第26話 カフェ
俺は準備を終えた後、待ち合わせのカフェ『カフェイン』に向かった。
店のテラス席で俺達は出会った。
千愛は無言で向かいの席に座る。
周りには少しばかりの緊張と栗の香りが漂っていた。
取り敢えず、俺達は注文をした。
頼んだのは勿論、栗コーヒーだ。
そして、注文が届くと、千愛がやっと重い口を開いた。
「……で、何で配信者を卒業したの?」
開口1番がそれだった。
特に学校の校長のように長ったらしい導入があるわけでもなく、単刀直入に聞かれた。
それがあるよりは幾分かましだが……
「これには深い訳が……」
その時、ガチャンとこのカフェ自慢の栗コーヒー入りのコップが目の前に勢い良く叩きつけられた。
中の栗が揺れ動く。
このコップがガラス製じゃなかったのが唯一の救いだ。
「何で、そんなに深い訳があるのに私に……相談してくれなかったの?私達は……『友達』……でしょ?」
千愛が涙ぐみながらそう言った。
「だからこそだ……だからこそ心配を掛けたくなかった……迷惑を掛けたくなかった……」
「だからこそ?!だからこそ相談するんじゃあないの?」
「……悪かったよ……次からは相談する……」
俺はそんな戯言を並べた。
「じゃあ、配信者を卒業した深い訳を教えてよ……」
「……飽きただけだ……」
俺は思っても無い事を口にした。
「嘘は……良くないよ?」
「お見通し……か……分かったよ……話そうじゃあないか……深い訳とやらを……」
出会ってからまだ1ヶ月程度しか経っていないのにも関わらず嘘がバレるとは……
「俺は―――」
洗いざらい全て話した。
今まで誰にも話さなかった俺の秘密を……
話している間、千愛は真剣に聞いてくれた。
気付けば頬から涙が流れていた。
誰かに話す事は大事なんだなと実感した。
「それは……本当?」
「残念ながら……」
「……ちょっと心の整理をさせて……」
千愛はそう言い、栗コーヒーのお代を置き、帰っていった。
1人になると、周りの客が俺を訝しむように見ていた事に気づいた。
俺もさっさと会計を済まし、帰ることにした。
そして、家に着いた。
何もやることがない。
日常の消失感を凄く感じた。
配信で稼いだ金がある為、何もせずとも生きていられる。
今の俺は、所謂ニートだ。
料理さえも、面倒臭く感じる。
話して良かったのだろうか……
何もしないでいると、不意にそんな疑問が頭をちらつく……
後悔などしても意味なんて皆無なのに後悔してしまう。
それが人間、それが騎亜だ。
俺は後悔をしながらそのまま眠りに落ちた。
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