第9話 SM‐6、レディー!

「というわけで、直人、ちょっと頼む」

「…え、ちょ、は!?あ、クソ、芋虫野郎!HEAT弾を喰らえや!」

暫く、直人とファランクスにその場を任せる。

このユニークスキルへの理解度を高めるため…普段はできない極度の集中状態である、戦場だからできる、己がうちのイージス艦に意識を鎮める。

「…ふぅ、よし」

気が付くとそこは、薄暗く多くのディスプレイと様々な電子機器が並ぶ空間。

CIC(戦闘指揮所)だ、現代水上艦のバイタルパートであり心臓部。

うん…何が何だか全く分からなくて草。

…まあ、正直、ただの高校性にデータリンクやC4Iなどの高度なシステムを理解できるはずがない…しょうがないね(諦め)。

…さて、気を取り直して、俺が今考えるべきはVLSからどの対空兵器を撃つかだ。

目標は数百の空中目標、いかにイージスシステムといえど、イルミネーターの限界がある。イルミネーターを大量に出す方法もあるが…シンプルに邪魔そうだな。

ふむ、シースパローでは無理だな、スタンダートミサイル3でもやはりイルミネーターの関係で対処不可能。

ならば、選択肢は一つ。

意識を覚醒させる。

「おら、喰らえや!」

現実に戻ると直人が暴れ、ファランクスが空に向けてバルカン砲を乱れ撃ちしている。

やべ、耳がぶっ壊れそうだ…て、今はそんなこと考えている場合じゃない。

「お、やっと戻ってきたか!」

「ああ…そして…スタンダードミサイル6、レディ!」

俺が選んだのは「スタンダードミサイル6」、スタンダードミサイルシリーズの最新版、ゴリゴリの最新兵器だ。

特徴はイルミネーターなしで目標補足が可能。

つまり、実質、無制限の同時対処能力を持つ…はず。

さあ、ただ図体がでかいだけの蜂なんぞ的でしかない。

因みに、撃墜後のミサイルの残骸は発生しないご都合仕様です。や、だってまあ、それがないと普通に残骸の雨で町が壊滅するしね、しょうがないね。

「ファイア!」


―轟音


設置された64セルのVLSから次々にスタンダードミサイル6が放たれる

「うお!」

直人が叫ぶ、ホットローンチ式故に大量の白煙があたりを漂う。

やべ、これは想定してなかった、まあ別に視覚頼りではないか問題ないけど。

「うげ…まあ、俺はサーマルサイトがあるから問題ないが…鬱陶しいなこの煙」

うん、確かに割と鬱陶しいねこの煙

「直人、どうにかできない?」

「はぁ…しかたねぇな」

白煙の中、直人は両手を広げ。

「エバキュエーター!」

エバキュエーター、つまり戦車が主砲発射後に使用する排煙機だ。


―ブアッ!


強風が巻き起こり、煙が晴れる。

「おい、排煙機というか、なんか最早風魔法で草」

「は!ナギ、俺たちのユニークスキルで必要なのは発想力!お前も兵器のスペックに縛られず、自由にやってみろ!」

「…なるほどな」

俺は少し考えすぎていたのかもしれない…まあ、後々改善していこう。

お、そういえば、スタンダートミサイル6はどうなったかな。

ふむ…命中率9割…上出来だ。

さあ、あとこれを6斉射ほどすれば…空の奴らは駆逐できそうだ。

「VLS64セル、レディ、続けて、スタンダードミサイル6、レディ!」

ふふふ、やはり現代兵器こそ最強!




建物内の人々は響く轟音と、外の光景に阿鼻叫喚であった。

「おいおい、なんだ、これ!戦争でもおっぱじめる気か!」

「…あの少女の周りにいきなりミサイルの発射機が出現したように見えたぞ!」

「あの少年も!なんか槍のようなものを投げて、でかい芋虫を仕留めている!」

「…何と言うか…まるで兵器人間だな」

戦争のような光景というか、そのまんま戦争の光景であるのでしかたない。

「ねぇ、あれって、もしかしてスキルじゃない?」

とある建物にて、その発言により、一瞬沈黙が訪れる。

「…そうだ、剣や槍のスキルがあるなら、別にミサイルのスキルがあったて不思議じゃない!」

「そういうことか!つまり彼女らは探索者か!」

「見ろ、蜂どもが次々にミサイルで、ゴミのようだ!」

「おお、すげぇ!」

「も、もしかしてた、助かった…?」

そして一気に沸き立つ。

そうして人々の間に徐々に、この光景が探索者のスキルによるものというコンセンサスが広がっていくのであった。




「ご覧ください!巨大な蜂たちが次々に墜落していきます!」

遠くから様子を伺っていた各社の報道ヘリ。

カメラマンの持つ超望遠レンズがミサイルの放たれる中心に立つ少年、少女を捉える。

「政府筋の情報として…新世代のユニークスキル持ちの探索者が事態に対処中というものがありましたが、あの二人がその探索者なのでしょうか…!?」

そしてカメラはさらに他の人影を捉える。

「み、見てください…あれを!人がプ、プロペラ?を背負って飛行して…地上のワーム型モンスターに向け攻撃しています!何ない空間から!機関砲でしょうか?ミサイルでしょうか!もうわけがわりません!」

ヘリに乗るリポーターも最早、混乱状態であった…いや興奮状態?







八王子特別区庁舎内のスタンピード対策本部。

その大きな会議室では多くの探索者と職員や関係者が集っていた

彼は避難誘導をするため、設置されたテレビなどから情報を得ながら、待機していた。

その多くが探索者であり…そして彼らはある種の諦めに支配されていた

原因は主にテレビから流れてくる映像。

探索者の先発隊を一瞬で蹂躙したモンスター共がたった三人の子供に…蹂躙されていた。

ローターを背負って飛行する少女は地上、空、問わずモンスターに虚空から出現させたミサイルとチェーンガンを乱れ撃ちして蹂躙。

戦車砲弾らしきものを投擲している少年はアルティメットビーやエルダーワームの攻撃を物理的に弾きながら蹂躙。

そして交差点の中心にいる、あの、少女は巨大な対空ミサイルでアルティメットビーを蹂躙。

モンスターはどんどん数を減らす。

「はっ、なるほど、「時代遅れ」か…あの子が俺たちをそう評した理由がわかったぜ」

「…俺たちのスキルなんて目じゃねぇ威力…もうどうにかなりそうだ」

「…はぁ…今後も彼ら彼女らみたいなスキル持ちがたくさん現れて…古い俺たちは淘汰される…か」

「私、勤め人に戻る時が来たかも」

…そんな中、閃光の工藤は思う

―これが、新時代か…彼ら、彼女らの出現はきっと何か意味があるのだろう、そうして誰かが言った通り…古い俺たちは淘汰される…か―

だがしかし。

「だからと言って!我々は我々の「責任」を果たさなくていい理由にはならない!」

と、突如そう叫ぶ閃光の工藤、傍から見たら、普通にヤバい奴である。

「「「「!?」」」」

「…工藤さん!」

尚も工藤は続ける。

「行くぞ、誇り高き探索者たちよ!我々にはまだ、やるべきことがある!」

「…そ、そうだ!俺たちは、まだ、探索者だ!」

「閃光の工藤の兄貴!」

「ふ、ここで先輩の威厳を取り戻す!」

「行くぞー!」

だが、探索者たちはそんなヤバい奴に奮起される。

そのまま大挙して出撃していく探索者たち。

突然の彼らの変容にドン引きする職員の方々。感情の起伏が激しすぎるだろこいつら、と。

「…古かろうが、新しかろうが…探索者たちというのはなぜこうも…直情的なのかね…」

人が少なくなった対策本部で、区長がそうぽつりと呟いたのだった。






「凄まじい、凄まじいではないか」

とある一室。テレビでナギ達の様子を見ながら呟く人物。

「…だが、惜しい、私が思うに実に惜しいのじゃ、若人たちよ」

その人物は金髪碧眼の美しい少女、齢14ほどの外見。

「縛られているな、まあ、戦車の少年とヘリの少女はまだましだが…あのミサイル駆逐艦の少女は実に惜しい…兵器本来のスペックに縛られてしまっているのじゃ!」

金髪碧眼少女の目の前にはいつの間にか、巨大な砲弾…明らかに人が持てるものではない大きさの砲弾があった。

その砲弾は「183mm粘着榴弾」、ソビエト連邦の当時の新鋭重戦車を「ワンパン」するために造られた化け物対戦車砲弾。

テレビから目を離しその砲弾を眺めながら少女は言う。

「ふむ、会わなければな?あの3人に…そして」

立ち上がり両手を広げ、笑う。

「教えねばな!自由な発想というものを…「文化の力」というものを…この私、「アルティメット紅茶砲ちゃん」がな!」

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