第82話 獣人、そして出発
ナナに対する授業は続く。
「それで? なんでそのエルフ族に会いに行くの?」
「ん? ああ、それはまだ説明してなかったっけ」
いけないいけない。人に説明するのが好きなのはオタクの悪い癖だ。しかも、本筋をわざと逸らして遠回しに語ろうとする。
ナナはまだ子供だ。大人びて見えるが知能に関しては相応にね。
そろそろ答えを出さないと集中力も切れるか。
「簡単さ。さっき言っただろ? 帝国との戦争に関係してるって」
「どういうこと? 戦争が起こるの?」
「確実に。俺の予想が正しければ近日中にでも宣戦布告されるんじゃないかな? もしかしたらされないかも。いきなり仕掛けてくる可能性だってある」
「そのために……エルフ族と会いに行く?」
「そういうこと。戦争になったら帝国領と王国領の狭間にあるエルフ族は戦争に巻き込まれる。それを回避し、なおかつこちらの戦力を上げるには、エルフ族を仲間に引き込むのが一番ってね」
「エルフ族は強いの?」
「強いよ~。いまのナナより強い奴がゴロゴロいるだろうね」
「だから仲間にしたいと」
「理由はそれだけじゃないけどね」
ここでエルフ族を救うことで、アイリスの未来のためになる。
それに、エルフ族が滅びる様を眺める趣味は無いよ、俺には。
「エルフ族に会いに行く理由は分かった。私も同行する?」
「もちろん。ナナはアイリスの護衛だからね。万が一のことも考えて、アイリスの傍にいてくれ」
「パパはまたどこかに行くの?」
「んー……それは展開次第かな」
「何かあると」
「可能性としてはね。帝国が何もしないままエルフ族を見逃すはずがない。それに、エルフ族の住む大森林には、他にも生息してる亜人がいる」
「他の亜人?」
「獣人と呼ばれる種族だよ」
「獣人……」
「人間によく似た獣のこと。エルフ族が排他的なら、獣人族は好戦的。力こそパワーみたいな種族なんだ」
そのせいで脳みそ足りないからよく他種族と争って負けることがあるって書いてあったな、原作に。
要するに馬鹿だ。
「その獣人には話に行かないでいいの?」
「行くよ。ただ、こっちからは行かない」
「?」
俺の言葉にナナが首を傾げる。
また遠回しに言ってしまった。
「獣人の方から来るさ。あいつら、エルフ族が嫌いでよく小競り合いしてるし」
「なるほど」
ナナは理解した。
これで亜人に関してはまあ最低限の知識を付けたかな?
「そういうことだから、ナナも準備しておいてくれ。すぐにでも大森林に向かうよ」
「了解。頑張る」
ふんす、とやる気を見せるナナ。
その姿を見て、俺は苦笑した。
▼△▼
数日後。
俺の予想通り、アイリスの提案は国王陛下に許可され、アイリスと俺とナナ、それに複数の騎士が同行して大森林を目指すことになった。
荷物をまとめて、王宮の外に出る。
そこには準備を済ませたアイリスの姿があった。
「おはようございます、ユウさん」
「おはよう、アイリス。元気そうだな」
「ええ。今日は大事な日でもありますからね。頑張ってエルフ族を説得しましょう」
「そうだな。相手がなんか言ってきたら、物理的に黙らせてやるから安心しろ」
「それは普通に戦争になるのでは? エルフ族と」
「連中は傲慢でいけ好かない。ウザかったら普通に潰す。助けてやろうって話でもあるのに聞かない連中が悪い」
原作だとエルフ族は非常に傲慢な種族だと説明されている。
生まれつき大量の魔力を持つ個体が多いからといって、他種族を見下しているとかなんとか。
俺はそういうタイプが苦手——ではないが、今回にかぎっては時間の無駄だ。
言って聞かないなら殴るまで。それが俺のやり方よ。
「ユウさんに任せると、エルフ族の里が消え去りそうなので、最初はわたしに任せてください。精霊に選ばれた者として頑張りますから」
「期待してるよ」
俺だってエルフ族と戦争したいわけじゃないからな。
馬鹿みたいなこと言ってきたら潰すが、簡単に話が進むならそれに越したことはない。
最初はアイリスに任せる。それに異存はなかった。
「じゃあまあ、ひとまず出発しようか」
「はい。ちょうど荷物を積み終えたようですし、準備万端です」
アイリスが同行する騎士たちに話を通し、俺たちは一斉に馬車の荷台に乗り込んだ。
▼△▼
帝国首都。
王宮の一角にて、軍務を預かる男性が一枚の紙を見つめていた。
傍にいた若い青年武官が、首を傾げて訊ねる。
「隊長……その紙は一体」
「これか? 諜報部隊に調べさせたエルフ族に関する情報だ」
「エルフ族……というと、たしか魔力に秀でた者が多い亜人ですね。大森林にいるという」
「ああ。あいつらは王国との戦争の時に邪魔だからな。万が一のことを考えて、奴隷にするか殺さないといけない」
「それで、その紙にはなんと?」
「なんてことはない情報さ。魔獣部隊が練習相手にぴったりだとよ」
「魔獣部隊……最近新設された部隊ですね。では滅ぼすと?」
「一応奴隷になるか訊くらしいが、連中のことだ、徹底抗戦の構えだろう。くくく。馬鹿な連中だ」
男は何度も喉を鳴らして笑う。
脳裏には、エルフ族の絶命する顔が映し出されていた。
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