第97話 アイリスの戦い、そして本陣へ

「グオオオオ!」


 複数の魔物の特徴を持つ巨人が絶叫する。

 周囲の地形をまとめて吹き飛ばしながらアイリスと戦っていた。


「ッ! いくら傷付けても再生されるのは厄介ですね」


 攻撃を避けながらアイリスとナナは一度距離を取る。

 アイリスの魔力ならあの巨人にダメージを与えることはできるだろう。だが致命傷とまではいかない。


 瀕死に追い込んでも再生されてしまうためさらなる火力と手数が必要になった。

 こうなるとアイリスの奥の手を使うか俺が参加するしかない。


「どうするアイリス。奥の手を使ったら帝国側にバレるかもしれないぞ」

「そうですね……個人的には隠しておきたいところではありますが、すでにバレてる可能性はあります。それにユウさんの力を隠したほうが得策でしょう」

「俺の?」

「我が国の最終兵器ですから」

「俺は人間なんだが」


 もはや兵器扱いである。


「でも言いたいことは解った。アイリスに任せるよ」

「はい。あのくらいの魔物でしたら——私一人で倒せます!」


 アイリスの体に膨大な魔力が集まっていく。

 周囲の魔力が根こそぎ奪われた。

 足元が光る。薄緑色の輝きだ。




「精霊召喚」




 アイリスの声に呼応して美しい長髪の女性が姿を見せる。

 彼女は精霊シルフィード。

 風を司る精霊だ。


 ちなみにアイリスの精霊召喚は使用者であるアイリスの成長に合わせて召喚できる精霊が増える。

 まあよくある属性にちなんだ精霊が出てくるってわけだ。


 今の彼女ではシルフィード一人が限界だが。


『どうしましたアイリス。何か問題でも?』

「度々申し訳ございませんシルフィード様。あちらにいる巨人がエルフの里を襲撃しております」

『ほう。我が子たちの里を』

「はい。つきましては再生能力を持つあの巨人を倒すのに力を貸していただければと」

『委細承知。細かく切り刻んであげましょう。アイリスは攻撃を合わせなさい』

「はっ!」


 剣を構えるアイリスにシルフィードは魔力を練り上げた。

 すでに周囲の魔力はない。

 シルフィードはどこから魔力を引き出しているのか。


 アイリスが集めた魔力だ。


 精霊召喚っていうのは集めた魔力を精霊として具現化する。具現化された精霊は自身の体に溜め込まれた魔力を使えるのだ。

 逆に言えば魔力を全て消費すると精霊は消える。

 ある種の制約だな。

 それゆえに精霊は強い。


「グオオオオ!」


 巨人が再び咆哮する。

 極太の腕を振り上げシルフィードへ落とした。

 シルフィードは腕をかかげ巨人の攻撃を防ぐ。


 衝撃が地面へ届いて大地を砕く。

 しかしシルフィードへ当たることはなかった。不可視の壁が直前で巨人の攻撃を防御する。


『醜い化け物ですね』

「帝国が生み出した合成魔獣と思われます」

『キメラ……なるほど。人は相変わらず愚かな真似をする』


 そう言ってゆっくりとシルフィードは手を薙ぐ。

 その動きに沿って巨人の腕が——切断された。


 今度は不可視の刃だ。

 巨人は痛みに悶えながら後ろに下がる。


『特別に私が引導をお渡ししましょう』


 さらに不可視の刃が飛んでくる。

 魔力の反応を見れば防ぐことも躱すこともさして難しくはない。

 だが巨人にはそれができなかった。次々に刃が全身を刻んでいく。


「さすがシルフィード様。私も続きます!」


 地面を蹴ってアイリスが巨人へ迫る。

 ナナも一緒に巨人へ攻撃した。


 シルフィードの風の刃は二人を巻き込まないように腹部や下半身を重点的に攻める。

 上半身——首から上はアイリスとナナだ。


 眼球を切り裂き視界を潰し、致命傷たる首を執拗に狙う。

 このまま戦いが続けばアイリスたちの勝利だ。俺は確信を持って視線を横に逸らした。


 森の中わずかに感じる魔力の反応を追いかける。


「さぁて、三下はそこかな?」




 ▼△▼




 アイリスたちがキメラの巨人と戦う中、勝利を確信した俺は森の中に入る。

 遠くでかすかに魔力の反応がした。恐らく帝国兵だろう。

 ちょうどいいので捕まえることにした。


 自然をかきわけ徐々に魔力の反応に近づく。

 すると、やがて野営地に到着する。


 森の中にいくつものテントがあった。それに沢山の人がいる。

 武装してるあたり間違いなく帝国兵だな。


「こんな所に拠点を置いてたのか」


 というか魔物が出てきた方向と違う。

 わざわざ魔物に遠回りさせたのか? なぜ?

 少しだけ考えてからなるほどと答えを得る。


 魔物たちがエルフを圧倒もしくは拮抗すれば横からこいつらが里を攻める作戦だったのかな?

 未だ動きがないのは思った以上にエルフ——アイリスが奮闘しているからだ。

 このままだと巨人も倒されるしそろそろ動くとは思うが……。


「ん? あれは……襲撃の準備かな」


 よく見ると装備を整えた兵士たちが一か所に集まっていく。

 俺の予想どおりの展開っぽい。

 見るからに偉そうなおっさんが出てきて何十人もの兵士に声をかける。


 そこまで見届けて、俺は野営地の中に突撃した。

 堂々と敵の前に姿を現す。


「よう、いい夜だなこの野郎」


 人様の睡眠時間を削りやがって。

 もうちょっとでアイリスといい展開だったのに!(妄想)。

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