第72話 接敵、そして魔力妨害
男たちは宝物庫の一番奥まで足を踏み入れた。
情報によると恐らくそこに目当ての宝が置いてあると思ったから。
しかし、元々何かを置いてあった台には何もない。
ポツーンと台だけが放置されていた。
「ど、どういうことだ!? 黒い水晶っていうのはどこに……」
「なんかあの台、何も置いてなくて不自然だよねぇ。たぶん、元々あそこに置いてあったんじゃない? 黒い水晶っていうの」
「じゃあそれはどこにいったんだ!」
「ミキが知るわけないでしょ! 誰かが持ち去ったと思いますよ~」
「クソッ! 一体誰が……」
ゴリラ顔の男性が舌打ちをしながら地面を踏みつける。
頑丈な宝物庫の床がわずかに砕けた。
「ん~、目当ての物がないのなら、早いとこ逃げませんか? 無駄に時間をかけると、兵士たちが来ちゃいますよ~?」
ジャックが退屈そうな表情で進言する。
苛立ちの残るゴリラ顔の男は、ジャックを睨んでからため息を吐いた。
「……ハァ。しょうがねぇ。作戦変更だ。俺たちは俺たちで暴れる。アイリスの首を取るのは一度やめて、とにかく王国に被害を出すぞ」
「了解」
「はーい」
「私は別にやることがありますけどね~」
ジャック以外の面々が頷く。
唯一関係のないジャックは、ただただユーグラムへの復讐を考えていた。
そこへ、当人がやって来る。
「——お前らの目当てのブツは俺が持ってるよ」
▼△▼
「ッ!?」
宝物庫に忍び込んだ五人の賊が、一斉にこちらに振り返る。
「て、てめぇは……!」
「よう、不審者諸君。まだ道化はやれるかな?」
「なんでてめぇがアレを持ってやがる! まさか意図的に隠したのか!?」
「そのまさかさ。なんとなくこれが欲しいのかと思ってな」
異空間収納できる袋から黒い水晶を取り出した。
それを見た瞬間、連中の目の色が変わる。
ひしひしと殺意が伝わってきた。
「おーおー……やる気満々って面だな」
水晶を袋の中に戻す。
「そんなにあの水晶が欲しいなら、俺を殺して奪ってみろよ。できるもんならな」
「くひひッ。その役目は私のものですよ、少年」
ジャックが一歩前に踏み込んだ。
仲間たちを背にナイフを抜く。
「お前が俺の相手? 面白い冗談だな」
「冗談ではありません。私はあなたを殺すためにこうして彼らと手を組んでいるんですよ」
「金のためだろ」
「最初はね。しかし、いまはもうあなたしか見えない」
「そういう言葉は、後ろの女の子に言ってほしかったかな」
おっさんに言われても嬉しくないよ。
「ぷすす。面白いガキだ。その余裕、必ず剥ぎ取ってあげましょう」
ナイフを構えてジャックが地面を蹴る。
一瞬にして俺の背後を取った。
俺は振り返りもしない。
ジャックがナイフを振る。
ジャックのナイフは、俺の体にぶつかる前に魔力障壁に防がれた。
前も見ただろうに、なぜ無駄なことをするのか。
「やはり魔力障壁を突破できませんか……素晴らしい魔力量ですね」
すぐにジャックは離れた。
ナイフをくるくる回転させながら笑う。
「何が面白いんだ? お前、俺より弱いのに」
「くすくす。それはまだ分かりませんよ? 最後に立っていた者が強者。それだけでしょう?」
「確かにな」
「おい、待てジャック」
「ん? なんですか。早く尻尾を巻いて逃げなさい。あなたたちは別にやることがあるのでしょう?」
「そういうわけにもいかねぇだろうが」
ゴリラ顔の男が斧を手にした。
他の面々もそれぞれが武器を構える。
「……どういうことですか? 私の邪魔をするならあなたたちも殺しますよ」
「勘違いするな。俺たちはそいつが持つ袋に用があるんだ。それを手に入れられれば文句はねぇ。だからここは協力してそいつを倒すぞ」
「チッ。せっかくの機会が……まあいいでしょう。彼を苦しめることができれば充分です」
「五対一か。少しは時間を稼げるかな?」
「ハッ。その減らず口もそこまでだ。さっさとやれ、ジャック」
「はいはい。分かっていますよ」
ジャックはゴリラ顔の男に急かされて懐から小さな棒状の道具を取り出した。
それを起動する。
直後。
「——ッ!? これは……魔力が……」
俺の魔力操作に影響が出る。
上手く魔力を練りあげられなかった。
「くすくす。どうでしょう。これは周囲の魔力を乱すアーティファクトです。上手く魔力が使えなくて困っているでしょうねぇ」
「魔力を乱すアーティファクトだと? そんなものを使ったら、お前らもただでは済まないだろ」
「ご安心を。このアーティファクトは対象を選択できる範囲の狭いものでね。こういう時には便利なんです」
「なるほどね」
つまり、現状魔力が使えないのは俺だけか。
魔力障壁も消えてしまった。
もう一度構築し直すのは無理だな……しょうがない。
「だったらやるべきことは一つだ。剣があればまだ戦える。そうだろ?」
「魔力を相手にどれくらい耐えられますかねぇ?」
ジャックが懐へ踏み込む。
素早くナイフを振り、俺の体を刻もうとした。
それを剣で巧みに防ぐ。
すると後ろからゴリラ顔の大男が斧を振り上げて現れた。
凶悪な一撃が俺の頭上に落ちる——。
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