第77話 虐殺、そして魔物の群れ

 アイリスたちと再び別れて街中を走る。


 王都のそこかしこで暴徒が暴れていた。恐らくあの老人や虫使いの男たちの仲間だろう。


 見つけ次第殺していく。


「や、やめ——!」


「無理」


 暴徒の首を刎ねる。


 いまさら許しを乞うたところで遅い。武器を振り上げたのはそちらだ。俺は一切の容赦をしない。


 次々に暴徒を殺し、騒ぎの鎮圧を行う。


 遠くではアイリスたちも頑張っているのだろう。徐々に聞こえていた住民たちの悲鳴が治まってきた。


「割と簡単なイベントだったな……被害者にさえ目を瞑れば」


 少なくとも本来のイベント通りに進むよりかは犠牲者が減った。


 アイリスたちが苦戦する敵も俺は倒したし、一番の脅威は俺の手元にある。


 後は……王都に押し寄せてくる魔物たちを殲滅すれば終わりだ。


 そのために俺は王都の外周部へと向かった。


 時間的にそろそろ王都に大量の魔物が押し寄せてきてもおかしくない。




 ▼△▼




 俺の予想は当たった。


 外壁に近付くと、遠くから兵士たちのざわめきが聞こえる。


「魔物がそっちにいったぞ!」


「囲め囲めぇ! 人数を割いてでも確実に殺すんだ!」


「隊長! 奥からまた魔物が!」


「くそッ! 一体どんだけ出てくるんだよ!」


 ——どうやらタイミングばっちりだな。


 地面を蹴って跳躍。三十メートル近い壁の上に着地した。


 周りにいた兵士たちが動揺する。手にした遠距離攻撃用のアーティファクトをこちらに向けた。


 俺は両手を上げて説明する。


「安心しろ、俺は仲間だ」


「嘘を吐けぇ! 怪しい仮面を付けた不審者が! お前みたいな奴が仲間であるはずが——」


「——た、隊長! お待ちください! この方は以前、アイリス殿下と一緒にいた方です。恐らく仲間というのは合ってるかと……」


「なにぃ!? アイリス殿下の知り合いだと!?」


「まあそういうわけだから、頑張って魔物を討伐してくれ。俺は一人でやるから」


 そう言って外壁から飛び降りる。街の外へ。


「お、おまッ!?」


「下りた!?」


 頭上で騒ぎ声が聞こえるが無視だ。


 集まってきた魔物たちの中心に着地すると、その場にいたすべての魔物が俺に反応する。


 腰から剣を抜いた。


「さぁて……死にたい奴からかかっこい。どうせ全員殺すけどな」


「グルアッ!」


 俺の言葉を理解したわけではないだろうが、次々に魔物がこちらに向かってくる。


 俺は最近覚えたばかりの魔力障壁を展開しつつ、老人から奪った魔剣を振るった。




 ▼△▼




「あ、あの男は……一体何者なのだ?」


 ユーグラムが壁の外側へ下り立ってすぐ、地面を見下ろした兵士の一人が呟く。


「お前、あの男はアイリス殿下の知り合いと言ったな。何者なんだ?」


「いえ……俺も知りません。あの仮面を付けていますからよく捕まっているのを目にしただけで……」


「不審者にしては——恐らく強い」


 視線の先でユーグラムが威風堂々と魔物を討伐していた。


 何体もの魔物がユーグラムに近付くが、不可視の壁に阻まれて一切の攻撃が届かない。


 攻撃が届かないとユーグラムには勝てない。そして、勢いが止まったところに刃が振るわれる。


 まさに作業だった。


 ユーグラムの戦い方は、もはや戦いにすらなっていない。


 一方的な蹂躙である。


「こんな状況であのような味方がいるとは……心強いな」


「ええ。おかしな仮面は付けていますが」


 兵士たちは感心するとともに、手にした遠距離攻撃用のアーティファクトを起動。ユーグラムの援護射撃を始めた。




 ▼△▼




「ぐあッ!」


 攻撃用のアーティファクトを持った賊の体を斬り裂く。


 地面に倒れた男を見下ろし、白銀髪の少女アイリスは呟いた。


「少しは静かになってきましたね」


「ですわね。かなりの数の暴徒を鎮圧しましたし、そろそろ終わりかしら?」


「油断大敵。パパがどこかに言ってるなら、まだ油断はできない」


「ナナの言う通りです。ひとまず我々は、一度情報を手にするために王宮へ——」


「——アイリス様!」


 壊れた通りを走りながらアイリスたちに近付いてくる兵士がいた。


「あなたは……」


「よかった! アイリス様に至急お伝えしたいことがあります」


「伝えたいこと?」


「ただごとではありませんね」


「はい。実は……王都南西部に大量の魔物が現れました。その数、およそ数百に及ぶかと!」


「す、数百の魔物の群れ!?」


 さすがのアイリスも驚きを隠せなかった。


 そばにいたリコリスはもちろん、ナナでさえ目を見開く。


「それは本当なんですか!?」


「間違いありません。いまも我々兵士が喰いとめていますが……いつまでもつか」


「ッ! こうはしておりません、急いでそちらの救援に向かいますよ、リコリス! ナナ!」


「畏まりました! 腕が鳴りますわぁ!」


「了解。もしかしたらパパもそこにいるかもしれない」


「ユウさんがいてくれればいいんですが……」


 不安に曇るアイリスの表情。


 しかし、いざ南西部へ向かうと、アイリスは強い衝撃を受けることになる。




 それは——。


 地面を真っ赤に染める地獄絵図。


 ほとんどの魔物の首が切断されており、地面は抉れ、自然は見る影もなかった。


 その中心にぽつんと立つのは一人の男性。


 見間違えるはずがない。




「ゆ、ユウさん……」




 ユーグラム・アルベイン・クシャナだ。

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