第90話 精霊の実

 エルフ族の里からアイリスとともに王都へ帰還した。


 彼らもすぐに同盟の話は呑めない。


 ほぼ俺たちと手を組む以外に生き残る方法はないが、それを重く受け止めるか、やはり自分たちだけで解決できると思うのか。


 俺は、とにかく前者に懸けた。


 あとは俺が彼らに教えてあげた世界樹の件がどう絡んでくるか。それによって今度のシナリオに大きな変化がもたらされる。


 そんなこんなで王都に帰って一週間。


 適当にのんびり暮らしていると、ふいにアイリスが俺の部屋を訪れた。


 コンコン、と扉がノックされる。


「はい」


「ユウさん、ちょっといまお時間ありますか?」


「ありません。ぐぅ~」


「失礼します」


「おい」


 俺の寝たフリを完全にスルーしてアイリスが扉を開ける。


 中に入って来た彼女は、一枚の手紙を持っていた。


「ありませんって言っただろ」


「ユウさんに予定があるとは思えなかったもので」


「言ってくれるねぇ」


 確かにそのとおりではあるが。


「それよりこちらを見てください」


 アイリスが手にした手紙を俺に見せてくる。


「ん? なにこれ」


「エルフ族からの手紙です」


「エルフ族からの?」


 なんだあいつら、手紙を送るという文化があったのか。


 人間との関係を断ち切っているとばかり思っていたが、外見は普通の手紙だ。


 受け取り、中身を確認する。


「ふむふむ……やっぱり俺の予想は当たったか」


 エルフ族の手紙には、世界樹を狙って数日前に賊がやって来たらしい。


 タイミングよく俺のアドバイスを聞いていたエルフ族は、世界樹の警備を増員していたためこれに対応できたとか。


 それに関して、エルフ族が珍しく俺にお礼を書いていた。


 エルフ族にはそれだけ大切なものなんだろう。


 さらに、同盟に関して返事をしたいからまたエルフ族の里に来てほしいと書いてある。


 実質的にOKを出したようなものだ。拒否するならわざわざ排他的なエルフ族が俺たちを里に呼び出す必要はない。


 全ての文字を読み終え、手紙から視線を外す。


「やったな。エルフ族が前向きに同盟を組んでくれるっぽいぞ」


「そのようですね。さすがユウさん。どうして世界樹が狙われることを知っていたんですか?」


「俺が帝国にいた頃、そんな話が出ていたからまさかな、と思っただけさ」


 本当は前世で世界樹が襲われる展開を知っていたから、とは言えずに適当な嘘を吐く。


 だが、アイリスはそれを鵜吞みにした。


「なるほど。ではすぐに準備してエルフ族の里へ向かいましょう。幸いにもいまから行けばすぐに着きます」


「マジかよ」


「マジですよ」


 がしっと腕を掴まれ、俺は彼女に引きずられていった。


 まてまてまて。まだ着替えてないだろうが!




 ▼△▼




「またエルフ族の里に行くの?」


 準備を済ませた俺とアイリスは、ナナを連れて外に出た。


 カポカポと街中を馬車が歩く。


 その中で、めんどくさそうにナナが小さく言った。


 彼女は前回、エルフ族の里の前で待機を命じられた。面白くなかったのだろう。あまり行きたそうには見えない。


「そうだぞ~。楽しい楽しいピクニックだ」


「魔物狩りをしていいの?」


「ダメに決まってるだろ? お前はあくまでアイリスの護衛だぞ~」


「パパ、嫌い」


「グサッ」


 冗談でナナを弄ったら心を抉られた。


 これが娘を持つ父親の気持ちか……!


 俺の精神は著しく弱まった。


「ひ、酷いなぁ、ナナは」


「酷いのはパパ。私、つまらない冗談は嫌い」


「ごめんなさい……でも、アイリスの護衛があるのは本当だろう? たとえ中に入れなくても、何が起こるか解らないからな」


「何か起こるとユウさんは予想しているんですか?」


 横からアイリスが訊ねてくる。


 俺はこくりと頷いた。


「まず間違いなくね」


「そこまでしてエルフ族を帝国が狙う理由は……」


「まず一つ。エルフ族は容姿がいいから奴隷にして高く売れる」


「ッ」


 アイリスがもの凄く怒っていた。そんな顔をされても困る。俺は関係ないよ?


「二つ。エルフ族が持つ戦闘力を奴隷にして利用する。彼らは普通の人間より食事をしなくても長く生きられるからコスパがいい」


 原作では実際に多くのエルフたちが劣悪な環境ながらも戦闘兵にされていた。


 それを殺さなきゃいけないアイリスは、徐々に心を病んでいくわけだが……まあこれはいい。


 一番最悪なのは、最後の三つ目だ。


「そして最後の三つ目。エルフ族が持つ秘宝〝精霊の実〟」


「精霊の実?」


「代々エルフ族が守ってきた精霊を生み出す種だ。まだ開花していないが、時期的にそろそろ精霊が生まれる。それを帝国に奪われると精霊が敵として出てくるぞ」


「そんな! もはや冒涜の域では⁉」


 我慢の限界と言わんばかりにアイリスが憤る。


 しかし、これは戦争だ。周りの目を気にしない帝国はなんでもしてくる。


 尊厳も常識も奴らには関係ない。


 精霊を利用し、より大きな被害が生まれる。それを、帝国の連中は望んでいるのだ。




———————————

あとがき。


明日、12月21日(木)に新作を投稿します!

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