第30話 焦げ

 「それから、色々あって?今に至るんだよねー」


「省略したな。大部分を……それにかなり大袈裟だったな。盛ってる。」


「まぁ、良いじゃん。今を生きていれば。」


天羽がそれっぽいことを言ったがそれは逃げるための口実でしか無かった。

別に、これ以上のことを問い詰めようとは思わないが……


「結構、夢中で話を聞いていて気づかなかったんだが……その、焼いているやつ……焦げてるんじゃあないか?心做しか焦げ臭い匂いもするし……」


「あ!?忘れてた!!」


家のコンロは無駄にIHなので燃える事は無いが、焦げるものは焦げる。

スイッチを入れてものの数秒で熱くなるからな。


 「まぁ、うん……さほど問題ないんじゃあないか?」


食卓の上に置かれた皿、それにのる黒い得体の知れない物体。

恐らくハンバーグだと思うのだが……

正直、食べる覚悟は俺にはない。

だが、折角作ってくれたのだ食べないと失礼に値するだろう。

変なものを入れているわけじゃあない……ただ焦げているだけだ。


「それじゃあ、頂くとするよ……」


「む、無理して食べなくて大丈夫だからね!?騎亜の事を心配して来た私が騎亜をもっと困らせたら本末転倒だから。」


「ん?」


俺はそう声を漏らした。

それは、疑問の声だった。

ガブリとその疑問を確かめるべく俺はもう一口食べた。


「……見た目に反して意外と美味しいじゃあないか。外はサクサクで中はジューシーって言葉はが1番似合う程美味しいじゃあないか!」


ハンバーグと言っていいのか分からない見た目のそれは今まで食べたハンバーグの中で1番美味しかった。

長時間焼くことによって、旨味を閉じ込め、焦げたことでサクサクの食感になったんじゃあないかと考えられる。


「本当?!お世辞じゃあない?」


「勿論さ、いくらでも食べれるよ。」


「やっぱり、私の『愛』が入ってるから美味しくなったんじゃあないかな?」


「それを聞いてちょっと旨さが半減したような気がするよ……」


「ちょっと!どういう意味?!」


「ハハハ!冗談だよ。天羽が作ったから美味しく感じるってのは多少なりともあると思うからな。」


「……良く女たらしって言われない?」


「フン、どうだかな……」


俺はハンバーグをあっと言う間に食べきり、自分で皿を洗った。

そこまでやらせるのは俺の中で罪悪感が芽生えるからだ。

今は、2人でソファでくつろいでいる。

至福の時間ってやつだ。

現在時刻は7時をまわろうとしていた。

冬に近づいてきたので外はすっかり暗くなっている。

こんな事を考えるのは失礼だと思うが天羽はいつ帰るのだろうか……そろそろ冷え込んでくる時間帯だ……帰るなら多分今がラストチャンスだろう。

もしも帰らなかったら……

それを考えると背筋に悪寒が走った。







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