第96話 キメラ、そして巨人
俺とアイリス、ナナの前に、複数の魔物の特徴を持つ異形の怪物が現れた。
怪物の数は一体じゃない。五体を超えてわらわらと森の中から出てくる。
「なぜここにあの化け物たちが!」
「帝国が研究していた産物だしな。出てきてもおかしくはない。……が」
さすがに出てくるのが早すぎる。
俺の予想を遥かに超えていた。
今の帝国は非人道的すぎるキメラ計画に手を出さざるを得ないほど追い詰められているのか?
俺がいないだけで?
……違うか。そう考えるより、ただなくなった戦力を補っている——という表現のほうがしっくりくる。
帝国とはそういう国だ。
「構えろ、アイリス。ナナも」
「ッ」
「了解」
アイリスとナナは言われたとおりに剣を構えた。
「敵はそれなりに強い。他に帝国兵がいるかもしれない。決して油断するなよ。離れすぎないように注意しろ」
「ふふ。ユウさんも意外と心配性なんですね」
「俺は最初からお前たちを心配しまくってるよ」
言いながら地面を蹴った。
奇怪な叫び声を上げる魔物たちに突っ込む。
遅れてアイリスとナナもそれに続いた。
鈍色の剣尖が魔物の体を抉る。
魔物の能力自体はそこまで高くなかった。
これは俺の予想を超えるほどじゃなかったってことだ。
通常の魔物より遥かに強化されてはいるが、魔力を使えば問題ない。
アイリスも苦戦していなかった。
ナナのほうは少しばかり手を貸さないとダメかな?
元から彼女は対人戦のほうが得意だし。
「ナナ。俺と一緒に敵を狩るぞ」
「パパ。ごめん」
ナナは少しだけ俯いて答える。
その頭をさらりと撫でた。
「謝る必要はない。ナナはまだまだ強くなれるし、人には向き不向きがある。相手が人間だったらナナのほうが強いよ」
「……うん。ありがとう」
「じゃあ行くぞ」
まずは俺がナナを先導する。
ナナの攻撃は魔物に対してダメージは少ない。であれば、ナナの隙を俺が保管する。
そうして次々に魔物を撃退していくと、やがて大きな足音が聞こえてきた。
これまで以上に大きな魔物が向かってきている。
そんなものまで投入するのか、帝国は。
俺が呆れている中、周りの自然を破壊しながら巨大な化け物が姿を見せた。
五メートルを優に超える巨人だ。
虚ろな黒い双眸が、俺たちを見下ろしている。
「な……なんですかあの化け物は⁉」
「キメラの一種だな。特徴が見える。けど、俺も見るのは初めてだ」
こんな魔物がいたのか。
というかこんな魔物どこから連れてきたんだ?
様々な疑問が脳裏を過る中、巨人が腕を振り上げて落とす。
俺たちは咄嗟に横に跳んだ。
地面が砕ける。凄まじい轟音を響かせ、周囲をめちゃくちゃに破壊した。
「おいおい。自然破壊はエルフへの冒涜もいいとこだな」
「敵には関係ありませんよ。それより、あれ、どうしましょうか」
「どうするって? 俺が一撃で仕留めてやろうか?」
「そんなことしたら、あの巨人より自然を破壊して怒られますよ」
「言えてる」
確かにアイリスの言うとおりだ。
見たまんまの能力値を持ってるっぽいし、俺があいつを殺せるくらい魔力を練り上げて攻撃したら、普通に周りは崩壊する。
だが、やりようはあった。
「けど大丈夫さ。森に被害を出さずに攻撃はできる」
「では私とナナに譲ってください。まずは我々だけで対処します」
「二人で?」
いいの? 俺だけサボって。
周りを確認する役目はあるが、実質サボってるのと同じだ。
「たまには私たちも頑張らないといけません。ユウさんに頼ってばかりではいけないのです」
「そっか。なら後ろを任せておけ。いつでも守ってやるよ」
「ありがとうございます。行きますよ、ナナ!」
「うい!」
アイリスに呼ばれ、ナナが地面を蹴って巨人に肉薄した。
その様子を眺めながら、まだ残っていた残りのキメラを討伐する。
はてさて……アイリスたちのお手並み拝見だな。
あの巨人は鈍そうだし、いい練習台になりそうだ。
「頑張れ、アイリス、ナナ」
密かに応援する。
「はああッ!」
地面を蹴ったアイリスが、とんでもない量の魔力を練り上げて攻撃する。
剣に集束した魔力は、衝撃を伴って巨人の体を刻む。
轟音を響かせて巨人を後ろに倒した。
「あ」
思わずアイリスが漏らす。
あいつ……巨人が倒れることを想定していなかったな?
俺も巨人が倒れるとは思っていなかったが、——どーん。
広範囲の自然が消滅した。
まあ、あれは必要経費と割り切ってもらうしかないな。誰にもどうしようもない。
背後ではエルフたちは気にした様子もなくアイリスの戦いを眺めている。
手伝えよ、と言いたいところだが、彼らはアイリスより弱い。
手を貸しても足手まといにしかならなかった。
「グオオオオ!」
倒れた巨人が叫ぶ。
胴体には深い切り傷ができていた。
しかし、その叫びに呼応するかのように、巨人の傷が再生を始める。
「な⁉」
「へぇ……厄介な能力を持ってるな」
どうやらあいつ、一筋縄には倒せないらしい。
地面を揺らしながら巨人が立ち上がる。
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