第76話 合流、そして驚愕

 王都中央広場。


 噴水のある子供にも人気の場所だったが、いまでは見る影もない。


 石畳の上には数体の巨大な昆虫たちがいた。


 まさにホラーチックな光景である。


 対するは女性三人。


 剣を構えるアイリスたちが虫の軍勢を叩き潰す。


「くッ! 数が一向に減りませんね……一体何体の虫を使役しているんですか!」


「愚痴はいけませんわ! アイリス! わたくしたちが頑張れば頑張るだけ、他の人たちが助かるのです! 気合を入れてください!」


「分かっています! リコリスこそ途中でバテないでくださいね!」


「当然ですわ!」


 リコリスの刃が一瞬で三体もの昆虫を斬り刻む。


 魔力総量こそアイリスに大きく劣るが、こと身体強化においては彼女に匹敵するほどの素質を持つリコリス。


 魔力のすべてを体内に巡らせて効率的に筋力を底上げする。


「あはは! 君たちは何か勘違いしてるみたいだね」


「それはどういう意味ですか」


 アイリスが昆虫を操っている青年へ襲いかかるが、ムカデやらクモやらハチやらが邪魔してなかなか前に進めない。


 その間に青年は上機嫌に語った。


「この王都を侵略しようとしてるのが僕一人だとでも? 仲間がいるに決まってるじゃないか」


「それは分かっています。ですが、この間にも我々の仲間が……」


「ちっちっちっ。甘い甘い。僕たちの仲間にはね、君たちじゃ勝てないような強い人がいるんだ。歳はいってるけど魔剣を使った近接戦闘は僕より強いよ? あのおっさんがいるかぎり、君たちはどう頑張っても勝てない」


「よほどそのお仲間に自信があるようですわね、あなた」


 次から次へと魔物を斬り殺しながらリコリスもまた青年に迫る。


 ナナは速度を活かして複数の魔物を翻弄。隙を突いてリコリスとアイリスがそれらの魔物を討伐する。


「ま、実質的なリーダーだしね、あのおっさん」


「では諦めた方がよろしいかと」


「……なに?」


「私たちを物差しにしてる時点で、あなた方に勝ち目はありません」


「なぜならわたくしたちには、あなたのリーダーより信頼できる仲間がいますから」


「神の御子と呼ばれたアイリス殿下が信頼する仲間ですかぁ? ぜひとも見てみたいなぁ」


「すぐに会えますよ。魔力の反応が近付いてきている」


「は?」


 にやりと笑ってアイリスは動きを止めた。


「どうしたの、アイリス殿下。もしかして疲れた? 楽にしてあげようか?」


「いえ。体力はまだ残ってますよ。しかし……頼れる仲間が来たので、そちらに任せようかと」


「頼れる仲間……」


「——俺、参上」


 アイリスと虫使いの青年の間に、一人の男性が降ってくる。


 音を立てて着地したのは、怪しい仮面を付けた男だった。


 アイリスは笑顔で彼に声をかける。




「遅かったですね、ユウさん」




 ▼△▼




 知り合いの騎士を倒してすぐに魔力の反応が強い場所へ向かった。


 予想通り中央広場にアイリスたちがいた。


 颯爽と、無駄にカッコつけて着地してみたが、どうやら状況は別に切迫しているわけじゃなかった。


 時間さえかければアイリスたちが勝つ。そんな状況だった。


「……もしかして、俺必要なかった?」


 ちらりと横にいるアイリスへ視線を送ると、彼女は首を横に振った。


「そんなわけありませんよ。いいタイミングでした。そこの男性に時間を稼がれてましてね。手を貸してくれますか?」


「別にいいけど……アイリスたちで勝てるなら戦えば——とは言えない状況か」


 よくよく考えたら他での場所でも住民が襲われている。


 目の前の青年をさっさと倒して戦力を分散した方がいいな。


「はい。ですからお願いしますね、ユウさん」


「え?」


 アイリスたちは返事も聞かずに走り出す。


 完全にあの男を俺に任せていった。


「あ! お前ら、待て!」


 青年が立ち去るアイリスたちに虫を差し向ける。


 しかし、虫たちは途中で全身をバラバラにされた。


「なッ!?」


「しょうがないか……どうやら君の相手は俺の仕事らしい。大人しく降参するなら命だけは取らないでおくけど?」


「ふざけるなッ! 逆に僕の前で命乞いさせてやるよ! クソ野郎!」


 更に青年の背後から複数の巨大な昆虫が現れた。


 虫を召喚でもしてるのかな?


 面白い能力だが、どうせアーティファクトだろう。


 青年自身にほとんど魔力を感じない。


「この剣で斬っても大して魔力は吸収できなさそうだな……」


「——そ、その剣は……あのおっさんが持ってた魔剣!?」


「ん? ああ。そういえばあいつの仲間か」


「あのおっさんから奪ったのか!?」


「まあね。俺と相性良さそうだったんで」


「う、嘘だ……あのおっさんが負けるわけ……」


「いやいや……俺に勝てる奴とかいねぇから」


「!?」


 身体強化をして青年の背後を取る。


 虫たちはすでにバラバラに切断されていた。


 青年が俺の動きに反応しようとするが、もうすべてが遅い。


 青年が腰に下げていた剣を抜こうとした瞬間に、その首が刎ね飛ばされる。


 空中で回転しながら地面を転がった。


 最後の言葉すらない。


「さて……あと残りはどれくらいかな? なるべくアイリスたちが向かった方向とは別の方に行くか」


 合流した矢先にアイリスたちはいなくなった。


 それなら後は彼女たちに任せ、俺もまた単独で行動する。

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