故じゃねぇか。
「…お、見えてきたぞ!」
と、前方に広い空間が現れる。
…そのまま俺たちはその広い空間に足を踏み入れる。
「…あれは…おいおい」
そして広い空間に座するは一体の金色の…オーガ。
「おい、直人、またオーガかよ?」
俺は一歩前に出る。
「「ナギッ!」」
「…っ!?とっ!」
一瞬で脳内に警告が走り、瞬時に首をひねる。
その俺が首をどけた空間を…いつの間にか目の前にいた金色のオーガの拳が通過する。
俺たちは全力で後ろに下がる。
「…っち!?なんだ、今の速度はっ!?」
「ナギ、由美!こいつは低確率で出現するユニークボス「金色オーガ」だ!等級はSSランクモンスター!」
SSランク!なるほど、かの有名な未踏破ダンジョン「アースホール」に出現するモンスター!
「…特徴は確か音速移動か!」
「そうだ!とにかく速い!音速で移動する、らしい!というかお前よく躱せたな!」
まあ、イージス艦が相手にするのは超音速や、場合によっては極超音速兵器だし。このくらい対応できないと。油断していたわけでもないしな。
「直人、前衛は頼んだぞ!」
「おう!」
と、金色オーガにロケット弾が降り注ぐ…由美だ。
しかし、金色オーガはそれを全て躱し俺たちに迫る。
「喰らえや!」
直人がAPFSDSを放つがそれも躱され、奴は直人に殴りかかる。
「うおっ!」
直人はそれを受け止める…まあ、たかが音速の攻撃如きで主力戦車の装甲は貫けんよ。
それからも攻防は続くが…状況は完全な膠着状態。
「…リーダー、なんか手はあるか」
「俺の範囲殲滅で一網打尽とかかな」
「うーむ、それしかないか」
「いや!流石に私が巻き込まれるよ!」
まあ、それもそうだな。
「…っち!ナギ、由美、一時撤退をするか」
…おいこら。
「…ハァ?(某ち〇かわのうさぎ風)…直人もう万策尽きたか?」
「…どういう意味だ」
「ちょ、喧嘩しないの」
「…いいや」
タダな。
「散々、先輩方を煽っておいて、尻尾を巻いて逃げるか?」
「…っ!それは…」
そうこいつは動画で他の探索者を煽りまくっていたらしいのだ、その結果が知っているはずモンスター相手に準備不足、想定不足で撤退?
ただ、速いだけの敵に?そもそもここまででじゃなくても速度で翻弄してくるモンスターはいる、それを想定しないのはあまりにお粗末だろう。まあリーダーの仕事といえばそうだが。
「…じゃあ、なんだナギには何か手があるのか?」
ふむ、今回の場合はこれがドンピャだろう。
「そうだな…時に直人、【拡張スキル】ってのは聞いたことはあるか?」
「…なんだ、それは?」
「空間に味方へのバフ効果や敵へのデバフ効果を付与する…まあユニークスキルを「外」に拡張するスキル、異能だ」
「…そんなものが、あるのか」
「由美はどうだ?」
「ナギ…私はね、知っているでしょ?」
「…変わらないな」
「?」
由美の言葉に直人が疑問符を浮かべるが。
まあ、由美との付き合いは俺の方が長いからな。
由美という人間は…そのゆるい雰囲気に対して…物凄く用心深いかつ、常に覚悟を持つ奴だ。
きっと彼女にも奥の手はあるだろうが…まあここは俺に譲ってもらおう。
「話を戻すぞ、拡張スキルというのは、そのユニースキルと関連性が高いほど効果が高い」
俺は先輩探索者を煽るが…軽視はしない。ちゃんと先達を研究する。先行研究の確認、大事。
そして、刮目せよ!これが俺の「拡張スキル」の一つ!
「拡張スキル!【31ノット・バーク】」
俺がそれを発動した瞬間、こちらに向かって来ていた金色オーガが急減速する…音速から【31ノット】へと。
「…奴が遅くなったっ!?」
かのアーレイバーク大将の異名、「31ノット・バーク」、それと無理やり関連づけた能力。
対象の速度を強制的に31ノットぴったりに固定する効果を持つ中々に凶悪な拡張スキル。
速度とは即ちエネルギー、それを失えば…運動エネルギーに依存する攻撃はすべて無力と化す。もちろん回避性能も。
「トマホーク、レディー…そして…ファイア!」
俺は遅くなった奴に向けて問答無用で巡航ミサイルをぶち込む。
―轟音
流石に大型ミサイルの炸薬量には耐えられなかったようで金色オーガの半身が吹き飛ぶ。
「ナギ―、お見事―!」
ふっ、完璧なコンボが決まったぜ。
というわけで、SSランクモンスター討伐完了だな。
「…ナギ…いやリーダー、どうやら俺は驕っていたらしいな…すまん」
と直人が言う
「…八王子であれだけ無双したんだ…そうなるもの俺は理解できる…でもな」
「でも…なんだ?」
「世の中に不沈艦や無敵戦車は存在しないんだよ…自己研鑽を怠れば…戦場では誰だってなんだって簡単に死ぬ…それだけは覚えておけよ」
まあ正直戦場では自己研磨しようがしないが死ぬときは死ぬがね。
「…ああ、そうだな、肝に銘じる」
どうやら直人は納得してくれたみたいだ。良かった。
よし、じゃあ今日はちゃっちゃっと帰宅して…。
「ほう、青臭いが中々悪くないリーダーじゃないか、子供の割には…な」
「「「!?」」」
突然第三者の声が俺たちを割り込む。
弾かれるように一斉に俺たちは声の方を振り向く。
そこには、下半身だけになった金色オーガを踏みつける人物。
その人物が真っ赤な古っぽい軍服を着た金髪碧眼の少女、齢14ほどか。
なんだ…何の索敵網にも反応しなかったぞ?
「…君は、誰だ?」
直人が警戒しながら誰何する…まあ、明らかにただの子供ではない…下手をしたらモンスターかもしれない。
「ふっ!私の名は「アルティメット紅茶砲ちゃん」、略して気軽に「アル茶」ちゃんと呼ぶがよい!」
少女はそう素直に、だが奇妙な名乗りを上げる
アルティメット紅茶砲…ちゃん?
「…それで…なにか俺たちに用が」
「ああ、その前にそのドローンは無力化してもらったぞい…ここからは非公開じゃ」
…っ!?…いつの間にか俺たちのそばにいたドローンがいなくなっている、どうやったか。
というかここからは非公開…?
「…お前」
「そうじゃな、なに、ちょっと、私と…お手合わせ願おう?」
そう言って、少女は笑った。
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