第49話 面倒事、そして公爵子息

「それじゃあ今日はありがとうね、ナナ」


 誰にもバレることなく俺たちは自室の前に戻ってこれた。


 部屋の前でやや眠そうな顔のナナと別れる。


 扉を開けて室内に。鍵を閉めてからベッドに腰を落とすと、今日盗み出したアーティファクトを取り出す。


「さて……これを俺が持っている間は問題ないが」


 次の問題は盗賊たちだな。


 たぶん、相手は宝物庫の位置を知ってる。じゃなきゃピンポイントでこの宝を奪う取ることはできない。


「王宮内部に裏切り者か、はたまた、そういうアーティファクトでも持ってるのか」


 偶然という線も捨て切れない。


 いまはとにかく情報が足りないからな。もし騒動が起こるなら事前に防ぎたい。


 確実な方法としては、盗賊たちを待つだけなら宝物庫の中で待っていればいい。相手のほうが勝手にくる。


 だが、それだとアイリスに忍び込んだのがバレる。


 無くなった時点で真っ先に疑われるのが俺とナナだが、この世界には監視カメラも指紋照合の機械もない。


 状況証拠だけじゃ俺を罰することはできないだろう。


 だから白を切る気まんまんだ。それだけにあまり証拠は増やしたくない。


「盗賊が、自分たちは盗賊だから捕まえてくれ~、とか言ってくれたら楽なのに……」


 黒い球体を袋の中に入れてベッドの上に転がった。


 結局のところ、街中を走り回って探すか、偶然にも盗賊と出会うしかない。頼れるのは自分の運のみだが、あいにくと俺は自分の運に自信がなかった。


 偶然目当ての盗賊とばったり出くわすなんてどんな確立だよ、と突っ込みたいしな。


「しょうがない。アドリブでなんかするか」


 イベントが発生してからでも充分に間に合うだろ。一番の不安材料だったアーティファクトは回収したからな。


 アイリスたちに外の魔物を任せ、俺がその間に盗賊たちを懲らしめればいい。


 そう思えば気は楽だった。


 瞼を閉じて意識を落とす。




 ▼△▼




 翌日。


 当たり前のように部屋の鍵を外して入ってきたアイリスに連れられ、早朝訓練に付き合わされる。


 いつものようにアイリスをねじ伏せた俺は、アイリスやナナとともに学園へ。


 俺の素顔を知る女生徒たちに絡まれながらアイリスの嫉妬を買っていると、そこへ一人の男子生徒が。


 前に絡んできた……なんとか公爵子息くんだ。名前は忘れた。


「おいお前」


「…………」


「おい! お前だそこの怪しい仮面の男!」


「……なに」


 せっかく人が楽しくアイリスたちと喋っていたのに、急に空気をぶち壊してきた。


 冷たく返事を返すと、なんとか公爵子息くんは額に青筋を浮かべながら言った。


「チッ! お前、アイリス殿下の護衛なんだろ? 実力はあるってことだよな?」


「さあ。アイリス殿下が俺のことを実力だけで選んだとは思えないけど。ね?」


「ッ。そ、そんなわけないじゃないですか……」


 アイリスは頬を赤く染めてぷいっと視線を逸らす。


 まるで俺の言葉を肯定しているかのような態度に、ますますなんとか公爵子息くんの表情が歪んでいった。


 元がそれなりにイケメンだったのに、いまではすっかりネタキャラと化している。


「ぐぬぬ……! おい!」


「だからなんだよ……」


「今日の午後、俺はお前に戦いを挑む。絶対に逃げるんじゃないぞ!」


「え? 嫌だけど」


 なんで当たり前のように俺がお前と戦わなくちゃいけないんだ。


 弱い者いじめは嫌いだぞ。


「なぜだ!? 護衛としての力量を示してみせろ! これは命令だ!」


「わたしの護衛に命令を出せるのはわたしだけです。それを承知の上での言動でしょうか、コンラッド公爵子息様」


「あ、アイリス殿下……」


 熱くなったなんとか公爵子息——コンラットくんの表情が青くなる。


 慌てて彼は首を横に振った。


「い、いえ! そういうつもりではなく……」


「ではどういうつもりで?」


 じろりとアイリスの鋭い視線がコンラットくんを貫く。


 彼はたじろぎながらも答えた。


「ただの好奇心ですよ! 俺の護衛とどちらが質が高いのか、と。まさか王族の護衛が敗れたりしないでしょう?」


「どちらが優秀かは、授業でたしかめる事ではありません。それに、どちらでもいいです」


 バッサリとアイリスはコンラットくんの想いを切り捨てる。


 あまりにもボコボコにされすぎてさすがに可哀想になった。


 これから先もあのコンラットくんに絡まれ続けるのは嫌だしな……いまも凄い形相で俺を睨んでいる。


 俺、関係ないのに。


 しょうがない。ここで彼の未練を断ち切ってやろう。同じ男としての情けだ。


「——うん、まあいいよ」


「え?」


「コンラットくんの護衛と戦ってあげよう。俺は優しいからね」


 そう宣言した俺に、アイリスは困惑の表情を見せる。


 逆に目の前のコンラットくんは、獲物を見つけた獅子のような凶悪な顔を作った。





———————————

あとがき。


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