第2話 打ち合わせ

 何を考えても無駄な事だと思った俺はソファーで寝転がり、暫くスマホをいじっていた。

面白そうなサイトを見つけてタップしようとしたその時、突然滅多に鳴らない家のインターフォンが鳴った。

宅配を頼んだ覚えは無い。

だとしたら誰だろうか……

俺は玄関まで恐る恐る歩き、覗き穴を覗いた。

そこには、ビショビショになったスーツ姿の女性が立っていた。

俺はそいつの事を知っている。

なぜなら、彼女は俺がさっき電話した俺のスタッフ的な人だからだ。

スタッフと言っても仕事仲間とかじゃなくて普通に友達みたいな感じだ。

あんまり親しいとは思ってないが……

名前は神崎咲凪かんざきさなという。

ビショビショのまま放置するのも悪いので俺は取り敢えずドアを開けてそいつを中に入れた。


「うぅ……お邪魔します……」


咲凪は歯をガチガチ鳴らしながら震えていた。

外では雨と共に風も吹いている為当然といえば当然だろう。

俺は咲凪にふかふかのタオルを渡した。


「ほらよ。濡れたまま家に上がるのは勘弁してくれ」


「ありがとうございます」


彼女は礼を言い体を拭き始めた。

みるみるうちにタオルが水気を含んでいく。


「で、こんな雨の中なんのようだ??」


おおよそ見当はついているが一応尋ねる事にした。


「分かってますよね!?」


「まぁな」


しらばっくれることはしなかった。

しても面倒なことになるだけだと思ったからだ。


「何で打ち合わせがを中止にしたんですか?! もちろん、相応の理由があるんですよね??」


彼女の口から怒気を孕んだ声が出てくる。

用事があるから……と言ってもそれが嘘だということはすぐにバレるだろうから正直に言う事にした。


「雨が降っていたからじゃあ駄目か??」


「駄目ですよ! 折角の打ち合わせなのに……」


何をそこまで落ち込むことがあるのだろうか……打ち合わせなんてしたいときにいつでもできるというのに……


「しょうがないな……ここでやることにしよう。打ち合わせ」


「……それは良いですね!」


暫く思考した後、彼女は了承の意を示した。

そんなこんなで俺の家で打ち合わせを行うことになった。

会議室のような緊迫感のある無機質な部屋ではなく多少温かみのある部屋で……


「じゃあ始めますか……」


リビングの椅子に座り、いよいよ打ち合わせが始まろうとしていた。 


「と思ったんですが……何ですか!? このお酒とおつまみは!?」


咲凪は机の上に置いてある酒とお菓子を指さしながら言った。

打ち合わせと言ってもそんなに固いものじゃないので別にこれぐらい良いと思うのだが……


「偶にはこういう打ち合わせも新鮮で良いんじゃないか??」


「そう言われればそうですね。打ち合わせの内容もさほど重要な事じゃないですしね」


咲凪は意外にもすぐに了承してくれた。

心の奥底では酒やお菓子を食べたかったんじゃあないだろうか。


「さて……乾杯でもするか」


カンッとアルミ缶同士がぶつかり合う音を合図に打ち合わせが始まった。


 「恋愛って何だと思いますか??」


不意に、とても打ち合わせの一番最初とは思えない言葉が飛んできた。

お陰で口に含んだものを思いっ切り吹き出しそうになった。

もうアルコールが回ってきたのだろうか……

ノンアルコールの筈だがな……


「恋愛か……今日はこの単語を良く聞くな……」


「配信でもコメントが来てましたよね」


「配信見てたのか」


「まぁ、時々見ますよ」


「で、質問の答えだが俺にも分からない。謎だから恋愛何じゃないのか??」


正確な解が無い、それこそが恋愛だと今ふと思い浮かんだ。

自分で言ってなんだが割と痛い発言である。

とはいえ解がないとは数学者なら泣き叫ぶ事だろう。


「ふ〜ん、そうですか」


自分から訊いたとは思えない返事が返ってきたが俺は気にせず続ける。


「配信でも言ったと思うがさいごぐらいは恋愛してみたいとは思ってるよ。まぁ、相手が居ないし配信者だからやり難いけど……」


「配信者だからとかそういうのは気にしなくて良いんじゃないですか?? 個人の自由でしょう? 恋愛というものは……」


「でもどうしても視聴者の事を考えてしまうんだよな~」


そう、いつも頭の片隅には配信を見てくれている視聴者の存在がある。

それが俺の頭に制限リミットをかけている。


「重症ですね。まぁ取り敢えずこの話は一旦置いておいて本題に入りますか。さっきまでの話も関係無くはないです」


そう前置きをしてから咲凪は続けた。

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