第99話 連行、そしてさようなら
エルフの里に侵攻しようとした帝国兵を無力化する。
無力化っていうか、司令官以外の兵士は皆殺しにした。
生かしておく価値はないし、生かしておくといろいろ面倒なことになる。
ナナやアイリスたちの前で、エルフたちによる凄惨な拷問や暴力は見せたくないからな。
コスパ的にも一番情報を持っているであろう司令官一人を確保したほうがいい。
「き、きさっ……貴様……」
部下が悉く地面に倒れる中、司令官の男は額にびっしょりと汗をかいていた。
うわあ。今からあれを運ぶのか。なんか汚い。
「抵抗するなよ。暴れられると手足を斬ったりしないといけなくなるからな。めんどくせぇ」
俺がぶっ壊したあの拘束用アーティファクトが残っていたら楽だったな。
残念ながら俺が全てパワーで破壊してしまった。他に使う奴もいなかったし残ってないだろう。
剣に付いた血を払い落して鞘に納める。その後、ゆっくり男に歩み寄った。
俺が近づくごとに男の顔色は悪くなる。
後退って逃げようとしたが、緊張やら恐怖やらで上手く動けていない。早々に捕まった。
「く、クソッ! 離せ! 嫌だ! 俺は出世して偉くなるんだああああ!」
とうとう現実逃避まで始めた司令官。
ジタバタと軽くもがく。
そんな男を引きずりながら俺はエルフの里に戻る。
「さてさて……アイリスたちのほうは順調かな? まさかあのデカいだけのサンドバッグに手こずるとは思えないが」
万が一巨人が生きていた場合、さっさと空中にでも打ち上げてとどめを刺すとしよう。
文句言われたら「アイリスたち倒すのが遅い!」とか言って逆ギレする。
☆
司令官を引きずってエルフの里の前に戻る。
ちょうどそのタイミングで、アイリスが相手していた巨人が倒れた。
ずぅぅぅんっっっ‼
鈍い音が周囲に響き渡り、わずかに地面が揺れる。
「おっ。時間ピッタリだな」
「ユウさん! どこに行ってたんですか。せっかく私が張り切ってあの巨人を倒したというのに!」
俺の姿を見つけたアイリスが駆け寄ってくる。隣にはナナとシルフィードまでいた。
「悪い悪い。アイリスとナナなら勝てると思って別の用事を優先してた」
「別の用事?」
「ほらこいつ。今回攻めてきた帝国兵の司令官」
ずいっとアイリスたちの前に引きずっていた男を突きだす。
「なっ⁉ いつの間に敵の大将を……」
「いやあ、たまたま遠くで魔力の反応を感知してね。もしや? と思ったら敵を見つけてね。暇だから潰してきた」
「そんなおつかいに行く子供じゃないんですから……でも、ありがとうございます。探す手間が省けましたね」
「さすがパパ。偉い」
「だろう? ふふん。パパは最強だからな」
『では騒動はひと段落したということで、私は魔力が限界なので帰りますね、アイリス』
「あ、そうでしたね。ありがとうございました、シルフィード様。すっかりお世話になって」
『気にしないでください。私は常にアイリスと共に』
それだけ言ってシルフィーの体が空気の中に溶けていった。
わずかに残った魔力が拡散し、周囲へ流れていく。
「よし。シルフィードもいなくなったし、巨人も動く様子がない。今回の騒動は完全に片付いたな。あとはこいつをエルフたちに引き渡せば終わりだ」
「俺様を引き渡すだとぉ⁉ ふざけるな! そんなことをしたら……俺は!」
「諦めるんだな」
騒ぎ出した司令官の男を引きずっていく。
俺の隣にはアイリスとナナが続いた。
「お前に選べるのは、情報を吐いて少しでも楽に殺されるか、苦痛に耐えながら長く苦しむかの二つだけだ」
どっちみち救いはない。
これまで殺したエルフ族にでも懺悔しながら死ぬことだな。
それが償いというものだ。
☆
翌日の昼。
エルフ族の里に侵攻してきた帝国兵との戦いが終わる。
一時はどうなることかと思ったが、蓋を開けてみたら圧勝だった。
比較的早い段階からアイリスや俺が混ざったことにより、夜遅くに行われた戦争で犠牲者は出ていない。
エルフたちの代表である長老たちからもお礼を言われた。
「アイリス王女、ならびにユーグラム殿下。此度の助力、まことに感謝する!」
「ユウな」
「貴殿らのおかげで我が里は守られた。奇跡的に犠牲者もいない。その上で敵の司令官を捕らえることもできた。重ね重ね感謝するしかないな」
「私も頑張ったのに」
自分だけ名前が呼ばれなかったことに不満を持つナナ。
こういう時はしょうがないんだよ、と俺は彼女の頭を撫でて慰める。
だが人の本名は口にするな。もうその名前は半ば捨てているようなものだ。
「ちなみにこちらがアイリス殿下へ送る情報だ。先ほどまで司令官を拷問して吐かせた内容が書いてある。ぜひとも活用してくれ」
「ありがとうございます。我が父、国王陛下に渡し必ずや役立てることを誓いましょう」
「うむ。客人たちはこのあとどうする? まだ我らが里に滞在していくか? もちろん歓迎するぞ」
見た感じ本気で言ってるっぽいな。
排他的なエルフたちからは考えられないほど寛容だ。共に戦った功績がデカい。
しかし、俺たちは首を横に振った。
「申し訳ございません。すぐにでも情報を共有しないといけないので帰ります」
「そうか……それは残念だ」
「またいつでも来ていいからね?」
最初から友好的だった女性エルフがそう言う。投げキッスまでくれた。
思わず俺は気分を良くした。
直後、隣に立つアイリスに抓られる。
「いだだだだ! アイリスさん? 腹の肉をそんな風に抓るのは……」
「浮気者には当然の罰です!」
「浮気者って……」
俺は別に浮気者じゃありませんよ。アイリス一筋だ。
けどこの場でそんなことは言えなかった。あとでからかってやろうと決意する。
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