第9話 配信

 「お待たせー。指、見せて。」


救急キットを持って帰ってきた天羽がそう言った。

俺は大人しくその指示に従う。


「ちょっと消毒するね。」


傷口の消毒と言えば沁みるイメージがあるが、現代社会では、至る所に消毒液がある為、もう慣れてしまった。

消毒液があったらついつい消毒してしまう癖もついてしまった。


「ありがとう、天羽。それしか言葉が見つからない。」


「えへへ。どういたしまして!」


「さて……配信まであまり時間が無いが、まだ玉ねぎが切れてないのか……」


「次は私が切ってみるよ。」


「大丈夫か?」


「多分大丈夫でしょ!」


俺はそれを聞くと、配信の準備をしてくると天羽に告げ、配信部屋に配信機材を取りに行った。

機材と言っても、カメラとピンマイクと俺の顔を隠すマスクだけなのだが……

ふと、俺は時計を見る、配信まで後5分しかない。

俺は機材を持って急ぎ足でキッチンまで戻った。


「出来たか?」


「うん。不格好だけど切れたよ。」


「そうか。はい、これ。マイクだ。」


「うん。ありがとう。」


そのように俺達は慣れた手付きで(実際に慣れている)配信の準備をした。


 そして、ついに配信が始まった。


「どうも、こんにちは。亜騎です。今日は、タイトルにもある通り、ゲストが来ています!!どうぞ!」


「どうも、天羽です!!今日は、亜騎さんとコラボします!!」


天羽は自分の本名で活動しているようだ。

元々、配信者に居そうな名前だったからだそうだ。

因みに俺は名前を反転させただけだ。


「と言う訳で今日は天羽さんと料理配信をしていきたいと思います。まぁ、料理よりかは雑談がメインになるかな。」


俺がそう言うと、コメントが凄い勢いで流れ始めた。

コメントの多くが『おぉー』といった物だった。


「それじゃあ、始めましょうか。」


天羽のその言葉を合図にハプニングだらけの料理配信が始まった。


「えーと、まずはこの玉ねぎを焼くのか?」


「違うよ!先にお肉を焼くんだよ!」


料理手順を見ずにやるという企画の為、初っ端からつまずいた。


「こういう時はコメントを見るんだ。えっ……お肉と玉ねぎを混ぜるの?」


「えー知らなかった。」


このような調子で配信が続いていき、それもようやく終わりに近づいてきていた。


「ふぅー意外と綺麗に出来たね。」


「そうだね。途中難しいところもあったけど楽しかった!」


「途中っていうか全部だけどな。ん?この2人絶対に仲良いじゃん?ってコメントが流れてきた。」


「まぁ、今回のコラボで仲が深まったかもね~」


「じゃあ、そろそろ終わりますか。」


「ご視聴ありがとうございましたー!」


それで、配信は終わった。

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