第79話 羞恥心、そして戦争

 国王陛下の誕生祭。


 そこで犯罪者たちによる大規模な襲撃が起きた。


 当然、祭りは終了。たくさんの人が死に、街中もずいぶんと破壊された。


 首謀者と思わしき者たちはすべて死亡(俺が殺しちゃいましたごめんなさい)。


 情報をほとんど持っていない仲間たちは牢屋にて収容されている。


 そして俺は疲労からかすぐに寝た。


 次に起きたら何をしようかと思っていたが、次に目を覚ました時……目の前にアイリスがいた。


 なぜか彼女も俺の隣で寝ている。


 しばし考えて、理解が追い付かない。


 困惑する俺を前に、アイリスが目を覚ました。


 彼女は俺の顔を見て赤面する。


 完全パニック状態で起き上がった。


「ち、ちがッ! 私はただ、何も……!」


「落ち着けアイリス。俺はよく分かってる。お前のことならよく分かってるから、冷静に説明してくれ」


 ぐるぐる渦巻く彼女の目を見れば、このあと何をしでかすか分からない。


 手でアイリスを制するなり落ち着くよう諭すと、彼女は赤い顔のまま続けた。


「えっと、その……部屋を間違えました」


「言い訳が下手すぎる!!」


 そんな言い訳が通用するはずないだろ!


 先に俺が寝てるのに間違える馬鹿はいない。


 思わずそう言うと、彼女は掛け布団に包まって閉じ篭ってしまった。


「~~~~! も、もう無理です……死にます」


「死ぬな。お前が死んだら王国はどうするんだ」


「ユウさんがいれば帝国との戦争には勝てますよ……」


「俺はお前とさよならするのは嫌なんだが?」


「…………私も、嫌です」


 ぴくりと体が震えるアイリス。


 顔をひょこっと覗かせて俺を見つめる。


「それで? 本当はどんな理由なんだ? 俺の部屋に入って来て隣で寝てた理由」


「うぅ……眠ってるユウさんを見てたら、私まで眠くなって……つい、出来心でした。ユウさんの匂い、なかなか……」


「臭いって……」


 俺の体臭なんて嗅いでも臭いだけだろ。


 なのにアイリスはどこか嬉しそうな表情をしていた。


 男性と女性では感じる臭いに差でもあるのか?


 戦闘のあとで風呂にも入れなかったし、汗臭かったと思う。


「まあいいや。さっさと自分の部屋に戻れよ、アイリス。俺は風呂でも入って来る」


「風呂ですか? さすがに恥ずかしいです……」


「ナチュラルに一緒に入ろうとするな。いいのか? 俺はお前に何するか分からんぞ」


「何するんですか!?」


「食い気味かよ」


 最近のアイリスはどんどん羞恥心って感情を失っているように見える。


 それだけ好意を寄せられていると解釈するべきか、彼女が俺の影響でおかしくなったと自虐するべきか。


 なかなか答えに迷うな。




「——残念。パパは私と入る」


「ナナ」


 いつの間にか部屋の入り口に立っていたナナ。


 いつもの不愛想な顔で俺の手を取ってアイリスににやりと笑いかけた。


「まさかナナに邪魔されるとは……!」


「全員で入るって選択肢はないのか?」


「さ、三人ですか!? エッチですユウさん!」


「なぜ!?」


 確かにエッチなことは言ったかもしれないが、別に入りたいとは言ってない。


 もちろん入りたいけど、いきなり距離を詰め過ぎて俺の理性が持つ気がしない。


 アイリスとは一線を守っている。そのラインは絶対だ。


「とにかく、俺はナナと風呂にでも入って来るから、お前はさっさと自分の部屋に戻れ」


「ぶぅ。分かりましたよ……」


 渋々といった風に頬を膨らませるアイリス。


 その表情も可愛らしいが、俺は無視して部屋を出た。後ろをナナがついてくる。


「なぁ、ナナ」


「ん? なに」


 廊下を歩きながら彼女に話しかける。


「誕生祭での騒動、どうだった?」


「どう?」


「活躍したのか?」


「ぶい。アイリス王女とリコリス王女の手助けをした。結構頑張ったと思う」


「そっか。さすがだな」


 まだ子供なのによく頑張ったと思う。


 彼女がいたから俺はアイリスを託せたし、自由に動けた。


 いつも助けられているな。


「ところでナナ」


「なに」


「本当に一緒に入るのか?」


「二言はない。親子だし普通」


「いや……親子でも十代になったら入らないだろ」


 しかも俺は男性で彼女は女性。


 血が繋がった家族ですら忌避する行いを、血が繋がっていない俺たちがするのもなんだかなぁ。


 迷いながらも、結局は彼女と一緒にお風呂に入ることになった。


 ナナが子供っぽい体付きでよかった。




 ▼△▼




 帝国、後宮。


 皇帝陛下の座する謁見の間にて、集まった貴族や文官たちを前に、豪奢な装いをまとった男——現皇帝は宣言する。


「数々の王国への攻撃を防がれ、認めざるを得ないな。王国は強い。我が国も本腰を入れて攻めるべきだ。貴様たち、準備はいいな?」


「はッ!」


 臣下たちは同時に声を揃えて返事をする。


 すべては帝国と自分たちのために。


 玉座から立ち上がった皇帝は、邪悪な笑みを浮かべて口を開く。


「さあ! ではそろそろ始めようか。王国との戦争を!!」


「うおぉぉぉぉッ!!」


 謁見の間に盛大な叫び声が響き渡る。


 準備を済ませた帝国は、とうとう王国に対する本格的な攻撃を始めようとしていた。


 その手段に——限界はない。

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