第91話 冷静に、そして射殺!
帝国の卑劣な戦法を聞き、アイリスは憤る。
しかし、俺は努めて冷静に彼女をなだめた。
「怒ってもしょうがないぞ、アイリス」
「ユウさんは平気なんですか。精霊が利用され、多くの人の命が奪われても」
「平気かどうかで言えば嫌だよ。俺だって誰も死ななきゃいいのにって常に思ってる」
「なら——!」
「どうするんだ?」
「ッ」
彼女の言葉を遮って続ける。
「お前はどうすればいいと思う? ただ怒り、帝国へ暴力をぶつけて滅ぼせばいいとでも?」
「い、いえ……そこまでは」
「だろ? 俺たちがするべきことは怒りに任せて行動することじゃない。冷静に、相手の思惑を潰してやればいいのさ。そのためにエルフ族の里に行って奴らの手助けをするんだ」
「手助け、ですか? 同盟を組みに行くのでは?」
「今回の件はそれだけじゃ済まない。もっと面白くなるぞ」
「面白く?」
「ああ。連中が世界樹に手を出そうとしたってことは、次はエルフ族の里自体を襲うはずだ。しかも世界樹を燃やすことができなかったからな。二回目はもっと苛烈に攻めてくるはずだ」
原作のイベントでは、世界樹が炎上してから帝国の兵士たちがエルフ族の里に攻めて来た。
時系列的に、すぐ奴らはエルフ族を捕まえようとしてくるだろう。
今回、エルフ族は世界樹を守ることができた。原作みたいに絶望はしていない。
何より、向こうに俺がいなきゃすぐにエルフ族を制圧することはほぼ不可能。
そこにアイリスやナナ、俺が加われば問題なく対処できるはずだ。
「では急いでエルフ族の里に向かいましょう」
「落ち着け。馬車での移動なんだからどう頑張ってもこれ以上速くはならない」
馬車が街の正門をくぐって走り出す。
それでも、普通の馬より遅いし体力の限界もある。
前に行った時と同じ時間はかかるのだ。
「……そうでしたね。すみません。問題が起こると思うと、いてもたってもいられなくて」
「気持ちは解るよ。アイリスは正義感の塊だしな」
「べ、別に塊ってほどじゃ……」
彼女は顔をわずかに赤くする。
褒められて照れたな? もっと褒めてやろう。
「まさに正義って感じじゃん。アイリス以上の志を持ってる奴はいないだろうなぁ」
「や、やめてください! わざと言ってますよね⁉」
「そんなことない。疑うのはよくないぞ」
「顔が何よりも物語っています! そのニヤニヤを止めないと斬りますよ⁉」
「すぐ暴力に訴えるのはやめろ⁉」
俺にも優しくしてくれ。
「まったく……ユウさんはお馬鹿さんで困ります」
「アイリスがバランスを取ってくれるからな。少しくらい馬鹿なほうが気楽なのさ」
「私に頼らないでくださいよ。いない時はどうするんですか」
「ナナがバランスを取ってくれる」
「任せて」
ドヤ顔で話を振られたナナが答えた。
実に不安たっぷりの返事だ。最初から期待していない。彼女は俺と同じ側だからな。
「あなたたち親子を放置したら大変な目に遭うというのは知ってます。しょうがないので、私がずっと一緒にいてあげましょう」
「それってプロポーズ?」
「ッ⁉」
ナチュラルに言ったのか、突っ込まれてアイリスが顔を真っ赤に染め上げる。
無意識に彼女の手が腰の鞘に触れた。
「待て待て待て待て。その手を下げなさい」
「ゆ、ゆゆ、ユウさんが変なこと言うからぁ!」
「ただの冗談ですやん。刃傷沙汰はやめようぜ? これからエルフ族の里に行くってのに、護衛が血だらけってどうよ」
「どうせ防がれるんですからせめて斬られてください!」
「めちゃくちゃな要求やんけ」
もはやただ人を斬りたい奴になってるけどお前はそれでいいのか、主人公。
キャラ付けを間違っている。
「それより、もっとエルフ族の話が聞きたい」
こんな状況でもウチの娘の空気読まなさは変わらない。
父親が斬り殺されようとしているのに、淡々と質問を重ねる。
俺はアイリスが振り下ろした一撃を真剣白刃取りしながら、ナナの問いに答えた。
主にエルフ族の文化や日常などを彼女は訊ねる。
▼△▼
荷台で殺人未遂が行われながらも、馬車での移動はなんら問題なく進んだ。
これが問題ないと言えるくらい俺の感覚も麻痺したんだなぁ、と思っていると、眼前にエルフ族の里を隠す霧が見えてきた。
ここからは徒歩での移動になる。
前回の道順を正しく通り、俺たち全員が里の正門前に到着した。
すると、門の上にいたエルフ族の男性二人が、弓を構えて叫ぶ。
「また来たのか、帝国の兵士共! 我々の里は何人たりとも侵せぬと知れ!」
続いて、問答無用で矢が飛んできた。
マジかよ。
———————————
あとがき。
よかったら新作の
『最強の悪役が往く~実力至上主義の一族に転生した俺は、前世の知識を使って世界最強の剣士へと至る~』
を見てくれると嬉しいです☆
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