第3話 企画

 「視聴者と会う企画をしましょう。」


「えっ?」


俺はそんな素っ頓狂な声を漏らした。


「どういう事だ?」


「言葉のままですよ。」


「俺が顔出しをしてないのは知ってるよな?」


「勿論です。」


「じゃあどうして……」


「恋愛をしてみたいんですよね?だったら……」


「却下だ。」


俺は食い気味に答えた。


「視聴者とオフ会的な事をする企画って事だろ?無理だ。」


「よく分かりましたね。」


「まぁな、咲凪とは結構長い付き合いだからなある程度は分かる。」


「だったらどうして却下何ですか?私の意図が分かってるんですよね?」


「俺が人見知りだからだ。」


「えっ?」


今度は咲凪が素っ頓狂な声を漏らした。

その途端に外で雷鳴が鳴り響いたので俺は少々驚いた。

外は相当な豪雨なんだろう。


「顔出しが嫌とかじゃないんですか?!」


「そろそろ顔出ししようかなって思ってた頃だ。」


「人見知りぐらいなんとかしてくださいよ。」


「無理だ。そんな簡単な事じゃあない。」


「じゃあ、私と恋愛しますか?」


「どうしてそうなるんだ?!」


またもや、雷鳴が鳴り響いた。

それにより、かなり言葉のインパクトがかさ増しされたかも知れない。


「だって、そう言う事じゃあないですか!あなたが恋愛をしたいって言うからこの企画を考えたのにそれを却下されたら私とするしかないじゃあないですか!」


そうなのか……?

もしかしたら俺の常識と咲凪の常識は異なるのかも知れないという考えが頭をよぎった。


「じゃあやるよ、企画を。やれば良いんだろ?」


咲凪と恋愛する事になるぐらいなら視聴者とした方が幾分かましだ。

咲凪とは、今の友達みたいな関係が丁度良い。

それに、必ずしも視聴者とそういった関係になるとは限らないからな。


「そうです!それで良いんです!」


「はぁ〜これでやっと打ち合わせが終わった。長かったな〜」


気付けば用意していたお菓子は空になっていた。

俺は殆ど食べていないのだが……


「じゃあ、今日はお疲れ様でした。」


そう言って帰ろうとする咲凪を俺は引き止めた。


「咲凪は、何でここに来たんだ?流石に車だよな。」


「いえ、徒歩ですけど……」


ビショビショになって来たところから予想はしていたがまさか本当とは思わなかった。

今起こり得る中で最も最悪な事が起こったかもしれない。


「タクシーで帰るよな。」


「この辺タクシー通らないじゃないですか。」


「咲凪の家は近所だったっけ?」


「歩いて15分は、掛かります。」


「……外は窓を見ずにでも分かる程の豪雨だ泊まっていけよ、今日は。」


苦渋の決断だった。

流石にこんな雷雨が降る中、咲凪を1人で帰す訳にはいけない。


「耳を澄ませば……確かにそうですね。来たときの何倍も降っているみたいです。」


「こんな時に外に出たらどうなるか……想像するのは容易だろう?」


「あー……お言葉に甘えることにします。」


こうして咲凪が、今日だけ家に泊まることになった。

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