第75話 二本の魔剣、そして期待外れ
老人の剣が俺の魔力障壁を貫いた。
——否。
貫いたというより、干渉しなかった、と言った方が正しい。
何の違和感も衝撃もなく俺の肌に刃が届く。
——ギィィィンッ!!
「ッ。硬いな」
老人の刃は俺の服に当たった。
しかし、魔力による身体強化までは突破できなかったらしい。服とは思えない甲高い音が響く。
剣の切っ先は糸一つすら斬れなかった。完全に衝撃が消える。
「なるほど……そういうことか」
老人は地面を蹴って後ろに下がった。
俺は追撃せずに攻撃を喰らった箇所を見る。
「その剣、魔力に干渉しない能力があるな?」
「正解。さすがにバレたか」
身体強化に使った魔力は貫けなかったのに、同等に硬い魔力障壁を素通りした。
そこから導き出される答えは、魔力にのみ干渉しないという効果。
だから肉体や服にまとわせた魔力は無視できても、魔力が起こした強化という現象は無視できなかったのだ。
完全に魔力障壁を無効化するための武器だな。
「大口叩いたくせに魔力障壁に特化しただけの剣か。それでどうやって俺に勝つ?」
「ほほほ。慌てなくてもまだ手はある。想像以上の防御力だが、いつまでそれが続くかな?」
老人はもう一つの鞘から剣を抜いた。
二刀流だ。
二本目も嫌な感じのする武器だった。
「それも魔剣ってやつか」
「そうとも。面白い効果があるからぜひとも味わってくれ」
もう一度老人が地面を蹴った。
正面から斬り込んでくる。
片方は魔力障壁をすり抜けるが、身体強化を貫通するほどの攻撃力はない。
であれば、もう片方は威力が高いのかな?
そう思って魔力障壁を展開したまま相手の攻撃を受ける。
剣は俺の魔力障壁に——ぶつかった。
貫通しない。威力もない。ただの剣……に思えたが、違和感に気付く。
「これは……」
反射的に剣を薙ぐ。
老人は俺の一撃を受け止めてわずかに後ろに跳んだ。
やっぱりか……。
「お前のそのもう一本の魔剣……魔力を吸収するんだな」
「ははっ。一瞬で理解するか。さすがユーグラム殿下。ご名答」
くすくすと老人は笑いながら剣を掲げる。
「この剣は干渉した魔力を吸収してそのエネルギーを蓄えることができる。これがどういうことか分かるかな? 蓄えたエネルギーは私の力として使えるのだよ」
「吸収と放出。ずいぶんと面白い玩具を持ってるな」
おまけにあの魔力障壁を貫通してくる剣。
恐らく魔力を吸収する剣が俺の体に触れると、身体強化に使っている魔力も吸収される。無効化に近いな。
そこへ魔力障壁を通り抜けられるあの魔剣か。
どちらの防御も無意味にすると。
剣が魔力に触れた瞬間、吸収速度が速くて上手く力が出せなかった。
少しだけ厄介な代物だ。
「くくく。これが玩具かどうか、もっともっと試してやろう。相手はユーグラム殿下だ。先ほどの打ち合いでもその魔力量は桁違いだと分かる。ゆえに、これまで何十人もの人間から吸収してきて魔力を解放し、あなたを超えて上げよう。私が次の神の御子かな?」
「賞味期限切れだろうが」
お互いに剣を構える。
老人の方は剣の能力を解放。途端に莫大な魔力が放出された。
アイリスやリコリスの二人を遙かに上回る。それどころか、二人の最大魔力量を足しても届かないレベルだった。
「はーはっはー! これが魔力の極致! 素晴らしいぞ魔剣! いまならすべてを破壊できそうだ! 間違いなく、私が最強だ——!」
高密度に練り上げられた魔力が、巨人のごとき爆発を起こす。
それが老人が地面を蹴ったことで起きた現象だと分かる。
一瞬にして老人が俺の背後に立った。
二本の剣を乱暴に振るう。
「死ね! ユーグラムぅぅ!!」
——ザシュ!
斬れた。
鮮血が舞う。
地面を転がったのは、——老人の左腕。
魔力障壁に干渉しない方の剣を持っていた腕を切断した。
「ぐあぁぁぁッ!? な、なぜ私の腕があぁぁ!?」
「アリ一匹がゾウに勝てると思ったのか?」
たとえ魔力が百倍に膨れ上がろうと関係ない。
たとえ何百人分の魔力が集まろうと問題ない。
すべてを真上から押し潰してやればいい。俺の魔核がアーティファクトごときに負けるかよ。
「一を百回足しても百。億にも兆にも勝てない。正直——期待外れだったな」
ため息を吐く。
あの魔剣を使いこなすには、あの老人はあまりにも凡人すぎた。
「俺を倒せるのは——お前じゃない」
剣が煌めく。
今度は老人の右腕が地面に落ちる。
辛うじて躱したが、足がもつれて痛みに悶える。
その間に俺の剣は更に追撃を行った。
隙ができた老人の心臓を貫く。
一撃だ。
魔力による強化すら俺の前ではしていないのと変わらない。
俺の魔力も吸収していたようだが、ごくごく一部のみ。
魔力が吸収されるなら、吸収されるより多くの魔力を放出すればいい。
相手が魔力を増幅させるなら、それ以上の出力で殴ればいい。
これぞラスボス。
倒れた老人を見下ろし、ぽつりと呟きながら走り出す。
「これじゃ、リコリスを笑えないな……」
俺もまた脳筋だった。
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