第71話 事件、そして犯罪者たち
空気を切り裂くような叫び声が聞こえた。
その場の全員が声のした方へ視線を向ける。
「いまのは……」
「女性の悲鳴でしたね。何かあったのでしょうか?」
首を傾げるリコリス。
俺も不思議に思った。
すると次の瞬間、女性だけでなく男性の叫び声まで聞こえてきた。
「——ま、魔物だあぁぁッ!! 魔物が出たぞ——!!」
「魔物!?」
まさかの状況にさすがの俺も目を見開いた。
——どうしてこの時点で街中に魔物が!?
イベントだと魔物が現れるのはもっと後だ。あまりにも早すぎる。
「街中に魔物? どういうことですかッ」
リコリスがたまらず声を荒げる。
そこへアイリスとナナがやって来て、
「ユウさん、リコリス! 急いで魔物を討伐しに行きます!」
と告げた。
俺とリコリスはもちろん頷く。
「分かった!」
「分かりました!」
全員で走って声のした方へと向かった。
▼△▼
走ること少し。
悲鳴を発しながら流れてくる人の波を見つけた。
その最後尾に、大きな犬の魔物がいる。
「あれか!」
「私が討伐します! 困っている人がいたら救助を優先してください!」
「了解。ナナはアイリスについていけ!」
「分かった」
アイリスとナナが中型くらいの魔物の下へ。
俺とリコリスは住民たちの避難誘導を担当した。
住民たちはもう完全にパニック状態だ。
一心不乱に魔物から離れていく。
「皆さん落ち着いて~。魔物は彼女たちが討伐してくれますよ~」
「きゃあぁぁッ!? ここにも不審者がいるわッ!?」
「なんでやねん」
避難誘導していたら、俺まで魔物みたいにビビられた。
走る住民の三割近くがまたしても逆走しようとして、
「ぎゃあぁぁッ! 化け物に挟まれてるうぅぅッ!!」
と騒ぎ出す。
「ユウさん……その仮面、やっぱり外した方がよろしいのでは?」
「どうせ素顔でも騒がれるだろうさ。それに、アイリスたちならあの雑魚くらいすぐ倒すだろ」
「そうですけど……二次被害が生まれてますよ?」
「見ないフリをしてくれ……」
一番傷付いてるのは俺だぞ。
せっかく彼らを救おうと行動しているのに、不審者だなんだと。
もう慣れてるけどさ。
「はあぁぁッ!」
遠くではアイリスが魔物の顔面に剣を突き刺していた。
魔力量が増えたから前より動くが速くなっている。
攻撃の威力も増し、俺の予想通りあっさりと魔物を討伐した。
倒れる魔物を見て、わずかに住民たちの恐怖は和らいだ。
しかし……。
「どうやら向こうの戦闘は終わったようですね」
「ああ。けど、なんで街中にあんな魔物が……」
「普通に侵入できるサイズではありませんね」
「誰かが魔物を手引きした?」
「あのサイズの魔物をですか?」
「サイズは大きいけど雑魚だ。魔物を封じ込めるアーティファクトでもあれば……」
性能は俺が持っているあの黒い水晶より低くてもいい。
それなら世界中にいくつもあるだろう。
そしてそれを使ったのは……恐らく、俺を襲ったあの連中たちだ。
もしくは帝国の兵士たちが紛れ込んでいる。
状況は俺の予想以上に面倒なことになっているな。
「とりあえずアイリスたちと合流して——」
——ドオォォォンッッ!!
言葉の途中、遠くで複数の爆発音と住民たちの悲鳴が響いた。
「ッ! またか」
「今度は爆発!? 一体この王都で何が……」
「目的は人の目をこっちに向けることか」
なんとなく相手の目的が読めた。
街中で騒動を起こし、注意をこちらに向けている間に宝物庫に入ってあの水晶を奪うつもりだろう。
しかし、その水晶はすでに俺の手の中にある。
ここはどう動くべきか……。
「ユウさん! 何やら周りで騒動が!」
「アイリス。分かってる。たぶん、犯罪者でもいたんだろうな。暴動を起こしてやがる」
「すぐにでも犯人を見つけないと!」
「それに関して俺に考えがある。ひとまずお前たちは三人で固まって行動しろ。爆発音や住民たちの悲鳴を聞けば騒動を起こしてる犯人に出会えるだろ」
「ユウさんはどこに?」
「俺はちょっと遊びの誘いをしに行かなきゃいけない。知り合いが来てるだろうからな」
「知り合い?」
「こっちの話だ。くれぐれも無理するなよ。俺もすぐに駆け付けるから」
「分かりました。ユウさんも気を付けてくださいね」
「俺は最強だから平気だよ」
そう言ってアイリスたちと別れて、俺は——王宮を目指した。
俺の予想が正しければ、いまごろ連中が宝物庫へ向かっているはず。
一人か二人か、もしくは全員かは知らないが、犯人は捕まえて情報を引き出す。
たとえ拷問してでも。
▼△▼
王宮の一角。
地下へ続く中央宮殿の中に、複数の男女が集まっていた。
「警備が意外とザルでしたねぇ。こんな簡単に侵入できるとは」
先頭を歩くのは、前にユーグラムに撃退されたジャック。
ナイフを手にくすくすと笑っている。
その後ろを四人の男女が追いかけていた。
「兵士の大半は街中の騒動に目を引かれているだろうからな」
「ぷぷぷ。ミキたちの本命はこっちだっていうのにねぇ」
「…………目当ての物は、もっと奥にある」
苦労して仕入れた情報通りに中央の塔へ侵入すると、彼らはその地下にある隠された通路を見つけた。
大きな扉が立ち塞がる。
「はいはーい。お宝さんの登場だよ~」
ドレスを着た少女ミキが鍵を外し、宝物庫の扉が開く。
山のように置かれた金銀財宝を横目に、彼らはただまっすぐ、奥の部屋へ向かった。
最後の扉を開くと、そこには彼らの目的である黒い水晶が——。
「あ? な、何もねぇだと!?」
なかった。黒い水晶はどこにも。
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