第80話 復興、そして亜人

 国王陛下の誕生祭から数日が過ぎた。


 数日が過ぎても街中は荒れたまま。転がる魔物の死体。破砕された瓦礫の山。それらの撤去が全く進んでいない状況だった。


「アイリス」


「何ですか、ユウさん」


 王宮内部の一角、俺の自室に訪れたアイリスに、暇潰しがてら訊ねてみる。


「街の復興作業はどんな感じ? まだ進んでないの?」


「見たまんまを語るのなら、まだまだ遅いですね。特に魔物の死体の処理に難航しています」


「魔物の死体の処理?」


「ええ。あれだけ大量の魔物が街中に現れましたからね。しっかりと生き残っている魔物がいないか確認する必要もあります」


「実際に残ってる魔物はいたの?」


「いましたよ。主に小型の魔物が数体。騎士が討伐しているので被害はありません。ですが、そのせいで住民を他の場所に移す必要があったりと、完全に人手不足ですね」


「終わったあとも厄介だな……」


「本当に」


 やれやれ、とアイリスはため息を吐く。


 薄く施された化粧では隠せないくらい彼女にも疲労が溜まっていた。


 アイリスでこれなのだから、国王や現場で働いている兵士たちはどれだけ大変なのか。


 悠々自適に自室でくつろいでいる俺は、少しだけ罪悪感を感じた。


「なぁ、アイリス」


「はい」


「俺も復興作業の手伝いしようか? 力仕事なら得意だよ」


「その必要はありません。手が足りないと言っても、ユウさん一人が増えたところでそんなに変わりませんよ。助かるのは事実ですが、万が一のことを考えるとあなたは姿を隠していた方がいい。素性、バレたのでしょう?」


「……まあね」


 彼女には、誕生祭で遭遇したあの老人のことを話している。


 俺を知る人物。すでに死体は回収してあるが、もしかすると他にも俺の正体を知る者がこの街に入り込んでいる可能性はある。


 正体がバレたところで俺自身に影響は無いが、敵国の皇子を匿っていたことが国民にバレた場合、責められるのはアイリスたち王家。


 噂話でも囁かれている可能性はあるため、俺はこうして王宮から出ることができなかった。


 姿さえ見せなければ、俺がここにいることは誰にもバレないのだから。


「しかし……分からないことが一つ」


「分からないこと?」


「ユウさんの素性を看破した例の騎士のことです」


「老いぼれがどうしたの?」


「老いぼれって……さすがに失礼ですよ、ユウさん」


「ごめんなさい。それで? 何が気になるの」


「その騎士自身です。一度は帝国に裏切られた男が、あえて帝国に手を貸そうとした真意はなんだったのか、と。普通は復讐しようとするものでは?」


「そうだね」


 アイリスの言う通りだ。


 あの老人は騎士団長という任を解任された。


 復讐するか帝国と関わり合いたくない——と考えるのが普通。


 だが、盗賊たちと協力してあの老人は王国を襲った。


 本来、原作では出てこないキャラクターだったが、一体俺がいないことで何が起きたのか。


 少しだけ、予想くらいはできる。


「これは完全に俺の想像に過ぎないんだけど……」


「はい」


「あの老人は、帝国の第一、もしくは第二皇子にでも雇われていたんじゃないかな?」


「帝国の皇子に?」


「報酬は騎士団長への復帰とか言ってね。あの男は実力もあったし、騎士団長の地位に返り咲きたいと考えていたら」


「うーん……信じますかね? そんな話」


「クビを言い渡してきた相手だったら間違いなく断るだろうが、話を持ち掛けてきたのが第一、第二皇子だったら信じる可能性はある。なんせあの二人は当人じゃない。性格も最悪だし、他にも報酬を付け加える可能性はある」


 世界を手にした暁には、相応の地位を与える的なね。


 そうすれば騎士団長なんて小さく見える。


 まあ、俺だったらそんな怪しい提案には乗らないが、なまじあの老人には力があった。


 王都を襲撃するだけなら容易いと考えたのだろう。


 事実、あの老人の実力は、アーティファクトを含めればアイリスより強かった。


 たまたま俺と遭遇して敗北したから良かったものを。仮にアイリスとぶつかっていたら、と考えたら怖くなる。


「外部から人を雇う……もし、ユウさんの話が本当なら、今後は敵が増えるかもしれませんね」


「ああ。帝国近隣にもいくつか小国はある。帝国に怯えて従う可能性はあるね」


 シナリオだと属国が手を貸してより悲惨な結果を招くこともあった。


 それを考慮すると、俺たちはまず戦争前にやらなきゃいけないことが一つある。


 相手と同じだ。戦力の増強をしないと。


「着実に戦争への準備を整える帝国へ、こっちも戦力を増やして対抗しないといけない。このままぶつかっても、勝利した先には何も残らない」


「ですが、戦力の増強は簡単ではありませんよ? いろいろメリットを示さないと」


「俺に提案がある。仲間になってくれるかもしれない存在に心当たりがね」


「仲間になってくれる存在?」


「アイリス、君がキーだ」


「私が……?」


 展開はだいぶ早いが、戦争が始まってしまうなら話は変わる。


 その内行こうと思っていた外の世界に、再び俺は出向く時が来た。




 目的地は帝国と王国の狭間にある森の中。


 そこには、普通の人間ではない——たちが生活している。

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