第55話 敗北、そして作戦
突如として俺の前に現れた原作のネームドキャラの一人ジャック。
そのジャックをボコッたら、今度は仲間を名乗る見覚えのない道化共にジャックを奪われてしまった。
連中は何者なのか。知りたいことはたくさんあったが、いまはアイリスの下に戻ることを優先した。
「いつまでも帰らなかったから、アイリスが心配するからな」
ふふっと笑って踵を返す。俺は夕陽を背に帰路に着いた。
▼△▼
ユーグラムが王宮へ帰った頃。
ユーグラムを前に逃亡したジャックたち一同は、路地裏の一角で全員が腰を下ろしていた。
「ハァ……ハァ……つ、疲れた……」
ドレス姿の少女が荒い呼吸を繰り返して苦悶の表情を浮かべる。
「なんなのあの仮面の人ぉ! ふざけてるくらい強すぎるんですけどぉ!?」
「まさかジャックを倒した実力が、それでも手加減した状態だったとは……俺たち全員でかかっても10秒持つかどうかだな」
「アイラなんて白目剥いて気絶してるし……ミキたちの中だと一番の防御力の持ち主じゃなかったのぉ?」
「アイラお手製の鎧を貫通してダメージを通すような奴だ、俺たちが喰らったら下手すると即死だな」
「ありえないありえない! ゲロゲロすぎるんですけどぉ」
うげぇ、とゴリラ顔の男性の言葉に、ミキが吐き気を催していた。
もう二度と戦いたくないと思えるほどの力量差が、ユーグラムと自分たちとの間にはあった。
なまじ実力者だけに、彼らは全員がそれを理解する。
だが、
「ひひっ。でもどうする? あの仮面、王族の関係者だろ? だろ?」
「そうだな……あのアイテムを奪う取るためには王宮の奥にあるっていう宝物庫に潜り込まなきゃいけない。潜り込めば確実にまたあいつと戦うはめになるだろう」
「ミキとしてはそれ、絶対に遠慮したいなぁって思いますぅ。次会ったら確実に殺されちゃうよぉ?」
自分たちの目的を達成するためには、どうしてもユーグラムが邪魔になる。
たとえ相手がどれだけ強かろうと、彼らにはとあるアイテムが必要だ。
「たとえ殺されると解っていても戦うしかない。誰かを犠牲にあのアイテムを取りに行くんだ」
「ならミキは回収担当で! 絶対に死にたくないし!」
「元々お前には単純な戦闘能力は期待していない。大事なのは一秒でも時間を稼ぐこと。リーダーである俺が死ねないのはもちろんだが……」
「だったらこいつに任せればいい。それがいい」
ガリガリの男がぴっと指で示したのは、正面に転がるジャック。
それを見てゴリラ顔の男はにやりと笑った。
「なるほどな……たしかにこいつなら失っても別に仲間じゃねぇ。本人もあの男と戦いたがるだろうからな」
「えぇ? ミキは絶対無理だと思いますよぉ? ジャックさん逃げますって」
「適当なことを言ってぶつければいい。内容は考えておくから、お前らは下手なことを言うなよ?」
「りょうかーい」
ぶっきらぼうに答えて、ミキはアイラと呼ばれたフルプレートの女性を担ぎ、ゴリラ顔の男性がジャックを担いで再びアジトへの道を歩き出す。
彼らの頭には、もはやアイリスではなくユーグラムをどうすべきかに作戦が傾いていた。
▼△▼
「あ、ユウさん! 遅かったですね、おかえりなさい」
王宮の正門をくぐって中庭のほうへ向かう。そこにはすでにナナと手合わせをするアイリスの姿が。
彼女も俺を見つけると、手を振って声をかけてくれた。
「よ、アイリス。ただいま。またせて悪かったな」
「いえいえ。ナナがわたしの相手をしてくれましたから」
「ぶい」
びっしりと汗をかいたナナがアイリスの隣に立っている。
ナナの力量はお世辞にもアイリスに届いているとは思えない。どちらかと言うと、ナナにアイリスが協力してあげたと表現するべきだろう。
「偉いぞ~、ナナ。アイリスは鬼畜だから疲れただろ? 俺が代わるから休んでいいぞ」
「誰が鬼畜ですか殺しますよ」
ハイライトの消えた瞳で俺の顔を覗き込むアイリス。その顔怖いからやめてください。
「じょ、冗談だろ? それより次は俺が相手だ。前に教えた魔力の圧縮、その木剣で実戦してみせてくれよ」
「いいんですか? いまのわたしは前のわたしより強いですよ?」
「そういうのは一度でも俺を苦戦させてから言ってほしいね」
「では、遠慮なく!」
にやりと笑みを作ってアイリスは周囲の魔力を吸収した。
いまの魔力圧縮を覚えたアイリスなら、戦い方次第で——精霊魔法を使えばあの時の魔物くらいは倒せるだろう。だが、それでも俺には遠く及ばない。
ラスボスに勝つには100年早いことを彼女にはきっちり教えてあげないと。
俺もまた自らの体内——魔核から魔力を引き上げて木剣に魔力をまとわせる。
アイリスはしばらく魔力の圧縮に意識を集中させ、増加した魔力量を制御しながらこちらに向かって走った。
対する俺は、ただ魔力をまとわせた木剣でそれを迎え打つ。
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