第93話 俺のが強い、そして始まり

 同盟を組みにエルフ族の里を訪れた俺たち。


 すでに帝国兵に襲撃されているエルフ族は、苦渋の選択——というほどでもないだろうが、アイリス率いる王国側と手を組むことになった。


 正式に書面で同盟の規約内容をまとめ、それをアイリスが受け取る。


 アイリスは国王の代理でもある。彼女が書面を受け取った時点で同盟は成立したようなもの。

 外で待機していたナナたちもエルフ族の里に入る許可をもらい、一度、帝国兵が仕掛けてくるまでゆっくり休むことになった。






「ふう……なんとか同盟を組むことには成功しましたね、ユウさん」


 用意してもらった空き家の一角、柔らかいソファの上にアイリスは腰を下ろした。


 俺も対面の席に座り、彼女の言葉に返事を返す。


「だな。世界樹を守れた件が効いてると見える」

「世界樹?」

「ナナも見ただろ。この里の中央に生えているあのデカい樹だよ」

「二本生えてるうちの一つ?」

「そうそう。片方の大樹が長老たちの家みたいな所で、その後ろにそびえるのが世界樹だ」

「へぇ。どうしてそれが同盟の件と関係してるの?」

「前に話したと思うけど、あの世界樹を狙って帝国の兵がこの里に侵入を試みたんだ。あいつらはアーティファクトとかモリモリだからな。いくらエルフ族が精鋭でも、隙を突けば侵入し世界樹を燃やせると考えたんだ」


 実際、里の中には侵入されたっぽいしな。


「でも、事前に世界樹を守るエルフの兵士を増やしたおかげで、帝国兵を退けることができた」

「それを教えたのがユウさんなんです」

「パパ凄い」


 ぱちぱちとナナが拍手してくれた。

 俺はドヤ顔で「それほどでもある」と答えた。


「ふふん。エルフ族にとって世界樹は命より大切なものだからな。俺の情報が役に立ち、今、帝国側に猛攻撃を受けている。これじゃ同盟を受けないほうがおかしい」

「そんなに大事なものなんだ、あの樹が」

「精霊王がエルフ族のために作ったものだからな」

「精霊王?」

「全ての精霊の頂点に立つ存在だ。クソ強い」

「パパより?」

「いや俺のほうが強い」

「なに張り合ってるんですか。嘘吐かないでください」

「は、張り合ってねぇし……」


 ほんとだもん! ほんとに俺のほうが強いもん!


 原作では精霊王が国同士の戦争に口を挟むことはなかった。ユーグラムも精霊王を見ていない。

 だから、実際に戦ったらどっちが強いのかは解らん。だが、ユーグラムは最強だと他でもない俺自身が信じている。


「はいはい。それより、今後のことを話しましょう」

「今後?」

「帝国兵の件です。向こうは日夜この里を襲っている。エルフ族に手を貸し、私たちも彼らの撃退に尽力しましょう」

「ああね。それがいい。上手くいけば相手の戦力を削れるし、出鼻を挫ける。俺は賛成だな」


 俺とアイリスが揃ってる時点で負けるはずもないしな。


「私は何をすればいい?」

「ナナはアイリスの護衛を。今回は対人戦だ。モンスターじゃなくて人が相手の場合、ナナが活きる」

「近づいてきた相手を殺せばいいの?」

「そういうこと。まあ、アイリスには前線にあまり出てほしくはないけどな」

「無理ですね」


 きっぱりと彼女は拒否する。


 瞳にメラメラと闘志を燃やし、グッと拳を握り締めた。


「私は困っているエルフ族のためにも、前に出て敵を倒します! それが神に選ばれた私の使命です!」

「燃えてるなあ。しょうがない。そういうことだから、やんちゃなお姫様をナナが守ってあげてくれ」

「パパは?」

「俺もアイリスの護衛だよ。よほどの強敵が出てこないかぎりは、暴れないようにする」

「ユウさんが……大人しくしている?」

「なんだその信じられないって顔は。俺だってたまには大人しいぞ」

「た、たまには発散したほうがいいと聞きますよ? 暴発は危険です」

「俺は爆弾か何かか?」


 別にストレスを溜めたからって、急に周りを破壊したりしない。

 そもそも俺を護衛役に指名したのはお前だろうが、アイリス。


 ジト目で彼女を睨むと、ややあってアイリスは苦笑した。俺に謝る。


「ふふっ、すみません。冗談です。ユウさんが傍にいてくれると安心しますね」

「だろ? 何が起きても必ず助けてやる。だからアイリスは前だけ見てろ。後ろは俺とナナがカバーする」

「はい! お二人のことは信頼しています。我々とエルフで絶対に帝国兵に勝利しましょう!」

「おー!」


 士気は上々。あとは、向こうの動き次第かな?


 今度はどんなイレギュラーが待っているのか。俺はそれだけが気になった。




 ▼△▼




 エルフ族の里近隣。


 野営用のテントを張った一団、その中でも豪奢なコートに身を包む男性が、部下の男に訊ねる。


「キメラたちの準備はどうだ?」

「順調とのことです。夜には襲撃可能かと」

「そうか。あのよく解らない化け物も送ってくれるんだろうな?」

「化け物……ああ、目玉のモンスターですね。もちろんです。再三確認し、運び出している最中らしいですよ」

「解った。くくく。楽しみだな。傲慢なエルフ族たちが、惨めに地を這い、命乞いする瞬間が」


 クツクツと喉を鳴らし、男は踵を返すと奥のテントに戻っていった。


 本当の意味での開戦は近い——。


———————————

あとがき。


新作二つ、面白いよ!よかったら見てね!

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