第15話 病院


 「……」


入ってきたのは千愛だった。

千愛は言葉を失い、呆然と立っていた。

そこで、俺はあるドッキリを思いついた。

それは、俺が記憶喪失になったことにするという物だ。

騙すのは申し訳無いがこれで、千愛が俺の事をどう思ってるのか分かるだろう。

俺は早速、実行することにした。


「えっと……誰ですか?」


俺は自分の演技力の高さに驚いた。

本当に何も知らない人見たいな声を出せた。

これなら、誰でも引っ掛かるだろう。


「えっ……」


千愛の顔はたちまち絶望の色に染まった。

それと同時に俺の心に罪悪感が募った。

本当に申し訳無いな……

と思いつつも俺は演技を続けた。


「本当に憶えてないの?」


千愛がそう尋ねてきたので俺は首肯する。

再び罪悪感が募った。


「あぁうぅ……折角、馴染めて来たと思ってたのに……亜騎さんなら私のこの性格を直してくれると思ってたのに……」


千愛がポロポロと涙を流しながらそんな事を言った。

この事から考えるに、千愛は俺の事を特段、嫌っている訳では無いようだ。

今までの突き放すような発言も千愛の性格故なのだろう。

千愛の性格は俗に言うツンデレってやつだろう。

ここまで分かれば十分だと思った俺は、千愛にドッキリだと言う事を伝える事にした。

もう少しで罪悪感に押し潰されそうだった。


「ドッキリでした~」


俺は明るく、そう告げた。


「……本当に?」


千愛はそう聞いてきた。


「本当だ。別にあれぐらいの事故で記憶喪失になる程俺の体は弱くないからな。」


正直に言うと、何時、何処で、どんな事故が起こったのか俺は知らない。

でも、俺が普通に生きていると言う事はそういう事なのだろう。


「うぅ……本当に、本当に良かった……私の事を憶えていてくれて……」


怒られるかもと少し思っていたがそれとは真逆で千愛は、泣きながらそう言葉を零した。


「そんなに泣くなよ。」


俺が言うのは違うと思うが一応俺はそう言葉を掛けた。


「それと、千愛は今のままが良い。無理に変えようとしなくて良い。個性は人それぞれだ。だが、変わろうとする意思は大事だ。それを覚えた方が良い。」


ここで、名言らしき物を千愛に向けて言った。

内容は深く見えるものの、個性を大事にしろよと言うのを遠回しにしたものだ。


「ありがとう。」


千愛は涙を拭きながら言った。

ドッキリを仕掛けた側がお礼を言われるのは間違っているだろうか……


 その後、俺達は適当な手続きを済ませ、病院から出た。


「もう夕方になったな。」


辺りはオレンジ色に染まっていた。


「ごめんな。俺の不注意で。その代わりと言っては何だけどこれからも会えるように連絡先交換しよう。」


「それって!友達になるって事?」


「ふふっ、友達になりたいのか?」


「い、いや!別に?そんな事は1言も言ってないし!」


こうして、視聴者と会う企画は幕を下ろした。

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