【祝合計3000pv突破】恋愛配信
杜鵑花
第1話 雑談配信
『恋愛はしたことがありますか??』
雑談配信中に不意にそんなコメントが目に入ったので読み上げる。
雑談配信は自分で幾つかの話題を準備しておいて話題と話題の繋ぎ目に質問等のコメントを読んで初めて成り立つ。
その為読み上げたわけなのだが……
恋愛か……
俺は恋愛をしたことがない。
もうそれだけでコメントに対する答えが出ているのだが無理矢理にでも話を広げなければいけないので俺は思考する。
……経験無しでは何も思いつかない。
配信者になって他の人とは違った経験を積んできたと思っていたのだがどうやら思い違いだったらしい。
しかし、こういう困った時は心優しい視聴者に訊くのがいいのだ。
「うーん、俺は恋愛はしたこと無いかな……しようとは思ってるんだけどね~逆にさ、皆はどうなの? したことあるの?」
そう尋ねるとまるで時の流れが加速したかのように一気にコメントが流れるスピードが速くなった。
目を凝らして流れるコメントを見ると『ある』の方が多いことが分かった。
羨ましいばかりだ。
「へー皆は結構したことあるんだね。おっと……もうそろそろ時間かな。それじゃあまた次回の配信でお会いしましょう」
そう言って俺は唐突に配信を切った。
実はこの後、大事な打ち合わせがあるのだ。
少々強引な終わらせ方だったかも知れないが良いだろう。
いつもこんな感じだし。
それにしても打ち合わせか……面倒臭いな。
配信者を始めたばかりの頃は凄くワクワクしたのだが。
今は、もうワクワクもしない。
俺みたいな長年やってる配信者は大体そんな感じだ。
俺はあまりアウトドアな感じじゃあ無いのでただの偏見だが……
っと……そろそろ家を出ないといけないな。
俺はドアノブに手をかけ、ドアを開けた――
「えっ!? 今日の打ち合わせは中止ですか!? なんでです!?!?」
電話の向こうからそんな驚きに満ちた声が響く。
「だから、用事が出来たんだって! もう切るね」
ツーツーと電話が切れた音が外で降っている雨の音と混じる。
こんな天気じゃあ、打ち合わせに行きたくなくなるのも当然だ。
さて、今日は家の中で籠もっていよう。
いや、今日もか……
俺はドスッと割と長年愛用しているソファーに腰を掛け、画面が割れたスマホをいじる。
雨の音がだんだん強くなってきた。
配信を切ってシンとした為、俺はそれに気づく事ができた。
雨粒が一つ一つ落ちていくのをぼーっと俯瞰しているとふと、俺は今日のコメントを思い出した。
『恋愛はしたことがありますか?』
俺は検索エンジンを立ち上げ、タイピングした。
恋愛 仕方と
しかし、ヒットしたものはどうしようもないものばかりだった。
これと言って親しい友達の居ない俺にとっては無理難題すぎるものや、物語の中の世界のもの、色々あった。
俺に恋愛は向いていないのかも知れない。
自分で言うが顔は悪くない、割と普通な感じだ。
コミュ力も配信をしているからあると思う。
だが、人に話を掛ける勇気が無い。
配信では画面に向かってひたすら話し掛けているため勇気が必要ない。
しかし、
所謂、人見知りというやつなのかも知れない……いや、きっとそうに違いない。
それに加えて配信者という肩書きを持っている為余計恋愛がしづらい。
肩書きというものは自分のデータの事である。
漢字検定や英語検定……何かの免許とかも肩書きに出来る。
今まで肩書きはいくらあっても問題無いと思っていたがその考えも改めなきゃいけないかもな……
嗚呼、一度で良いから甘酸っぱい恋愛を味わって見たいな……
俺はそう叶うわけもない事を思うのだった。
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