第98話 雑魚共、そしてボロ雑巾
エルフの里近隣。
森の中に帝国兵が集まる野営地があった。
恐らくこれからエルフの里へ侵攻するのだろう。
集まった兵士たちが列を成して準備を済ませていた。
やる気満々な彼らの下に、俺は仮面を付けた状態で立ちはだかる。
「よう、いい夜だなこの野郎」
人様の睡眠時間を削りやがって。
もうちょっとでアイリスといい展開だったのに!(妄想)。
「だ、誰だ!」
真っ先に俺に反応したのは、兵士たちのリーダーと思われる男性。
恰幅がいい。おまけに列の一番前にいる。
他にも服装が豪奢だったり立ち振る舞いが偉そうだったりと理由がある。
間違いないな。
「お前たちの敵だよ。よくもまあ俺たちの里に襲撃をかけてくれたな。あんな醜いモンスターを引き連れて」
「ッ! 貴様……エルフか!」
すらぁっ。
リーダーと思われる男性が腰に下げていた鞘から剣を引き抜いた。
切っ先を俺に向ける。
「お前たち、敵がのこのこ一人でやって来たぞ! 武器を構えろ!」
「はっ!」
後ろに並ぶ他の兵士たちも一様に武器を構える。
徐々に横に広がっていき、あっという間に俺は囲まれた。
意外と訓練された兵士たちだな。帝国がそれだけエルフたちを脅威に感じているってことだろう。
「くく、残念だったなあ、エルフ。お前たちは確かに強い。それは認めよう。だが、たった一人で何ができる! 人間の恐ろしさを知るがいい!」
さっとリーダー格の男が手を上げる。
それを合図に、周りにいた他の兵士たちが一斉に動き出した。
剣を手に俺の下へ迫る。
「お前らみたいな羽虫を殺すのに、俺一人いれば充分なんだよ」
殺到する帝国兵。それを前に、俺は剣に魔力をまとわせて——薙いだ。
一撃で周囲を囲む兵士たちが吹き飛ばされる。
まず俺の剣に当たった兵士たちが、その後ろに並ぶ仲間の兵士たちをドミノ倒しで巻き込む。
結果、円状に広がったほぼ全ての兵士が地面を転がった。
唯一、動いていなかったリーダー格の男だけは無事だ。
被害状況を確認して顔を真っ青にする。
わずかに剣を持つ手が震えていた。
「き、貴様ッ! 何をした⁉」
「なにって……見たまんまだろ。ただ魔力を使って剣を振っただけだ」
「ふざけるな! 卑怯な真似をしたに決まってる! でなきゃ、私の屈強な兵士たちが一撃で敗れるなど……!」
倒れただけでまだ敗れてはいないだろ。
——そう言おうとしたが、あえて口を紡ぐ。にやりと笑って相手の恐怖を煽ってみた。
すると、リーダー格の男はさらに顔色を悪くする。
「みとっ、みとめっ……認めるものかあ!」
リーダー格の男が吠えた。
次いで、懐から何かを取り出す。
手にしたのは……。
「アーティファクトか?」
不思議なオーラを感じる笛だった。
この状況で普通の笛を取り出すはずはない。
俺の本能が言ってる。こういう時は大抵ろくなことにはならないと。
相手が何かする前に俺は動く。
地面を蹴ってリーダー格の男へ接近した。
しかし、それより先に倒れた兵士の何名かが新たなアーティファクトを取り出していた。
同時に彼らのアーティファクトが起動する。
球体状のアーティファクトが地面に叩き付けられ、割れ、そこから縄が飛び出す。
勢いよく縄は俺に巻き付いた。体を何重にもまわって縛る。
「ッ。拘束系のアーティファクトか」
「はは! それはエルフたちを捕まえるために用意したものだ! もはや貴様は動けまい! 貴様相手にここまでアーティファクトを使用するのは贅沢極まりないが……とくと味わうがいい。絶望をな」
そう言ってリーダー格の男が手にした笛を吹く。
奇妙な音が笛から漏れた。
周囲に大量の魔力が拡散される。
——魔力の拡散、だと⁉
魔力を使うのではなく、あの笛は魔力を生み出した。
流れが途中で止まったあたり、永遠に魔力を生み出すための道具ではない。恐らく、放出された魔力に何かしらの影響が……。
そこまで思考を巡らせていると、ふいに放出された魔力が黒い塊へ変化した。性質を変え、形状も変える。
徐々にそれは人間のような姿になった。
「ガハハハ! 見るがいい。これぞ兵を増やすためのアーティファクト! 無尽蔵に生き物を生み出せるのだ!」
「ァァァァァァ」
創り出された謎の生き物たちは、知能が非常に低いのかまともに話すこともできずに呆然としていた。
感じる魔力量からしても大したことはない。正直、ガッカリもいいとこだ。
「ハァ……なんだ。拘束までして使ったアーティファクトがただボロ雑巾を創るだけのゴミか」
「な、なんだと⁉」
「わざわざ見届けてやったらこれだ。よくそんな物でイキがれたよな。泣けてくるぜ」
全身に魔力を巡らせる。
俺は剣を使うこともなく、ただ身体能力のみでアーティファクトによる拘束を——破壊した。
ぶちぶちぶちっ! という音を立てて縄が千切れる。
「なぁ⁉」
帝国兵たちは全員があっけにとられる。
こきこきと首を鳴らし、俺は剣を構える。
「もういいわ。お前らに見るべきものないってことで、死んでくれ」
剣に魔力をまとわせる。
リーダー格の男以外は皆殺しにする。別に生かしておいても意味はないし、情報を取るなら上官であるあの男がいれば充分だ。
そう思って、まずはリーダー格の男に近づいて意識を落とす。
あとは作業のようなものだ。
絶望する彼らに、戦争の恐ろしさをたっぷりと味合わせた。
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