第8話 黄昏戦闘団、出撃!人力ヘリボーン!

 「いや?…ただ、まあ口が回る時代遅れの無能共だなぁって」

少女、ナギは露骨に嘲りの表情を浮かべそう言ったのであった。

「…貴様、今、なんと?」

とそこで上座に座っていた一人、の男が立ち上がる。

Sランク冒険者「怪力の山田」だ。

それに対して尚もナギは言う

「なに、そのまんまの意味だよ」

「…ほう?」

「権利には義務がある…なんて国家主義者じみたなことは言わない…でもな、俺たちは、「探索者」には「責任」がある…一般人に比べてあらゆる面で明確に優遇されている以上…な」

「…」

「探索者の仕事はなんだ?官僚様を真似た「会議」か…?違うだろ?こんなところでビビっている暇があるなら、一刻も早く現場へ行けよ」

「…随分大口を叩くが…貴様ら子供に何ができる?」

「はぁ…全く、時間が惜しいのに…あんた、そこにいるってことはSランク冒険者だろ?」

「…それがなんだ」

「脳みそまで筋肉のお前らに、実力を端的に示してあげるって言っているんだよ…かかって来いよ?」

「…おい、ナギ、挑発しすぎだぞ…」

「ふふふ、ナギ、ぷいったーの人格がでてるねー」

「山田さん、落ち着いて」

何とか、怪力の山田をなだめようと工藤がするが…

「我ら崇高な探索者を馬鹿にしすぎだ…小娘!」

山田はかなりの短気な上、プライドが高かった。

そのまま、弾丸のように席を飛び出し、ナギに蹴りかかる

…だが。

「…なっ」

容易くナギに蹴りを受け止められ、足を掴まれる。

「パワー不足だ、なんとか山田」

「ぐげっ!」

そのまま十万馬力の出力でナギは山田を地面の叩きつける。

コンクリート張りに床にひびが生じる。

そのまま、怪力の山田は気絶する。

会議室が不気味な沈黙に支配される。

力自慢のSランク冒険者が…突如現れた華奢な少女に、一撃で倒されたのだから仕方がない。

「区長さん」

とそこで、ナギは区長に話しかける。

「…なんだね」

「多少、公共物が壊れるかもしれませんが、人的被害は絶対に出しません…なので、この件、俺たちに任せてくれませんか」

先ほどとは打って変わって無表情でそう述べるナギ。

「…区長、彼女たちに任せるのが…最適でしょう」

工藤がそう付け加える。

「3人だけでか?」

「僕が思うに…この3人だけで、十分かと」

「…そこまでか」

区長は目をつぶりしばし、考え込む。

閃光の工藤の意見はこの八王子ではかなりの影響力がある。

故に…。

「他の探索者は避難誘導を、本件の対処には彼女らに当たってもらう…政府の対策本部にもそう報告しておく」

そう、区長は宣言した。










「やりすぎだ、ナギ」

「まあ、流石にね?」

会議室を後にして俺たちは現場へと向かう。

「…すまん…な」

はぁ…失敗したな…。

なんでかはわからんが…俺は…明らかに頭に血が上りすぎていた。

…ほんとに俺の探索者に対する「憎しみ」とも思えるような感情は一体どこから来ているのか…自分でもわかなくて草なんだよなぁ…(困惑)

別に彼らだって好き好んであの部屋で待機していたわけじゃない。

俺が言ったほど彼らは馬鹿でも無能でもないだろう。

でも、我慢できなかった…これは明らかな未熟さ故の失敗、後々に響くだろう。

「…まあ、終わったことはしかたねぇよナギ」

「そうよ、で、ナギ、あれだけ言ったのだから、今回のスタンピード、解決できるんだよね?」

「ああ、それは問題ない…なんたって主な敵は、数百の空中目標…つまりは、な」

「つまりは?」

「…イージスシステムのポテンシャルが最も発揮されるシチュエーションだ」

…失敗を後悔するのは後でいい…今は。

「…「黄昏戦闘団」の記念すべき初出撃だ、お前ら準備はいいか?」

「おう」

「ふふふ、うん!」

先輩方を「時代遅れ」と罵ったのだ…なら見せなければならない…新時代を。






八王子特別区の中心部の大きな交差点。

最初のスタンピードの後、再開発され副都心としての能力が与えられた八王子。

その中心部であり、どこかスクランブル交差点を連想させるその場所は現在、巨大な蜂のモンスターとワームに占拠されていた。

真っ先に駆け付けた探索者は瞬く間に壊滅した。圧倒的なモンスターたちの群れの前に。

しかしそれらのモンスターはなぜだか建物内の人間は狙わなかった。

「くそ、自衛隊はまだなのか!」

「探索者の援軍も来る様子がない…」

「…は、探索者なんて役に立たんだろう」

「もう、終わりだ」

建物内に避難した人々は絶望しながら外の様子を眺めていた。

そんな時だった。

「おい、この音」

巨大バチの羽音ではない…ヘリの羽ばたく大きな音が聞こえてくる。

「とうとう、自衛隊が来たか!」

「…おいおい、俺たち巻き込まれないのか?」

「…ん、待てよ…あれは…人?」

人々はそこで奇妙な飛行物を視認する。

それは人だった、人が背中に巨大なローターを背負って空を飛んでいる。

よく見るとその人影の両手にも人影が捕まっている。

「なんだ…あれ?」




「由美!俺たちをあそこに、その後、お前は、対地対空遊撃に移れ!直人は俺の周りで敵を掃討だ!」

「ラジャー!」

巨大なローターを背負って飛行する少女、由美がそう返事をする。

そして、由美は二人と繋いでいた両手を離す。

「鳥になってこーい!幸運をいのーる!」

「うああ、俺、高所恐怖症なんだよ-!!!」

「直人、冷静に!俺たちならこの程度、どうってこともない!」


―ダンッ!


そのまま交差点の真ん中に着地するナギと直人。

「ふう、ひどい目にあったぜ…まさかの人力ヘリボーンとはな…」

「…直人、奴らが来るぞ、ほら急いで」

そこに集まりだすエルダーワームとアルティメットビー。

「さて、じゃあ、いっちょ、やりますか…APFSDS、こいや!」

そう直人が言うと、対戦車砲弾APFSDSの弾芯が直人の手に出現。

「おら!くらえや!劣化ウランの重さを!」

それを接近してきたエルダーワームに投げつける

―ズバッン!

超音速で飛行する劣化ウラン製の矢であるAPFSDSの弾芯、それはエルダーワームの数メートルの体ごと一直線にぶち抜き即死させる。

「よし、まず一匹!」

「ファランクス!」

ナギがそう唱える近接防空システムたる「ファランクス」が複数出現、接近していたアルティメットビーに向け自動的に20mmバルカン砲を発射する。

20mmバルカン砲のけん制に対し距離をとるアルティメットビー達。

「VLS(垂直発射装置)、64セル、レディ」

今度はナギの周りにVLSが64セル出現する。

そうして…ナギは笑みを浮かべ言う。

「…ソビエト海軍の飽和攻撃ドクトリンに対する切り札として生まれた…イージスシステムの本懐を、ご照覧あれ…だ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る