第48話 嘘ぉ⁉︎ そして回収
ナナとともに俺は宝物庫の前にやってきた。
目の前には立派な金庫が。
「このデカい箱の中に宝物がうはうは入ってる。開けられるか? ナナ」
「……たぶんいける」
じーっと金庫の周りを見つめたナナは、おもむろに懐から一本の針金みたいなものを取り出した。
「もしかしてそれで開けるのか?」
訊ねると彼女はこくりと頷いた。
「たしかに目の前の金庫には錠前がある。それで開けられるかもしれないことは俺も知ってる……が」
本当にそれでいいのか元暗殺者。もっとこう、魔法的なもので開けるとばかり思っていたが、実に原始的な方法だ。
それでも彼女は構わず金庫に近づくと、がちゃがちゃと音を立てながら鍵を外そうとする。
正直あんな針金一つで金庫が開くとは思えなかった。俺の部屋の扉とは違う。
あまり期待せずに待ってると——がちゃり。
音を立てて錠前が外れた。
「うそお……!?」
ナナの奴あっさり金庫の鍵を開けやがった。
この子の才能は本物だ。今後金に困ったり、路頭に迷うことがあったら就職先は決定だな。
俺とナナなら世紀の大怪盗にもなれる。
「ぶい。これくらい楽勝」
「マジで凄いよナナ。さすがだ! よしよし」
褒めて褒めてと駆け寄ってきたナナの頭を撫でる。
ぎぃっ、と音を立てて開いた扉のほうを見ると、溢れんばかりの財宝で中は満ちていた。
「くくく……これだけあれば永遠に生活には困らなさそうだな……」
「パパ怖い顔してる」
「おっと。悪い悪い。思わず欲が出てしまった」
これだけの宝を奪ったら、俺は一体何人の恨みを買うことか。アイリスからも殺されそうだなマジで。
「気持ちは解る。わたしも全部欲しい」
「さすが俺の娘……よく解ってるな」
それが元暗殺者や孤児から来る気持ちなのか。はたまた本当に父親の背中を見て育っているのか。
後者だとすると本気でアイリスに殴られそうだ。できればナナの自由意志だと信じる。
「しかし……この中から目当ての宝物を探すのは骨だな」
「たしか一番奥にあるかもって」
「ああ。とりあえず奥にいってみるか」
まずは探してみて、無理そうだったら帰ろう。戦略的撤退もまた一つの選択肢だ。
▼△▼
ナナと協力して目当てのアーティファクトを探す。
アイリスの話では、宝物庫の一番奥に俺の求めている宝は存在する。
周りを囲む山のような財宝は無視して、一本道を進んだ。すると、少ししてなぜか錠前のついた扉がもう一つ。
完全にこの先に要注意アイテム保管中。間違いなくこの向こう側に俺の求めるアレがある。
「ナナ」
「がってん」
俺が前にアイリス相手にやった返事を返すナナ。
またしても針金みたいな小さな棒でこちょこちょこちょ——がちゃん。ありえない速度で宝物庫のもう一つの扉が開いた。
さらに先に進むと……ぽつんと一つの箱が棚に置かれている。
「ッ!?」
ばっとそれを見た直後に、ナナが俺の後ろに下がった。
体が震えている。この距離からでもあのアーティファクトが放つ不吉なオーラを感じ取ったらしい。
彼女の頭に手を置いて言った。
「やっぱりここにあったな。あれが俺の目当てのアーティファクトだ」
「あれが? もの凄く嫌な感じがする……」
「中に超強いモンスターが封印されているからな。いまのナナが戦ったら即死するぞ」
「パパは勝てる?」
「当然」
この時点のユーグラムが出せる出力でも充分に討伐できる。そもそもユーグラムが勝てない相手など作中存在しないのだからな。
ナナを後ろに下げた状態で俺は箱に近づく。
黒い箱だ。中身はなにも見えない。それに触れて持ち上げると、箱の中には予想どおりの球体が。
模様もなにもない真っ暗な球体。やや黒いくらいの水晶玉を予想していたが、想像以上に真っ黒だな。
「これが……」
「ああ。今後盗賊たちに奪われるかもしれない代物だ。アイリスでも勝てないような魔物が封印されている。そんなもの街中で使われでもしたら大惨事だろ?」
実際、原作だとこれが使われて多くの死傷者が出た。俺もそれを見て「なんて展開だ! 酷過ぎる!」と思ったくらい。
街も壊滅的な打撃を喰らうし、ここに残しておく理由はなかった。どうせ他の連中もこれを確認しに来たりはしないだろう。
黒い玉を収納用のアーティファクトの中に入れた。
「これでよし。もう安全だよナナ」
「ん。体の震えが止まらなかった」
「それが解るだけでも優秀な証拠だ。凄いねナナは」
彼女の頭を撫でながら来た道を戻る。
さて……これでシナリオに問題を起こすアーティファクトは回収した。
残りは外からやってくる大量の魔物と、王都内で暴れまわる盗賊たちの件だが……どちらも原作知識があっても情報が少ない。
イベントが発生した時にはすでに全てが完了していた。時期しか読めない以上、そこから推測しつつ手を回していくしかないな。
特に後者の盗賊たち。前者の魔物は予測がほぼできないから、止めるなら間違いなく盗賊たちのほうだ。
自室に戻りながら静かに考える。
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