第11話 ALL THE WAY!(どこまでも!)

巷では「八王子決戦」なんて呼ばれているらしい、第二次八王子危機終了後から十日ほどたった。

意外にも俺たちは割かし平穏な生活を送れていた…訳がなかった.


…未成年だったので…報道機関は俺たちの身元を公開するなんてことはしなかったが…一般人は問答無用でSNSであの時の動画を垂れ流すわけで。

特に俺、何の因果か、まあ目立つ外見になってしまったのが災いして、道を歩いていたり、登校していたりするだけで、じろじろと見られたり、知らん奴に話しかけられたり。

…正直、あれだけ拘っていた登校すら若干嫌になってきた。

基本的に好意的な視線や態度、ちやほやされるのは嫌ではないが、流石に疲れる…。

「まあ、でもちゃんと登校するんですけどね」

「ナギは相変わらずだな…」

「だねー」

ふふふ、無欠席だけは死守するのだ!

「そういや、ナギ…体が性転換して何か困ったこととかないか」

「ほう、いきなりデリケートな問題に突っ込んでくるではないか直人」

「…すまん、不用意な発言だったか?」

「いや?別にいい…それに、ほとんど、ないんだなこれが」

「お、おう、まじかよ」

元々、自分でも異常だと思うほど強烈な自意識を持つ俺は性転換しても特に葛藤なんてものはなかった。あ、でも面倒だから性別を記入する書類ではいつも第三の選択肢だ。

ジェンダーフリー万歳!リベラリズム万歳!なんとTSしても普通に不自由なく生活できる社会にいつの間にかなっていたでござる。

まあ、もっと時間が経つと色々と問題が出てくる可能性があるけどね。

「ナギ!スカート!スカート履こうよ!絶対に似合うよ!」

「みろ、直人、このデリカシー0女を、こんなんでいいんだよ」

「いや、よくはねぇだろ」

というかスカートは流石にね…今時の女子学生も割とズボンだし…わざわざ穿くものではないね。

因みにいつものごとく放課後の教室である、いや休み時間とか視線がヤバくてね…落ち着いて話もできない…。

「あれ、じゃあ、ナギの私服は妹ちゃんの借りてるの?」

「いや…俺の元の衣服が全部、女物に置換されてたんだ…」

「ええ…(困惑)」

「なにそれおもろすぎて草」

はは…あれが発覚した時はマジで大変だったぜ…。

「と、ナギ、由美、そろそろいい時間だし…協会に行こうぜ!」

「ああ、そうだな」

「うん!」

そう、今日は午前授業だったのでこの後、探索者協会のこの町の支部に行く。

そして…俺たち「黄昏戦闘団」初めてのダンジョン攻略に挑むのだ。







「はい、Sランクパーティー「黄昏戦闘団」の方々ですね」

「…はい」

はい、いつものごとく手続きは直人に丸投げです。

え?お前リーダーだろって?いいだよ、リーダーっていうのは、本当に重要な決断さえすればいいんだし、うん、きっとそうだ。

…でも探索者についてのあれこれのルールを殆ど知らないというのは問題かな?

あ、そういえばあの八王子の件で全員めでたくSランクになったんだよね。

「ねぇ、ナギ?」

「…ん、なんだ由美」

「えーとね、ダンジョンってそんなに広くないのでしょ」

「うーん?…まあまあ広いぞ?」

「でも、空中機動をとれるほどじゃない、のよね?」

ふむ、言わんとしていることはわかった。

「…なるほどな…つまり空中機動をとれない由美や、戦闘にスペースが必要な俺は必然的にスペックが制限されると言いたいわけか」

「まあ、そんなところ!」

「…安心しろ、ダンジョンが狭いというのはあくまで低ランクダンジョンの話だ…俺たちが今から挑むのはこの支部の地下にある、日本に十数個しかないSランクダンジョン…なんでもかなり広いらしいぞ?」

「へー、そうなんだね!なら安心!」

にしてもこの町の支部、なんで直下にAランク、Sランクダンジョンがあるのやら…謎である。

「おーい、お前ら」

「お、直人、どうだった」

「おう、Sランクダンジョン「無名の苗床」、入場許可が下りたぜ!」

無名の苗床…それただの苗床では、とか突っ込んではいけない!

「よし、じゃあ、早速向かうか!」

「おー!」

そうしてそのまま俺たちは支部の地下に移動する。





「これがSランクダンジョン、の入口…なんかしょぼい(´・ω・`)」

「まあ、そんなものだ」

Sランクダンジョンの入口…うんマジででかい洞窟って感じだ…苗床要素どこ?ここ?…とにかく、入口の前に自動改札みたいなものがあり、あそこに探索者カードを翳すと入場できる。

「お、お前ら…なんか余裕そうだな」

なんか直人が直前でビビりだした…なんでやねん。

「あれー、直人、ビビってるのー?」

「おいおい、前衛がビビってたら話にならないぞ、緊急帰還用のオーパーツも貸してもらえたんだし、落ち着けよ」

なんとこのオーパーツ、ダンジョン内からダンジョンの入口付近に転移可能だとか。

「…そういわれてもな」

はぁー、まあ直人って豪快に見えて実は俺たち三人の中で一番繊細だからな。

「よし、円陣を組んで気合入れるか」

「なにそれ!?体育祭かなんかなの!」

「ふ、リーダー命令だ!円陣を組むぞ!」

というわけで円陣を組む。

「…うーん、なら…リーダー、なんか気合の入る掛け声を頼む!」

直人がそう言ってくる…気合の入る掛け声ね…。そうだな…

「…ALL THE WAY」

「なんだそれ…」

「いいから…」

「お、おう」

せーの

「「「ALL THE WAY!!!」」」

揃ったな!

「では、「黄昏戦闘団」出撃!目指すはどこまでも!だ!」

「おー!」

「…俺もなんだか知らんが緊張が吹き飛んだぜ!」

よしよし、即興だったが上手くいったか。

モチベーターもリーダーの役割だしね。

そうして、そのままの勢いで俺たちはダンジョンに突入した

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