第68話 誕生祭、そして馬鹿

 リコリスが余計なことを言ったから、アイリスにたっぷりと絞られた。


 訓練にも付き合わされ、リコリス&アイリスチームと戦ったり、そこに更にナナが混ざったりと激しい内容になる。


 朝食を摂る前から過激な運動をしたせいで、俺は精神的にも肉体的にも疲れてしまった。




 自室に戻ってベッドにダウンする。


「パパ、疲れてる」


「お前たちのおかげでな~。しばらくは動きたくない」


「休むのはいいけど、そろそろ誕生祭。大きなイベントがくるよ」


「あー……そういやそんなもんあったな」


 俺はアイリスに興味はあってもアイリスの父親には興味がない。


 それに、イベント当日にならなきゃ犯罪者たちも現れないっぽいし、すっかり忘れていた。


 ベッドから起き上がり、真面目に当日のことを考える。


「ナナ、お前に話しておくことがある」


「話? なに」


「誕生祭の当日、俺は別行動を取る。途中までは一緒に祭りを楽しむが、騒ぎが起こるだろうから、そしたら別行動だ」


「私は?」


「アイリスの護衛を頼む。万が一のことを考えてナナをつけておきたい」


「分かった。パパと一緒にいられないのは残念だけど、それが大事なことだって分かってる」


「さすが俺の娘だな」


 聡明で助かる。


 アイリスだけだと最悪死ぬ可能性もあるが、そこにナナが加われば鉄壁だ。


 少なくとも、問題が起きても俺が駆け付けるまでの時間は稼げるだろう。


「でも、なんでパパはそんなこと分かるの? まるで未来を知ってるみたい」


「んー……実はこの前、変な奴らに絡まれたんだ」


「変な奴ら?」


「そ。仮装大会みたいな四人組。そいつらに殺人鬼を奪われてさ。だからきっと誕生祭で仕掛けてくるぞ。俺の予想通りならね」


「よく分からないけど、いつの間にパパは殺人鬼を捕まえていたの?」


「あ、まずそっちか」


 そういえばこの話はアイリスにもしてなかった。


 俺がジャックと戦ったと知ると彼女は心配しそうだしな。


「その殺人鬼にも急に絡まれたんだ。気絶させたらさっき言ったへんてこ集団に絡まれて逃げられた。狙いはアイリスかこの街だろうね」


「なるほど? パパはその対処に行くの?」


「おう。で、アイリスとナナはたぶん、街の外から襲ってくる魔物の相手だ」


「魔物が……襲ってくる?」


「たくさん来るぞ~。それを騎士やアイリスが討伐するから、アイリスの護衛を頼む」


「ん……了解。けどやっぱり分からない」


「分からない?」


「パパがそんなことを知ってるのが」


「秘密」


 ナナにもこの秘密だけは語れない。


 語ったところであんまり意味もないしね。


 それより。


「それより、俺はぐっすり二度寝するからナナはどうする?」


「王宮の中でも探索してくる」


「いいね。後で俺も混ざるからよろしく」


「はーい」


 ナナはぴょん、とベッドから降りて部屋を出ていった。


 それを見送って俺は瞼を閉じる。


 犯罪者たちと出会い、リコリスと出会い、そして誕生祭がやってくる。


 俺は果たして、原作本来の悲劇を回避することができるのか。


 わずかな不安を胸に、意識を手放した。




 ▼△▼




 俺とアイリスの訓練に、新たにリコリス王女殿下が加わった。


 それから数日。


 俺は慌ただしい日々を過ごしながらも、——誕生祭の当日を迎える。




「マジでこのメンバーで祭りを回るのか?」


 ジト目を浮かべる俺の前には、見慣れた面々がいた。


 まずはアイリス。彼女には案内と祭りの説明などをお願いする。


 次にナナ。彼女は護衛でもあるから当然だ。


 そして……リコリス。


 客人である彼女もまた俺たちに同行する。


 彼女たってのお願いだ。


「去年はアイリス殿下と回りましたが、これだけ賑やかなメンバーが揃っているのです。きっとみんなで回れば面白いですわッ」


「それはまた前向きなことで」


 俺は二つの国の王女様と一緒に回るのが恐ろしいよ。


 俺が守る必要がないくらい二人とも強いし。


「とりあえずリコリスは、その背負った大剣を置いていこうか」


「なんですって!?」


「驚くことかな?」


 準備を済ませたリコリスは、背中に身の丈を超えるほどの巨大な武器を携帯していた。


 普通に考えて邪魔だし、女の子がそんな物を持ってたら明らかに目立つ。


 彼女のメイン武装だろうが関係ない。もっと普通の武器を持て。


「周りの住民のことも考えろ。あと目立つ。王族である自覚を持ってくれ……」


「よく言ってくださいました、ユウ様! リコリス殿下はいつもこの剣を持っていくから……お忍びの意味がないッ!」


 メイドの女性がもの凄い形相で力説していた。


 彼女は苦労しているんだろうな……。容易に想像できた。


「ぶぅ。確かにユウさんが仰る通りではありますね。仕方ありません。サテラ、普通の剣を持ってきてください」


「畏まりました」


 リコリスは素直に俺の指示に従い、メイドに武器を変えさせる。


 これで少しはまともに祭りを楽しめるだろう。




 ……楽しめる、よな?

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